軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

シビリ・アンコントロール?

 市から、老齢健康診断受験票が送られてきて、初めて受診した。午前中に市内の比較的大きな病院に行くと、40名ほどの御老人が待っていた。現役時代は毎年立川基地で、一泊二日で厳密な航空身体検査を受けたものだが、民間人?となって初めての受診は意外にスムーズ(簡単?)で、血圧も正常だったから一安心、結果は月末に出るという。杖をつき、あるいは妻に支えられながら、診察を受けている老齢の患者達を見ていて、いつまでも「青年将校気取り」であった私も、とうとうその仲間入りをする歳になったか!と、なんだかわが身と我が国の将来を暗示しているように思ったが、考えてみるとこれほど「福祉行政」が充実した国は珍しいのではないか?
 
 さて、防衛省の次官人事が漸く解決したようだ。退官して既に10年経つ私に、「これは一体どうしたことですか?」などという電話がかかってきて聊か迷惑だった。唐突に発生した次官交替劇、その上歴史始まって以来?の女性大臣、話題性は十分だったからマスコミは飛びついた。しばしマスコミに話題を提供したあと、漸く「首相裁定」で決着したようだが、なんとも見苦しい。
 5年近くも次官に座っている守屋氏に対する、問題を抱えて少しも進展しない「沖縄」勢力からの軋轢だ、とか、大臣と次官の人間関係だ、とか、外野は面白おかしく「脚色」していた。
 結局、小池大臣が推す警察庁出向組みの西川官房長と、守屋次官が推す山崎運用企画局長との争いだったようだが、“足して3で割って”増田人事教育局長に決まったという。

 私のつたない体験から見れば、防衛庁は創立以来他の官庁からの出向組みの「草刈場」で、常にそのトップである次官ポストは、大蔵省からの“天下り”官僚が占めてきた。
 私が広報室長時代、日航機事故救助活動を巡る自衛隊活動に対する「いわれなき非難」に反論したとき、朝日の記者から売られたけんかを買った『広報室事件』が起きたことは既に書いたが、時の次官は大蔵出身で、次期候補に漸く「防衛庁プロパー」が浮上していた。いつも他官庁の「風下」に立たされているプロパーは、切歯扼腕していたが、防衛予算獲得上は、次官が大蔵出身者であることの「メリット」が、それらを封じこめてきていた。
 そして、漸く「悲願」が達成されるときが来た!と思われていたこのとき、予想を裏切ってこの次官は留任を続け、大蔵出身の後輩であった時の官房長を後任に決定したといわれたものだが、今回と同様な流れの中、政治問題化した「広報室事件」を巡って、官僚間で確執があったのだ、と後である記者から聞いたことがある。
 日航機事件を上手く利用されて“敗北?”したプロパー組の失望は大きかったが、その後漸く期待の星が次官に就任したが、教えてくれた記者の話を裏付けるように、前任の大蔵出身次官とプロパー次官との年齢差、つまり、後任のプロパー次官のほうが官僚としての“出身年次”が古かったことがそれを物語っていた。
 そんなところからも防衛庁内には「省昇格」熱望論があったのである。
 今回、プロパーの守屋次官が、防衛省の「テリトリー」を死守すべく、後任にプロパーを推していたことは十分理解できる。念願の省に昇格した「防衛省」のトップに、何故他省庁からの出向組みがつかねばならないのか?これは防衛のプロとしての彼らの誇りを傷つける事態であったからだろう。その結果、山崎氏は小池大臣の“リーク?”でマスコミに知られ、今回の確執のとばっちりではずされ、漁夫の利を得た?のが増田氏ということになるのだろうが、喧嘩両成敗的な、ある種の“無責任な”次官人事は、今後にしこりを残すような気がする。次官になった増田氏は、昭和50年入庁組の56歳だからである。
 51歳の安倍首相が、周りを取り囲む『大先輩方』の影響力を無視できず、自己の信念さえも曲げざるを得ない弱い?立場であることを思うとき、若い増田次官が軍事のプロ達をどうさばけるか?これは一種の賭けだろう。
 女性大臣が古来男の仕事!であった軍事をどう裁くかはさておき、いずれにせよ、この国の「軍事担当官庁」の実態を、国民は垣間見たことになる。PKOや湾岸戦争イラク派遣などで、自衛隊という武装集団が、諸外国の軍隊と比較してどのような実力を持っているのか、については、それなりの評価が定まっているが、シビリアンコントロールを強調してきた割には、我が国の政官界の実情は全くこの程度なのだという危機感が、国民の間に芽生えるか否か?それともこの問題も単に「安倍政権批判の道具」としてしか捉えられないのかどうか?

 周辺事態は急激に変動している。南北朝鮮間の「予期せぬ?」事態も近々起きそうである。6者協議も米国の態度は北に甘い。中国は、次々に発生する国内問題解決とオリンピックの開催に中国共産党の「政治生命」をかけている。他方、独立運動が盛んになりつつあるウイグル地区牽制のための「上海協力機構」の軍事演習にも熱を入れている。台湾は、いよいよ国会議員、総統選挙に向けて真剣に動き出した。いつ何が起きても不思議ではない状況が、我が国周辺を取り巻いている。
 そんな環境であることを「防衛白書」で認めているにもかかわらず、防衛大臣と防衛次官との確執を面白おかしくマスコミに取り上げられているこの国の実態は、創設以来50年余、「●●の一つ覚え」のように唱えられ異常なほどの制限を自衛官に加えてきた「シビリアン・コントロール」の実態がが、実は「シビル・アンコントロール」状態だったことを証明しているように、私には思えてならない。
 24万の自衛官は、今回のごたごたを冷めた目で見ているに違いないが、忠誠を誓うのは国民であることを再確認し、有事に備えた「ミリタリーコントロール」だけは確立しておいて欲しいものである。

中国の黒いワナ (別冊宝島Real 73)

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再現 南京戦

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これだけは伝えたい 武士道のこころ

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