軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

秋の公開講座

 帝京大学八王子キャンパスで、秋の公開講座が開かれることを知り受講してきた。講師は防大先輩の志方俊之氏で、演題は「大丈夫か、日本の危機管理」であった。
 通常300人ほど入る立派な教室で80名を超える方々が聴講したが、ほとんどが御老人、しかし実に熱心だった。
 志方先輩の話は、豊富な資料をパワーポイントで次々に表示しながら、自分の体験談を織り交ぜるので興味が尽きない。10時半から12時半までの講義はあっという間に終わり、質疑に入った。
 質問が続くので、係りの方が質問がある方だけ居残りを指示し、解散したのでやっと解放されたが、それでも志方氏のそばには10人ほどの方々が残って「質疑応答」が続いていた。

 頂いた大学の資料には勿論「軍事学講座」はない。せいぜい「国際関係」の分野なのだろうが、法学部教授である志方氏の講義は、この部屋が満席になるほどの盛況だという。
 そのうち4割が女子学生。聞くと「帰宅して父と話すとき、先生の講義の受け売りをすると父がのり出してくるから」という。いわば家庭内のコミュニケーション確立を狙った受講?らしいが、それでも非常にいいことだと思う。
 教壇前の数列は、身なりがよく、正しい日本語をしゃべり、講義を熱心に聴く学生が“占拠”するらしいが、彼らは中国の留学生だという。
 志方氏が靖国問題などを逆に質問すると、理路整然たる回答が返って来るそうで、それに比べて日本人学生からは「チョーヤベー」などという“現代感覚?”の回答しかないらしい。
 元方面総監だった志方氏にとっては、訓練された自衛隊員に代わって、自由人たる学生さん相手だから何かと気苦労が多いのだろうが、こつこつと危機管理、安全保障問題を説き続けている姿に敬意を表したい。
 教室を出てエレベーターに乗ると、参加者のご婦人が連れに「あんなに多くの自衛隊員が国外に出て活躍していることは知らなかった」といっていたが、防衛省の広報活動の不足が気になった。最も、私が広報室長だったときも、なかなか真実の報道をしてもらえなかったし、活躍よりも事故や不祥事が記事の焦点だったから止むを得ない?ところでもある。しかし、自衛隊は国民の財産である。
もっと実態を知らせるように双方が努力して欲しいと思う。その意味でも、このような大学での「公開講座」は非常に有益だと思う。 
 実は私も来月、拓大で公開講座を受け持つのだが、果たして志方氏のような効果的な講座を実施できるかどうか・・・。しかし、貴重な機会だから、大いに広報?してこようと思っている。

 さて、デモ隊鎮圧に出動したミャンマー軍が、長井さんを射殺したことについて、やりすぎだという意見があったが、平和でやさしい日本人が住む島国だけが地球上に存在しているのではない。
 これほど治安が確立し統制が取れているから、不倫姫や賭けゴルフが趣味の方々でも国会議員が務まるのである!。
 今、中国では、江沢民前主席一派による「中国史上最大の金融スキャンダル」が問題になっていて、おそらく来週から始まる全人代では、胡錦濤主席の権力完全掌握が話題になるのであろう。
 この国の軍隊は、人民解放軍とは名ばかりで、共産党が人民を統制するための武力機構である事を忘れてはならない。胡錦濤主席が軍を完全に掌握したらしいが、胡錦濤主席がとなえた「和諧社会創設」が、今回の党大会で「科学的発展観」という戦略思想に変化したということが気にかかる。その意味するところは何であろうか?
 全人代を控えた北京市内は警戒が厳重で、デモなどは一切不可能だというし、ミャンマー弾圧事件に関しては、相当注意が払われていて、一部のメディアが報道したに留まったが、掲載された写真からは「長井さんの横に銃を持ち立っている兵士および逃げ回っている大勢の民衆の部分が全てカットされている」という。こんなことを日本でしたらメディアの自殺だと大変な問題になるが、4万人を11万人と報道してもさほど問題にならない国柄だから、ある意味共通項があるといえばそうかもしれない。
 しかし、日本以外では、大規模集会などでは必ず暴走を防ぐための“警察”と“軍”の監視が徹底しているのであって、中国でも天安門事件で明白だったように、ミャンマーでのデモ行進の中にも相当数の軍関係者が私服で潜入していたであろうことは常識である。
 その上出動したのがビルマ族に反感を持つチン族主体の部隊だったというから、それは既に計画されていたといっても過言ではない。「外国のジャーナリストや国民に銃を向けるなんて、そんなことは考えられない」と思い込んでいるのは日本人だけで、お隣の韓国でもフィリピンでも、通用しないということを学んで欲しいものである。長井さんの服装も、いきり立っている兵士には外国人ジャーナリストだと判別できたかどうか疑問であろう。
 その意味でも、イランで麻薬密売人?につかまった大学生も典型的な「戦後日本人」だったといえよう。危機管理を教育する志方教授に対して「自分の命は自分のもの。先生にかまってもらう必要はない」と言った学生がいたそうだが、志方氏は「君はそういうけれども実際に死んでご覧。君は体格が良いから君の死体を運ぶのに二人はいる。大き目の棺おけも調達する必要がある。検視には医者が必要、その後棺おけに入れる必要があるが、その中にはドライアイスを相当入れなければならないだろう。そしてそれを君の家まで運ぶ必要がある・・・。君が勝手に死んだだけでこれほどの手と金がかかるのだ。かまってもらいたくないと思うなら死なないことだ」というと、黙ってしまったという。
 イランでは、一人の日本人学生による勝手気ままな国外旅行によって、イラン政府の方針が変更を余儀なくされつつあるし、日本外務省では、高村大臣が疲労で倒れた! 本人にはどれだけ他人に迷惑をかける行為か、後にならないとわからないだろうが、そんな「先見性」と「結果推定」も出来ない学生が増えるのがこの国の危機管理上の大問題ではないか?そういえば、教室から出て駐車場に向かう間、土曜日にしては学生達がキャンパス内に大勢いて“アベック”で秋の一日を楽しんでいたが、どう見ても高校生くらいにしか見えなかったのが気になった。私が年を取ったせいだったのだろうが・・・

 デモ隊と銃の使用については、平河総研の「甦れ美しい日本」今週号に、元中方総監だった松島悠佐氏が専門的見解を書いているから御参照いただきたい。とまれ国の安全保障や危機管理よりも、年金と福祉、自己保身が大事だと思っている国会議員が多いことも、若者達の誤解を招いている原因のような気がする・・・

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