那覇空港での中華航空機炎上事故は、間一髪乗客・乗員が脱出したあとで、人員に被害がなかったのが幸運だった。駐機場に進入直後に炎上するという稀有な事故だったが、飛行中、着陸進入中の火災だったら“惨事”になっていただろう。
今朝の産経新聞25面に、整備員二人が「燃料漏れ」を発見し迅速に対応したとある。
「41番スポットで待機していた中華航空の整備士が、機体から燃料が垂れているのを発見し、整備を委託していたJTAの補助整備士に伝えた。直後にJTAの整備士が右翼第二エンジンから煙が出ているのに気づき、インカムマイクを機体に接続して機長に連絡。併せてエンジンの停止と消火装置の作動、緊急脱出を要請した。直ちに4箇所の脱出用シューターが出され、165人全員が90秒以内に機外へ出たという」
これが事実だとしたら、整備員の対処は見事である。任務を自覚し、よく訓練されていたからであろう。
「乗客が90秒以内に脱出できたのは、その前に何かの兆候があったからで、そんなに迅速に脱出できる筈がない」と解説していた航空評論家がいたが、この整備員の通報で、直ちに機長が処置し、乗員が適切な誘導をしたのだと思われる。乗客が整然と脱出出来たのは、多分、着陸滑走中に「機体がまだ停止しないうち」から、降りる準備をしていたからであろうし、少なくともその心構えが出来ていたからに違いない。乗客が次に取るべき行動は「降機行動」であった。
しかも「幸いなこと」に、そのほとんどが台湾人と日本人乗客だったから整然と行動したのであろうが、これがどこかの国であったら押し合いへし合い、大混乱していたに違いない、と私の経験から思った。
それはともかく、航空機にとって「燃料漏れ」は致命的である。飛行中のエンジン火災などは計器版に「警報」として示され取るべき適切な手順が定めてあるが、戦闘機の場合では火災が消火できない場合は「ベイルアウト」しか残されていない。しかし、警報器が誤作動する場合だってある。火災の証明は本人以外誰もしてくれない。
以前、小松沖にF-15DJが墜落したことがあったが、火災を感知したのはパイロットただ一人だったから、目撃証人がいないため脱出生還した彼は調査官に相当“苛め”られた。しかし、小松管制塔の管制官が、墜落直前に火災らしい兆候を見ていたこと、回収された残骸の一部に火災のあとのこげた物品があったことが決め手となって、彼の証言は裏付けられたのであったが、誰も見ていない高空で起きた場合には、パイロットは実につらい立場におかれるものである。勿論メーカーは甚大な損害を蒙るので、自分の非を認めることは絶対にしない・・・。人的ミス、または死人に口なしが、他の全ての幸福につながる・・・
一方、整備員の行動で大事に至らなかったことも多数ある。以前もこのブログに書いたが、夜間ファントム戦闘機の落下タンク点検口が外れ燃料が噴出したとき、自らの片腕を噴出しているアナに差し込んでこれを阻止した隊員もいたし、夜間飛行に出発直前のT-33の胴体下面に僅かな「濡れ」があることが気になった整備員が、タクシーアウト直前に再度胴体下にもぐって確かめたところ、胴体継ぎ目がまた濡れている。僅かに滲んだ程度だったのだが、彼は手袋を取って手のひらで確かめ、臭いを嗅ぐとJP-4(燃料)である。
彼は這い出して直ちにパイロットにこれを告げ、エンジンを停止した途端、胴体の繋ぎ目付近から「どっ」と燃料がこぼれたことがあった。調査の結果、燃料パイプにこすれたあとがあり、ごく僅かなヒビがあって、胴体内部に燃料がこぼれていたのだが、エンジンをかけた途端、圧力がかかって急激に漏れ出したことがわかった。
これは普段の点検箇所ではない胴体下部を整備員が“たまたま撫でた”ことがその端緒だったのだが、気がつかずに訓練していたら、離陸直後に空中爆発していたかもしれなかった。
飛行隊長時代、こんなプロ魂を持った整備員たちにどれほど助けられたことか!しかし、これを上司に報告して彼を「表彰」しようとすると、組織がなかなかそれをさせてくれない。「彼の技術レベルからその程度の発見は当然のことだ」とか、「今期の表彰枠がない」などというのが通例だった。
飛行隊長だった私は、これにかまわず直ちに表彰したり、全員の前で彼を賞賛したのだが、命がかかっているということを「事務方」は意識しないのである。
今回の事故調査で原因は突き止められようが、もう一つ深刻な問題があることを、日本人は気づいていないだろうからここに書いておくことにする。
沖縄方面の航空自衛隊の基地は那覇にしかない。官民共用飛行場なのである。そこで万一、この手の事故で滑走路が封鎖された場合、沖縄の航空戦力は全く役に立たなくなる恐れがある。官民共用飛行場の重大な欠陥はそこにある。将来、南西方面が緊張してきた場合、相手国かテロリスト達が、民間機を那覇空港の滑走路に「自爆」させたら、航空自衛隊がF-15Jを何機配備していようとも宝の持ち腐れと化してしまう。
今回の事故から、下地島の使用や、嘉手納基地の共用確保は急務だと思うのだが、小池大臣は気がついただろうか?それとも中華航空機炎上事故は、我が国の航空戦力発揮の脆弱性を浮き彫りにした、と考える私のほうが「軍事ボケ!」と揶揄されるのだろうか?
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