軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「日本よ」(石原慎太郎)に思う

今朝の産経新聞トップの、石原都知事が担当する「日本よ」は、日本の安全保障について、深く考えさせられる内容であり、興味深く読んだ。
産経新聞を読んでいない人のために「イントロ」を引用するが、「時間的、空間的に狭小となった今日の世界では、近隣の外国の趨勢が自国に大きな影響を与える可能性は多大となった。その視点で考えればアメリカ国防総省が『彼らに脅威を与えている国などありはしないのに、極端な軍事力拡大を行いつつある中国の姿勢は不可解』といっているように、太平洋の覇権まで目指して軍事大国になりつつある中国の今後の在り方は日本の近未来を左右しかねぬ要因をはらんでいる」。
 そして「米ソ対立の冷戦構造の頃にはソヴィエト機の北の領空侵犯の度に日米両空軍のスクランブルが繰り返されていたものだが、日本の国民にさしたる危機感などありはしなかった。それは相対的に眺めてアメリカの国力の圧倒的な優位への信頼感によったものだったが、これから日本に到来しようとしている事態はかってとかなり違っている。それは何といっても同盟国アメリカの国力の衰退と世界での孤立化という要因によるもので、それへの冷静な認識無しに我が国の安全の確保はありえない」という部分が続くのだが、同感した。
 勿論、かっての冷戦時代に、日米両空軍が共に『スクランブル』をしていたのではなく、一人航空自衛隊スクランブルを担当し、米空軍は「対ソ反撃訓練」に明け暮れていた、というのが事実だが、間違いなくその頃の国民は『さしたる危機感など』抱くことなく、バブル景気に踊らされていた。つまり「キリギリス」だったのである。
 ソ連の最新式原子力潜水艦『D型』が、日本海からオホーツク海に入り、米ソ間が極度に緊張した時でさえ、同盟国だった日本はどこ吹く風。ソ連原潜が我が国の領海内を強行通過しても時の政府は『無害通航』で意見を統一し、「領海を一時的には侵犯したが」結果的には「無害航行」だったから、『事後通告を容認する』と発表したことさえあった。ソ連原潜による「オホーツク海の聖域化」を阻止すべく、米海軍は躍起になっていたのだが、「メルカトル症候群」に罹っている日本政府にはその意味が理解できず、あろう事か、友軍の原子力潜水艦の日本の港湾への入港に対する左翼活動家の「反対活動」をマスコミともども“容認”していたのであった。
 昭和60年8月、ソ連オホーツク海で大々的な核潜水艦による大演習を実施したが、直ちにこれに反応した米海軍は、12月に空母カールビンソン、ミッドウエーを中心とした2個空母機動艦隊を動員した「第2次世界大戦以降最大規模」の演習「フリーテックス85」を実施し、津軽海峡を抜けて日本海に入り、ソ連沿海地方に対する強烈な圧力をかける一方、分遣隊は宗谷海峡を抜けてオホーツク海に入り、ソ連原潜に対する制圧作戦を縦横無尽に展開した。
 その後、この強大な機動艦隊は、対馬海峡を抜けて九州南端を廻って日本列島を周回したから、ソ連は日本侵攻作戦を断行すれば、米軍の強烈な反撃を受ける、と理解したに違いない。まさに「日米同盟の強固さ」を、米海軍の直接的行動で示したものだったのだが、それを報じたのは産経新聞だけであった。
 大方の日本人はそれでも目を覚ますことなく、惰眠をむさぼっていたので、業を煮やした時の国防長官・ワインバーガーは「ソ連が道北制圧を狙っていること」を告げ、「その抑止に日米協調を」と呼びかけたのだが、日本政府は、日本の防衛予算が「必要最小限に過ぎない」という長官の発言から、防衛費増大を要求する「防衛庁への協力?発言」と受け取ってなんら反応しなかった。当時の新聞を見るが良い。「防衛費6・58%増で決着(東京)」「防衛費は6・58%増[来年度予算](朝日)」「防衛費の伸び6・58%(毎日)」と大きな見出しが各紙に躍っている。
