軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

不名誉な任官拒否者

 7日夜は、NPO岡崎研究所のフォーラムが開かれ多数の出席者で賑わった。李登輝台湾総統が来日され、靖国神社参拝のあと講演会が計画されていたから、「股裂き状態?」になった方々が多かったが、双方共に盛会だったのは喜ばしかった。恒例になった岡崎理事長の「情勢判断」スピーチでは、さすがに会場はシーンとなって皆さん聞き耳を立てておられたが、イラク問題始め国際情勢が極めて流動的な中にあって、この“夏”は、我が国の政治情勢を如何に安定させるかが問われている緊要な時だと痛感した。朝日新聞共産党などが、憲法改正阻止に「なりふり構わず」血道をあげている理由もわかろうというものである。私も、久々に多くの友人知人にお会いして情報交換できたのだが、なんとも驚いたのが「コムスン」問題であった。
 厚労省が「訪問介護最大手のコムスンが事業所指定の不正取得で指定打ち切りの行政指導を行った」ことは、いまや連日のニュースになっているが、コムスンと親会社であるグッドウィル・グループが「事業を譲渡する」と発表したことに対して、山口日商会長が「人材派遣・請負最大手のグッドウィル・グループが子会社、コムスンの全事業を別の子会社に譲渡する方針を決めたことについて『明らかな違法行為。法的に止められないとしても、社会的には許されない』と厳しく非難した」と産経は報じている。
 今朝もこの問題でワイドショーは賑わっているが、インターネットを検索してみるとよい。多くの有名人達が、かっての『ホリエモン』同様、この会社を持て囃しているではないか!
 しかもこの会社の社是は「弛まぬベンチャースピリット」だそうで、その下に「お客様の立場に立て、究極の満足を与えよ」「物事の本質を見抜け、雑音に動じるな」「スピードは力なり、変化をチャンスと思え」「正しくないことはするな、常に正しい方を選べ」などという、いまや白々しい「10訓」が掲げられている。
 企業や経済問題に疎い私にとっての関心は、このグループ会長が「昭和59年03月:防衛大学校理工学専攻 卒業。昭和59年04月:日本ユニバック〔株〕〔現日本ユニシス(株)入社」と記載されているところにある。
 つまり、彼は“有名な任官拒否者”だったのである。逆算すると防大21期生になるのだろうが、陸・海・空のどこの要員であったかは知らないが、間違いなく貴重な国民の税金を4年間使い、平然と“任官拒否”して民間企業に入社したというから、当時から税金を利用して太ることに長けていた“確信犯”なのであろう。
 その後、日商岩井に入社、「ジュリアナ」「ヴェルファーレ」「グッドウィル」などの企業を手がけたというから、よくもまあ、こんな遊び人を防大が“国費”で育てたものだと嘆かわしくなる。
 その昔、幹部学校戦略教官時代に、防大生の学力追跡調査で防大を訪問したことがある。そのとき、防大正門を少し外れた場所に立派な施設が建っていたので「校外クラブが新設されたの?」と聞くと「任官拒否者がこれ見よがしに建てた豪邸で、ほとほと困りきっています」との答えだった。
 つまり、卒業後国民を裏切ることなく任官して、過酷な訓練に耐え、制服自衛官となっても将官になれるのはせいぜい数人・・・と聞くと、憲法違反の身では、背広を着て“野に下りたい”と思う学生がいても致し方ない情況であったし、我々の時代には、激しい訓練で身体に障害を受けたものは、今更退学しても民間で使えないから、時の校長の温情で防衛庁が責任持つて「制服を脱いで私服の官僚」として“引き取る”制度が生まれたのだが、その後、彼らの“異常な?”昇進ぶりに仲間内では「俺も身体が悪ければなあー。つい頑健だったばかりに昇進が遅れたよ」と皮肉をこめて慨嘆する“制服組”が出たこともあった。それは、4年間の学生時代を通じて、互いにその成績や人柄を熟知しているのだから当然のことであった。
 そんな環境だったから、私が青春を燃焼した剣道場の裏手に忽然と聳えるこの“豪邸”が、若い青年達に与える「悪影響」は計り知れないのではないかと心配したものである。
 それが彼の屋敷だったかどうかは知らないが、全員がそうだとは言わないまでも、「任官拒否者」がうまい汁を吸っていると非難されるのはこんなところにある。
 私は現役時代、特に教育課長時代に、任官拒否が問題になった時に、“任官拒否者”が一様に「負債」を背負って生活するのはいかがなものか、と問題提起し、任官拒否者には「4年間かけた費用を支払う義務を与えるべきだ」と進言したものである。そうすれば、初めからそれを「目的」で入校した者であっても、国民に対する負債は返済したことになるから、晴れて国家のために寄与できるではないか、と思ったのである。
 しかし防大を管轄する当時の防衛庁の考え方は違っていた。もし、返還制度をつくれば「金さえ払えばいいことになるので、卒業時に堂々と任官拒否して民間に出る者が増える」だろうから、幹部養成計画が成り立たない、というのであった。確かにそれは一理ある。しかし敢えて言わせて貰うと「負債を国家に返納したあと」には「防衛大卒業者」という肩書きが残るに過ぎない。
 この肩書きは、確かに一般的には「興味深い」肩書きだし、何よりも大企業にあっては、入校時の「身辺調査」が徹底しているから安心して採用しやすいという利点はあるだろう。しかし、その他に何が「彼らの利益」になるだろうか?むしろ正々堂々と、防大教育の成果を民間で発揮してくれることは、同窓生としても嬉しいことではないか!と思ったのである。
 我々のころは、陸海空合わせて530人養成していた。例えそれが卒業時に430人になっても、不足分は一般大卒業生から「補填」すればよいのであって、同期生が減った分「将官枠も広がる!」という利点もある・・・?
 冗談はさておき、今回のような、まさかと思うような“同窓生としては極めて不名誉な彼個人の問題”は別にしても、国税に関する厳しい国民の目を考えれば、防大恒例?の“任官拒否者”に対する対策を真剣に考える必要があると思う。