軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

特措法は地球より重い!

「1977年9月28日、パリ発羽田行きの日本航空機472便(DC-8、乗員14名、乗客137名、犯人グループ5名)が、経由地のインド、ボンベイ空港を離陸直後、拳銃、手投げ弾などで武装した日本赤軍グループ5名によりハイジャックされた。同機はバングラデシュダッカ国際空港に強行着陸、犯人グループは人質の身代金として米ドルで600万ドル(当時の為替レートで約16億円)と、日本で服役および拘留中のメンバー9名の釈放を要求し、これが拒否された場合、または回答が無い場合は人質を順次殺害すると警告した」
 これはかの有名な「ダッカ事件」であるが、このとき福田赳夫首相は「人命は地球より重い」として、身代金の支払いおよび、超法規的措置としてメンバーの引き渡しを決断した。
 その後、事件に対する日本の対応は、欧米が「テロリストや過激派と交渉せず」という姿勢を貫いている国際社会の足を引っ張ったとして非難を受け「日本はテロまで輸出するのか」と侮蔑されたのだが、今回の「特措法延長問題」もこれによく似ている。
 そこへ守屋前事務次官のスキャンダルや、海上自衛隊の報告ミスが重なったので審議が難航しそうだが、問題の本質を違えている事甚だしいと思う。防衛省の、防衛装備品導入に際する「定番?」のスキャンダルは、今国際的に進行しているテロとの戦いに直接関係はない。福田首相は、これらの審議を別に出来ないものか?とつぶやいたらしいが、別にすべき問題である。

 民主党は、守屋前次官喚問後特措法の審議に応じる姿勢だそうだが、味噌も糞も一緒くたにしないで欲しい。まず、特措法審議を急ぎ、インド洋から海自艦艇を引き下げることのないようにしてから、時間をかけて守屋問題など、防衛省のたるみ現象について審議すればよいのである。
 ここは一つ、151名を救うために取ったお父上の「超法規手段」を踏襲して、1億2千万日本人の名誉を保つため「特措法は地球より重い!」として、特措法審議優先を決断すべきである。国連が決めたテロとの戦いからも“脱退”するようでは「国連中心主義」が泣くし、その昔の国際連盟脱退と少しも変わらない。あのときの結果はどうであったか。

 先日のチャンネル桜の討論会で米海軍顧問の北村氏が、万一海自艦艇が引けば、その穴埋めに中国海軍が手を挙げる恐れがあると発言した。
 金田元海将は、中国海軍の給油の錬度を上げ、その恐れは少ないといったが、かの国は「海軍の錬度」よりも、宣伝効果を優先するから、手を挙げない保証はない。

多分、情けない同盟国の泣きを受け入れて、米海軍が代わりに補給艦を差し出すのだろうが、米国だって16隻しか保有していないから振り回しが大変である。
中国海軍は68隻保有しているというが、外洋で使用できるものは5隻持っている。もしも「大陸国の中国」が、「海洋国日本」の代わりに出すことになれば、日本“海軍”のメンツは丸つぶれ、一ヵ月後か半年後に法律が通ったからといって出かけるにしても「時既に遅し」となりかねない。今回は是非とも「超法規?」でこの問題を解決して欲しいものである。

 それにしても防衛庁時代からの歪んだ体質は嘆かわしい。「庁」から「省」に昇格?してもこの体たらく。やはり初代大臣が揮毫したあの看板がケチのつきはじめだったのか!しまりのない字体の「表札」を取り替えたら少しは良くなるのかも・・・
 八つ当たりはこれくらいにして、山田洋行という会社も因果な会社である。この商社は昔は土地関連の企業であったと聞くが、突然防衛産業に参入してきたのは昭和50年代だったという。
 確か昭和60年代に米国の航空機産業の日本代理店であったZ商事が、防衛庁に納入している部品契約を山田洋行に奪われた!として内部告発したことが週刊誌などで大々的に報じられたことがあった。今回は、山田洋行内の航空機部品輸出入部門を統括していた元専務が、部下達を引き連れて「脱藩」し、「ミライズ」という新会社を設立したもので、いわば、鳶に油揚げを奪われた山田洋行は、ミライズを告訴しているのだという。「因果は巡る」を地で行く現象だから世の中悪いことは出来ないものである!しかもその元専務は、若い時に防衛庁に務めていたことがあったらしく、市ヶ谷の正門前に事務所を構えて、将来出世すると見込まれる人物に、惜しげもなく「貢いでいた」というから典型的な贈賄専門家?だったのであろう。制服組にも同様だったというが、幸か不幸か、私は出世しないと思われたらしく、全く相手にされなかったから、喜ぶべきか悲しむべきか・・・。
 私が心配するのは、これが商取引上のスキャンダルだからまだ「良かった?」ものの、外国工作員接触だったら一大事であった。
 とにかく、人間は“予想以上”に偉くなると裸の王様になりやすいものである。善悪の区別が麻痺し、貢がれることがさも当たり前になるから、気がついたときは遅く惨めである。
 誘惑の悪魔が忍び寄る酒と女、ゴルフ・マージャンは鬼門である。私の現役時代は「せめて現役の間だけでも禁欲生活に徹すべし!」と部下を督励していたのだが、それは「ゴルフもマージャンもやらない(やれない?)」指揮官の言うことだったから、あまり効き目はなかったようだが、考えてみると退役後に残されている楽しみ?は残り少なくなっているから、やはり体力・気力が充実している現役の間に蜜の味を!という誘惑に駆られるのだろう。
 守屋前次官にはお気の毒この上ないが、それも身から出たさび、自ら自己責任を果たしてもらう以外にあるまい。何しろ、国民の生命・財産を守るべき役所の長が、税金で購入している武器を取引材料にして「私服」を肥やしたのだから、言い訳は出来ないだろう。せめて、接待費用で、ミサイルの2〜3発でも余分に買うべきであった!
 ところで、このスキャンダルをとらえたある野党議員が、得意げに「これでは安心してシビリアンコントロールを任せられない」とのたまったが、この方の考えも狂っている。シビリアン・コントロールとは「軍事に対する政治の支配」と訳すべきで、民主主義政治を前提にしたものであるから、シビリアンを軍人以外の一般人・文民・文官と訳して、防衛省事務官がそれに当たると思っておいでのようだがとんでもない間違いである。自衛隊法第二条第5項に、「隊員」とは、防衛庁の職員で、長官、防衛政務次官副大臣事務次官および参事官・・・などと明記されていて事務屋のトップ、事務次官も勿論「隊員」で、シビリアン・コントロールされる側である。議員たる者にはもっと勉強して欲しいもので、これらも含めて、国会の場で特措法成立後にゆっくりと「お勉強」して欲しいと思う。

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