軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

“金体制”の崩壊を憂える!!

 昨日は香港ケーブルテレビの取材を水交会で受けてきた。若い台湾出身女性ディレクターは、日本の憲法改正防衛省昇格、中台情勢、歴史認識などなど、矢継ぎ早に質問してきたが、日本国の憲法改正問題も、庁が省になることの意味も、勿論歴史認識についても、若いだけあって十分に知識があるわけではないから、その根本を解説するのは骨が折れた。しかし、自分の国の危機を認識しているだけあって、真剣そのものだったのは、水交会近辺の「竹下通り」を徘徊する日本人青年男女とは雲泥の違いがあった。放映後、DVDを送ってくれるそうだが、通訳を通じた意思の疎通という点からも、彼女達がどのくらい日本の実情を認識したかを確かめたいと思っている。

 さて、6者協議は米国の大幅譲歩にもかかわらず、北朝鮮側のかたくなな態度で「不発に終わった」という認識が強まったが、そんなことは既に予見されていた筈である。私も昨年12月24日のブログに「6者協議に見る“米国の衰退”」と題して少し書いたが、要するに「人質を取って立てこもる強盗団を、6カ国の警官隊が包囲して“説得”して居るようなもので「現金を渡すから武器を捨てて欲しい」と警官隊に説得されて、人質に突きつけた武器を強盗団が「放棄」すれば、この手の米国映画に良く出てくるシーンから明らかなように、結果は明白であることを強盗団は先刻承知である。
 強盗団の唯一の交渉権は「彼らが持っている武器」にかかっているわけだから、決して彼らはそれを手放すまい。手放すにしても、安全地帯に逃避してからであることは“常識”である。そんなギャング映画の本場である筈の米国が、このところやけに“動揺”して“主演俳優”がシナリオから逸脱して、素人目に見ても右往左往していたのだから、同盟国であるわが日本は、これは“監督の指示”なのかどうか疑問を持ち、この国に本当に頼っていいものかどうか?、と各方面で疑問が生じていた。
 主演男優のヒル氏が「オスカーを狙っているかどうか」はいざ知らず、やはり米国内にも批判が出てきたらしい。財務省国務省間の「役所間の主導権争い」かどうかは知らないが「不発」後の記者会見でコメントする彼の声が上ずっていたのは興味深かった。
 今朝の産経新聞は、北朝鮮側については「『資金奪還』にこだわり協議無視」「強気一貫北“独尊”」「金総書記の意向?『意地』の無言帰国」と書き、議長国・中国には「メンツ丸つぶれ」という見出しを掲げ、米国側については「6者協議休会 核問題前進なし」「米誤算隠せぬ失望」「譲歩空振り、交渉見直し論も」「高濃縮ウラン議論先送り」という見出しで解説した。
 私は経済問題は素人だが、BDAにも都合があることだろう。一方的に米国から指図されても、米国の銀行でない以上、それなりの思惑もある。単に手続き上の問題だけかもしれないが、唯々諾々と米国に従うことによる企業?としての損失も考えているのではないか?
 そんな中、日本側は「日本『拉致進展』譲らず」として、核問題については何らかの進展は「あるだろう」と見ていたが、「拉致問題での協議を事実上拒んだ先の日朝国交正常化作業部会でも不誠実な対応を見せた北朝鮮への反発と戸惑いが広がった」という。「反発」は分かるが、本当にわが外務省は「戸惑った」のだろうか?記者の勝手な感覚で記事を書いてもらっては困る。拉致に限らず、かの国に「誠実さ」など求められないことは先刻承知のはずであり、だから我が国は「拉致問題解決なくして北への支援には応じない」という毅然たる態度で今まで突き進んできたのではなかったのか? 安倍首相は「(北朝鮮が)こうした姿勢をとっても全く意味が無い。合意にのっとって彼らが行動することが大切だ。国際社会は緊密に連携を取り、一致して対応していくことになる」と記者団に語ったが、全く同意である。戸惑ったのはむしろ米朝両国ではなかったのか?
 今回の6者協議間の「どたばた劇」で、米国には失望感が広がり、北朝鮮は資金奪還に失敗?し、議長国の中国はメンツ丸つぶれだと産経は書いたが、一人日本だけは全く軸線がぶれず、規定方針通りに対応したことによって「外交上大きなポイントを上げた」と私は見ている。東京基督教大の西岡力教授は「米朝蜜月は見せかけ」と断じ、「凍結資金の即時返還要求など北朝鮮のわがままを今回、米国が聞き入れてしまったことは大きな間違いだ」と書いたがこれにも同感である。しかも「ならず者国家」指定も解除した。
 ブッシュ大統領は任期切れを控えて聊かあせっているように感じるが、そこを突かれて「どたばた劇」を演じてきたようだ。今回、米国はやっと酔いから醒めたのか、はたまた、彼らの大戦略だったのか?、いやいや、大慌てでBDAに圧力を加えて速やかに資金を振り込ませる気なのか、まだ先行き不透明だが、平和ボケ著しいわが日本国にとっては、もう少し「金体制」を温存するように配慮して欲しいものである!
 万一、このまま北朝鮮の核保有問題に決着がつけば、我が国以外の5者、特に米国は半島問題から手を引きかねない。そうなれば我が国最大の懸案事項である「拉致問題解決」はおろか、憲法改正という、戦後日本改革の一大事業も、頓挫する恐れが出てくる。
 ならず者国家北朝鮮」には、せめて我が国の憲法改正が終わるまでは、日本国民の緊張感を維持するためにも、今しばし生き延びて貰いたい!ものである。