軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

映画「砲艦・サンパブロ」所感

 たまたま、スカパーの映画番組を見ていたら「砲艦・サンパブロ」を上映していた。
私は、平河総研のHP「甦れ美しい日本」で、「大東亜戦争の真実を求めて」と題して、その背景を探る読書を続けているのだが、ちょうど今、「平和はいかに失われたか(ジョン・アントワープ・マクマリー原著。アーサー・ウォルドロン編著。北岡伸一監訳。衣川宏訳:原書房)」を読んでいる最中であったから、この映画を興味深く鑑賞した。マクマリーは、1881年生まれの米国外交官で、このメモランダムは1935年に書かれたものである。ワシントン会議以来の極東情勢とアメリカの政策を振り返り、何故、いかにしてワシントン体制は崩壊したのかを分析し、戦争が近づいていると警告、アメリカの採るべき政策を論じたものだが、不幸にしてそれは採用されず、アメリカは中国側に付き日本との戦争に踏み切った。
 マクマリーメモランダムは、1920年代の中国国内の「混乱」を正確に描写している。そして中国人そのものの性格も浮き彫りにしているのだが、ルーズベルトとその側近たちは、意図的か否かは別にして、中国側からの「工作」に乗り、中国を支援する。
 その裏にはキリスト教団体・特に伝道師協会が暗躍?しているのだが、「砲艦・サンパブロ」は、その状況を克明に描いている。
 若いころのスティーブ・マックウィーンが主役という古い映画だから、あるいはご覧になった方も多かろうと思う。大尉を長とするサンパブロ号の乗組員たちは、中国沿岸地方を哨戒しつつ、米国人たちの保護に当たるが、その中心には「伝道師グループ」がいて、マックウィーンとの仄かな恋愛物語を生む女性伝道師も登場する。
 中国国内は共産主義思想が蔓延し内戦に明け暮れているが、国民党軍が各地に進出して、一応米国人の「保護」を約束しはするものの、現地ではそうは行かない。裏切りと謀略が横行し、艦長は苦悩する。
 とりわけ秀逸だったのは、自国海軍兵士を侮蔑する「在中国の米国人商人たち」の姿である。彼らは中国人商人たちと結託して、自国の海軍水兵たちを嘲るのである。どこか現代日本企業家たちに通じる様に思われ興味深かったが、伝道師たちの方は「キリストの教え」を信じ、「国旗」を掲げる海軍砲艦こそが、平和を乱す象徴だといい、自国海軍の「保護」を断るから、極めて厄介な存在として描かれている。
 彼らの保護の任務を与えられた艦長は、自らが大陸内部の伝道所まで進出して、牧師を説得するが言うことを聞かない。いたずらに≪人類愛≫を強調するのだが、そこへ国民党軍兵士たちが乱入して来る。≪人類愛≫を信じる牧師は、そんなものを全く信じない≪兵士たち≫に向かって「説得」しようとするが、敢え無く一撃の下に射殺される。
 わずか艦長以下4人しかいない米海軍兵士たちは、包囲された中を女性伝道師を保護し脱出を図るが、敵をひきつけるために城内に残って応戦した艦長とマックウィーンは事切れる。包囲網を突破した二人の兵士と女性が山野を懸命に逃れている映像にかぶせて、砲艦がもうもうと黒煙を上げて下流に脱出しているシーンで終わるのだが、3人が無事に砲艦に収容されたか否かは分からない、という筋書きである。
 途中から見たため前半部分が分からないから、いずれ改めてじっくりと見てみたいと思うのだが、1927年3月末に第一次南京事件が発生したころの物語であり、映画はかなり忠実に米国の心情と中国の当時の様子を表現しているように思った。
 しかも、この映画は「台湾」で撮影されたとあったから、「本物の国民党軍兵士」も賛助出演したのだろう。地で行く演技でなかなか迫力?があった…。
 マクマリーは、南京事件について「揚子江下流域に勢力を広げながら、蒋介石軍が意気揚々と南京に兵を進めてきたとき、この軍隊の一部が、指揮官の命を受け、外国人の全財産を没収し、これに遭遇した外国人住民を攻撃した。このため、若干の負傷者と6人の死者(英・米・仏・伊)が出る結果となった。アメリカ領事とその家族は、避難してきた他の諸国の人々と一緒に領事館を追い出され、南京市の郊外を通って揚子江上流の丘の上にある一軒家に追い詰められた。米英の砲艦が艦砲射撃で襲撃者を追い散らし、やっとそこから救出された」と書いていて、訳者注には、「この艦砲射撃により、南京の中国市民にも多数の死傷者が出た。日本は、南京駐在領事・森岡正平の臨機の判断が功を奏し、日本居留民に死者が出る事はなかった。また外国側の攻撃に日本は参加していない」とある。
 マクマリーは「この暴行から受けた衝撃で、中国国民党の行動は、理想主義的信条を追及することだけではなく、それに付随して危険な風紀の頽廃や外国人への憎しみを作り出すものであり、それを指導者は統制できないし、またするつもりもないであろうことが、ある程度理解されるようになった」と控えめに書いている。
 
 今朝の産経新聞は、一面トップで安倍総理が「8日に胡錦濤主席と会談の意向」と掲げ、記事の中では安倍首相が「私はまだ何も決断していないのに、何故訪中が決まったかのような報道が先行するのか]と強い不快感を示し、麻生外相も「日本があせる必要は全くない。きっちり中韓の思惑を見極めるべきだ」と周囲に語った、と報じている。
どうも閣内、及び周辺の「不発弾?」が暗躍しているように思えてならないが、北京政府は事あるごとに我が国に対して「歴史に学べ!」とゲンメイする。その「教え」にしたがって、マクマリーメモにあるような「中国国内事情」などをよく「学ぶ」必要があるのではなかろうか。
北京派と上海派の派閥争いは、1920年代の「共産党」と「国民党」の勢力争いに酷似している様に見える。
我が国の新時代を担う「ホープ」である新首相には、「砲艦・サンパブロ」の艦長や、マックウィーンのように、国民党軍兵士や共産かぶれ学生たちの[凶弾]に倒れないようにしてほしいものである。


 ところで、「ユダヤ人救出」に関しては、コメントはもとより色々な方々から情報を頂いた。昨日は「―ナチス時代のハルビン・神戸・上海―≪日本は何故ユダヤ人を迫害しなかったのか≫ハインツ・E・マウル著。黒川剛訳…扶養書房出版」(2004年1月出版¥1800+税)が届いた。著者は1937年生まれの元ドイツ連邦空軍将校で、在日ドイツ大使館付き武官の経験もある。この著作は、彼の博士論文らしいが、十分読み応えがありそうで楽しみである。各方面からの、色々なご助言に厚くお礼申し上げたい。これもインターネット時代の≪恩恵≫だろう。