 あれから既に20年、双方共に人は変わり時も流れた。石原都知事が指摘したように、冷戦に勝利した米国は、軍を25%カットしたが、その最中に湾岸戦争テロとの戦いが発生し、皮肉なことに軍縮しつつ「非対称戦」を戦うという窮地に陥った。
 ソ連邦も「解体」して、その軍事力の「組織的活動」は低下したと判断できるが、その虚をついて軍事力増勢に励んでいるのが中国である。
 北朝鮮のミサイル危機と拉致問題のおかげ?で、日本人の半数?近くが目を覚ましつつあるというが、拉致なんぞ「他人事」というのが本音、北のミサイルだって「一発落ちれば日本人は必ず目を覚ます。是非金正日に日本本土に撃ちこんで貰いたいものだ!」と豪語する人に限って、「自宅周辺には落ちない」と思い込んでいる。まだまだ日本人の大半は、私に言わせれば「平和ボケ症候群」から脱却してはいない。
 石原都知事は、以前から、横田基地返還に熱心だったが、共同使用を考慮させる過程で、米軍のお家の事情に気がついたらしい。もともと、米軍は「反戦・反米団体」である[労働組合]が牛耳る航空管制組織に、米空軍の補給活動の拠点たる「横田基地」という首根っこを「解放」する筈がなかった。勿論、沖縄という「極度に反戦意識過剰な」場所にある「戦闘力発揮基盤」である嘉手納基地の航空管制も、解放する筈はなかった。万一解放すれば、緊急時における米軍の軍事活動は極度に制約されるし、何よりも「軍事行動情報」が[敵に]筒抜けになる。
 しかし、石原都知事の尽力?でか、横田基地の共同使用も話題に上りだしたし「沖縄県民の負担軽減」という「平和ボケした軍事音痴たち」の要求を真摯に受け止めたとは思われないにしても、沖縄海兵隊を中心とするグアム移転や沖縄所在戦力の「軍縮」にも米国は手を付け出した。米軍の「その変化」をどう受け止めるか?
 石原氏は「戦争はいかなる美名の下で行われても所詮生命の消耗戦に他ならない。そしていかなる戦争においても最後は地上部隊の生命が最大の消耗戦に晒される。そしてアメリカの軍事力で最も劣悪なのは、第4軍としてある海兵隊は別にして、陸軍である」というが、日本防衛にとって、その最後の砦である海兵隊の主力は沖縄から「撤退」する。韓国からは既に撤退中である。その、我が国周辺の軍事的「空白状態」を埋めるように、「友好国!・中国軍」が増強しつつある現実をどう認識すべきか?
 憲法に束縛されて「超法規」でしか戦えない[自衛隊]の実情を、米国は十二分に把握した。国家指導者たちが「同意した」普天間基地返還問題も、既に10年以上何ら進展していない。今更…、米軍は匙を投げつつある。あるいは完成した暁には、中国空軍機が使用することになる?と読んでいるのかもしれない。ガダルカナルの「ヘンダーソン飛行場」のように…。
 国民は自国防衛よりも、快楽におぼれ、儲け話に躍起になり、現代日本人は期待した「侍の末裔」ではないことも良く理解した。国内の盛り場を見るが良い。未来を担うべき青少年たちが、乱れきった生活におぼれ、大人たちは何ら指導することもなく、むしろその「若い性」を買っている有様…。
 その上、米国が将来の「仮想敵」と目している中国の言い分に唯々諾々と「承服」して、国に命を捧げた「英霊」さえも儲け話のためならば唯々諾々として裏切る政治家たちの群れ。そんな“みすぼらしい精神状態の国”と「同盟」を組むことの「恐ろしさ」に、米国は気がつき始めた、と見るのは考えすぎだろうか?
 いずれにせよ、2008年1月には米国大統領は交代する。そして台湾総統選挙は2月、就任式は5月、8月には北京オリンピックが開催される。「北京」と「上海」との紛争状態は、日に日に熾烈化しているようだから、無事開催されるかどうかは不明だが、台湾周辺をめぐる何らかの事態は、石原都知事が危惧しているように、必ず起きると見て差し支えあるまい。
 日本国民の「目覚め」を期待する以外にない、というのも、気の遠くなるような話ではある。