軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

どうにもならないニセモノ文化

 参院補欠選、統一地方選の結果を見て、ある人が「日本人はまだまだ捨てたものじゃない」と言った。福島は「民主の穴」を埋め、沖縄は「保守」が獲得した。地方の話題の都市では、長崎が「市役所職員」、夕張は「会社社長」が制し、「政治と同情・趣味」とは異なることを印象付けた。いつも思うのだが、ぎりぎりのところで、我が国民はうまい選択をするものだなあ、とつくづく思う。まだまだ捨てたものじゃない!

 ところで、今朝の新聞もテレビも、中国のモーターショーの「ニセモノ騒ぎ」を面白おかしく報じているが、茶化しているだけではこの問題は解決しない。「知的財産権」問題は、欧米諸国にとっては死活問題である。化粧品や婦人のブランド物バッグ、DVDなどなど、挙げれば枚挙に暇がないが、大物では車である。昨年の上海モーターショーは、「コピーショー」と言われたほどひどかったが、今年は「控えめ」だそうだ。
 10年前に北京を訪問した時、街中を走るオートバイは勿論、電気製品、光学製品、食品まで「ソックリさん」だらけで驚いたことがあった。特に「HONDA」のオートバイは[HONGDA]というネーミングのソックリさんで、日本人でも気がつかないくらい精巧であった。案内人に聞くと「これは東南アジアで引っ張りだこで、外貨をたくさん稼いでいます」と得意気だった。その分「本家」が稼ぎを奪われたのである。
 7年前、桂林市郊外の観光地でのこと、梨をかじっていた土産物屋のおばさんが店から飛び出してきて私に「小型双眼鏡」を手渡し、「これ日本製、上等!」と言ったが、良く見るとメーカー名は「Canon」ならぬ「Canona」とあった。「こりゃひどい!」と通訳を通じておばさんに文句を言うと、日本製だ!と頑として聞き入れない。そこで通訳が「この人たちは日本人だよ」と言ったとたん、おばさんは私の手から双眼鏡をひったくって店に戻り、何事もなかったかのように梨をかじった。通訳が私達を「他の土地から来た中国人観光客と間違えたのだ」と笑ったので、仲間の一人が「冗談じゃない、ラフな格好はしていても日本人たる教養がにじみ出ている筈だ!」と怒った。
 通訳は「この国ではコピー製品は絶対になくなりません。国民がそれを期待しているからです。しかし政府はそうはいきません。外国からたたかれるからです。そこで官憲は、外国の怒りが高まったところで、一斉にマスコミを集めて『コピー製品をブルドーザーで踏み潰すショー』をします。大体5,6年に一度くらいそれをして、外国に取り締まっているような姿勢を示します。役人もコピー商品で潤っていますから、絶対になくなりはしません。これはもう中国の文化そのものです」と言った。そういわれてみれば、18日の産経新聞7面下に、「知的侵害、弱気の中国」と題して、押収したコピー製品をブルドーザーで潰している写真が出ていた。「中国の知的財産権局などは、17日、昨年、全国の税関で押収された知的財産侵害貨物が総額2億元(約30億円)以上にのぼったことを明らかにした」として統計を公表したが、「会見で王自強・国家版権局報道官は『世界で版権侵害がもっとも深刻なのは(中国ではなく)カナダだ』などと不満を訴えた」と云う。民族性が現れていて実に面白い。
 今朝の産経2面上には「“精巧さ”競う上海モーターショー」として、「クルマ模倣『形』から『部品』へ」「隠れた偽者ぞろぞろ」と書いた。露骨な模倣は米国を中心とした非難でやや影を潜めつつあるが「逆に部品やロゴマークなどの分野ではむしろ増大している」と云うから恐ろしい。広州ホンダ広報担当は「最大の悩みはユーザーが安い模造部品を買い、故障を起こすケースが増えていることだ」と嘆いていたが、本物がニセモノの事故で責任を追及され高額な賠償金を請求されるのではたまったものじゃない。「米国内で流通する模造品の80%は中国製だという」から、米国も何らかの対策を考えているに違いない。“日中友好”を掲げる日本政府は大丈夫だろうか?
 一昨年、蘇州奥地の観光地で、どう見ても農家の主婦と言ういでたちの婦人が、ロレックスなどの高級腕時計の模造品を入れたかごを下げて私に近づき、日本語で「これ本物、安いよ」と声を掛けてきたことがあった。ニセモノ時計の売り上げで家族を養っているであろう、その苦労が現れた婦人の顔を見るとつい気の毒に思ったが「私、安い物嫌い、高いもの欲しい」と云うと怪訝な顔をした。通訳してくれた中国の研究者がバスの中で「先生、あのニセモノ時計の機械は日本製ですから、結構優秀です。私も時々お土産に買います」と言った。
 私の「絶頂!」を見たある女性も「先生は中国製の毛生え薬を買いましたか?」と聞いてきたから、「あんなもの絶対に信用しない」と云うと、「先生は正しいです!」と言って大笑い。「昔日本で流行ったあの毛生え薬の中身は何だと思いますか?」と聞く。「適当な漢方薬を混ぜただけの水だろう」と答えると、「揚子江の水をつめただけです。揚子江はすごく汚染されていて、いろんな薬品が混ざっていますから、薬らしく見えるのです。日本人がたくさん買いに来ましたから、私の友人はあの水でお金持ちになりました!」と笑った。これが本当の「水商売」だ!
 確か商品名を「104」?とかいったような気がするが、それもさらに「コピー」だったのだろう。遠藤周作氏が、これ?を使ってかぶれたことがあったと記憶する。
 とにかくなんでもコピー、なんでも金に結びつける生活意欲には脱帽する。しかし、みやげ物売りのおばさんがコピー商品を売るのや、偽の毛生え薬で自分が苦しむのはまだ笑い話で済むが、国家の基幹産業の中心をなす自動車と部品じゃ大問題だろう。最も、騙される方がはるかに悪いと言ってしまえばそれまでだが・・・