軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

自民総裁選が浮き彫りにしたもの

 日曜日、午後から東京の秘境といわれる桧原村を家内とドライブした。五日市街道に「迂回指示」が出ていて、狭い川沿いに誘導されたが、原因は「お祭り」だった。街道の両側に屋台が立ち並び、山車が引かれ大勢の人たちで賑わっている。日本の原点に触れたようで心が和んだ。桧原村もお祭りで、男衆と子供達が上り坂を懸命に山車を引いている。家々に飾られた祭り提燈が実に良い。
 道路の両側は深い木立に包まれていて、奥多摩周遊道路の上り口手前の数馬に「兜屋旅館」という民宿がある。築200年を越える兜作りの母屋は実に風格がある。たまたま出てきた老婦人から「縁側に腰をかけてゆっくりお休みなさい」と声を掛けられ、言葉に甘えて家内と座ると、飴玉とお茶の接待を受けた。自然水を薪で温めたお湯で出すお茶は実にまろやかである。母屋の裏手では釜戸でご飯が炊かれていて、子供の頃にタイムスリップした。
 老婦人は「嫁に来た頃は道もなく、全て自給自足、今でも薪が豊富だから燃料には困らない」という。
「冬は雪で大変でしょう」と聞くと、「昔は縁側の高さ(約50cm)までよく積もりました。学校が休校になるかどうかは、鉛筆を雪の中に突き立てて鉛筆が隠れると休校でした」と教えてくれたが、私が「測定用の鉛筆は短く削っていたのでしょう」というと、声を出して笑われた。御年88歳だと言うので今度は家内が驚いた。病気一つしない健康さは、自給自足の野菜、山菜が中心だったからでしょうとの事。
 すぐ下の一角にある秘湯・蛇の湯温泉たから荘で一風呂浴びることにした。正に秘湯、野趣満点だったが、待合所の片隅に、この民宿の先々代の肖像画と写真が掲げてある。陸軍曹長・機関銃手、大陸での戦功大、各種の表彰と叙勲があったが、記録簿に「左大腿部盲貫銃創、昭和19年末マラリア罹患」と記録されていた。
 真面目実直な人柄は、写真の人相から伺える。戦後復員してこの宿を切り盛りされ、商工会長などからの表彰状も多い。お孫さんが後を継いでいて、叙勲や軍服姿の肖像画の話をすると嬉しそうだったが、最近のお客さんは関心がないようですといった。この辺りは武田方の落ち武者の謂れも多く、ここは菊姫が逃れてきたが病で没したところだという。僅か半日だったが、忘れていた日本人の心のよりどころを思い出した一日だった。

 家に帰るとテレビは総裁選で持ちきり。敬老の日はゆっくり読書をしつつ時々ニュースを見て過ごしたが、「あれっ」と思うことがあった。日テレ24は、福田・麻生の街頭演説状況などを「淡々と」流しているのだが、他局と比べると何と無く違和感がある。福田氏の演説内容は空疎で、当選後の内閣の陣容も不明。それに比べて麻生氏は、はっきりした目標を明確に述べているから、明らかにこの6年間、前線を離れて隠居していた方と、現職外務大臣などとして世界を飛び回っていた方との現状認識の差がはっきり出ている。そこで二人が演説しているときの場の雰囲気が知りたいのだが、画面からはさっぱり伺えないのである。レポーターが聴衆の個人にインタビューをすると、婦人は福田氏を、男性は麻生氏が多いような気がするのだが、解説では圧倒的に福田氏が優勢だという。デスクが情報操作しているのではないか?と思ったのだが・・・
 最も国政選挙ではなく、自民党内の選挙だから、街頭演説の効果よりも、党内派閥の「結束」が票の行方を左右するのだろうから、既に決まったも同然なのかもしれないが、ブログを開けてコメントの中の情報を観察したところ、何と、読売の幹部達が、媚中派自民党と手を組んで、情報操作をしている、というニュースが話題になっていた。
 さもありなん、ジャーナリストの水間氏がつかんだ情報で、私も個人的にちょっとした情報を得ていたのだが、水間情報の信憑性は高いと思われる。反自民の「朝日」に気を取られているうちに、販売部数を「誇る」読売が、古い体質の自民幹部と組んで“画策”していると言うのである。
 今回の総裁選で、私は福田氏を支援する派閥は、加藤紘一氏に代表される親中派が結束している事に間違いないから、これで自民党内の安倍総理に対する「抵抗勢力」の実名が明確になったと見ている。福田氏支持派の詳細を、国民はよく観察し記憶しておくべきである。
 ところが気になるのは小泉氏の態度で、産経によると「出ない!」と明言した後、「中川氏(前幹事長)から電話で福田氏擁立の打診を受けた小泉氏はきっぱり「いいんじゃないか。福田氏ならば最前線に立ってやるよ」」と言ったという。その意味がどうも分からない。小泉氏が「最前線に立って福田氏を応援する」というのか、「福田氏ならば・・・やるよ」という意味なのか、どうも分からない。
 テレビでは、小泉氏が福田擁立に廻ったから、チルドレンは一斉に福田氏についたと言っているが、小泉氏は、以前自らの総裁選出馬のとき、「古い自民党をぶっ壊す!」と宣言して、圧倒的な支持を得て就任した筈。それが今回、“旧態依然の代表的な存在”を擁立するというのだから腑に落ちない。あのときの「叫び」は何だったのだろう? 彼の「改革」は一体何だったのだろうか? 単に郵政民営化して、来月から400兆もの郵便貯金を米国にプレゼントすることが目的だったのだろうか?そうだとすれば、やはり変人奇人・裏切り者のそしりは免れまい。国民は騙されていたと言うことになる。
 どうも今回の総裁選の裏には何かが臭う。23日の総裁選では案外「サプライズ」が起きるのではないか?誰かが陰で何かを操作しているのではないか?マスコミの“手玉”に取られた福田氏が、ずっこけたりして・・・?
 しかし、眼の黒いうちは絶対に麻生を総理にしない!とテレビで力説していた陰の実力者もいた。今回の総裁選にどう絡んでいるのだろう? 
 選挙の結果、自民党内の「水と油」がはっきりする。どちらに転んでも自民党は分裂する公算がある。それで小泉氏の「目標」が完成するのかもしれない。“音なしの構え”の民主党内には、福田氏支持派と袂を分かった組と手を取って「大連立」に走る構想が生まれているのではないか?公明党と組む必要もあるまい・・・。そうだとしたらまだ望みは少しあるが・・・
 我が国の政治環境が戦後最悪に陥るか、それとも戦後レジームからの脱却が開始されるキッカケになるのか、安倍総理がそこまで考えて行動していたとすれば、お見事の一語に尽きるのだが。
 明日夜は、塚本元民社党委員長のお話を伺う予定だが、大いに楽しみである。