軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

石破大臣は続投せよ!

 21日は、水交会で「史料調査会」の研究会に出席した。60人を越える出席者の大半が旧海軍軍人だったから、今回の「あたご事件」を残念に思っているようだった。

 ブログにはこの件について50件を超えるコメントが寄せられていて、丹念に読ませていただいたが、それぞれポイントをついた発言で大変参考になった。
 私も、この数日の報道から受ける感じは、行動を共にしていた4隻の漁船(団?)の行動に疑問を感じている。
 産経新聞の図を参考にするが、自分の方に“優先権がある”から危険を覚悟で大型船の直前を突っ切る行為は、例えは悪いが海の暴走族ではないか?海上衝突予防法がどうであろうと、状況から判断して、衝突を防止するように行動するのが[プロ]の腕である。事実、金平丸は無理だと判断して、法律上の“優先権”を無視して左へ反転しているが、これは厳密に言えば「法律違反」になるのか?

「あたご」の直前をかすめて通過した幸運丸はその名の通り「幸運」だっただけではないか。果たして接近してくる巨大な「あたご」の艦影を視認していたのだろうか?ましてやまるで「自爆」するかのごとく直進していった「清徳丸」の動きは理解に苦しむ。
 現役時代、空中戦闘訓練で、互いに急接近したことがたびたびあったが、状況を瞬時に判断して回避するのが習い性になっている私にはどうしても理解できないのである。
 勿論、如何に自分の方に「優先権」があろうとも、事故が起きてからでは元も子もない。君子危うきに近寄らず、が基本であった。

 私も、都心からこの地に転居してからというもの、右折しようと交差点で待っていて、右折矢印が表示されたので発進しようとした時、信号を無視して直進してくる車が多くて困惑している。
 私はまだ死にたくないから、「優先権」を放棄?して無謀な車をやり過ごすことにしているが、命あってのものだね、権利を主張する気にはなれない。
 陸上と海上では何かが違うのかもしれないが、今回の事故はどうもおかしなところが多いから、感情にとらわれない「再発防止のための調査」を実施して欲しいと思う。

 ところで、昨日は過去の資料を久しぶりに読み返してみて、つくづくこの国のメディアのお粗末さ、ワンパターンさにあきれ果てた。少し長くなるが、証拠を突きつけて書いておくことにしたい。
 まず、昭和46年7月30日に発生した「雫石事故」である。これはL-11Lというジェットルートを千歳から羽田に向かっていたANAのB727が、訓練飛行をしていた空自のF-86F戦闘機に追突して、乗客乗員162名が死亡した事件である。このときメディアは“半狂乱状態”で事故を報じたが、今回同様「上空で何が起きたのか」という観点ではなく、極めて感情的な推測記事を書いた。
 事故の翌日の31日付け毎日新聞は「座談会」を開いて、「混戦空路に過密ダイヤ」「常識外れ、無謀操縦」「自衛隊機、空の銀座に突っ込む」と報じた。

 その中で井戸剛・東海大学航空工学教授は「今度の事故は、いわば”空の銀座通り”に訓練機が突っ込むという、およそ常識外れの無謀操縦から起こったものだ。大体2曹ぐらいの未熟な技術で航空路を横切るなんて、冗談じゃないですよ。銀座通りで車が旋回したらどうなるか、衝突するのが当たり前でしょう。私はパイロットの目を疑いますね」「計器飛行をしているところに有視界飛行の戦闘機がぶっつかるなんて、世界に恥ずかしい事故ですよ」「要するに、車で混雑する銀座通りに単車は乗り入れなければいいのだ。F86Fには機上レーダーはついていないでしょう。727にはついているけど、ならばついていないF86Fは、地上からのレーダーに従えば良い。それが訓練ではないか。F86Fの旋回半径を考えれば、旋回しなければいいのだ」と驚くべき発言をしている。
 彼の言を今回に当てはめれば、「いわば海の銀座通りに漁船が突っ込むというおよそ常識外れの無謀操縦から起こったもの」「自動操縦で直進している“あたご”に、有視界の小型漁船がブッツかるなんて、世界に恥ずかしい事故ですよ」ということになろうか。
 夕刊「フクニチ」も31日付で「自衛隊機、航路を侵犯」と大見出しを掲げたが、何故か「正常運行全日空機が追突、墜落」という見出しを書いている。
 この時点で「追突」だと判明しているなら、フクニチは事故の状況にどうして疑問を持たなかったのだろう?そして水田に墜落したF86Fの写真に「空飛ぶ凶器」というタイトルをつけた。

 西日本新聞も、31日の時点で「自衛隊機が航路妨害?」と大見出しを掲げ、

 朝日新聞は同じく翌31日付で「自衛隊側、ミスほぼ認める」「定期航空路に侵入」「自衛隊機の乗員は脱出」「警察に連行取調べ」と一面に書き、3面には「過密線に無謀自衛隊機」「日本の空我が物顔」「異常接近にも冷淡」「防衛庁・飛び回る未熟操縦士」「異常接近・主役は自衛隊機・旅客機の目前で曲技飛行も」と、ここぞとばかりに書きなぐった。事故直後で真相も不明な時点なのに、あたかも“予定稿”を一気に掲載したような感じである。


 そして極めつけは定番とも言うべき「避けられぬ政治責任」「国会で追及は必至」「増原長官・進退問題に発展?」「軍事優先が起す」と書いて「野党が談話・政府自衛隊に抗議」と野党を煽った。
 こうして8月1日に、上田航空幕僚長が増原長官に辞表を提出、増原長官も竹下官房長官に辞表を出したから、この時点で自衛隊側の「過失」を印象付けてしまったのである。
 今回の事故も、朝日は読まないから知らないが、マスコミ全体の流れがこれに酷似していると思うのは私だけだろうか?
 海幕長が更迭されたそうだが、これは部下統率上問題があったとしてまだ納得がいくが、石破大臣が辞任する必要はない。「事務所費不正請求?」問題で突如辞めた前科がある議員がわけのわからない理屈を並べているが、彼女だって当時十分な説明責任は果たしてはいない。
 字数の関係で「なだしお事件」当時の証拠記事は省略するが、今回の事故と比べてみても共通点がはっきりするのは、我が国の報道の根底には「自衛隊憎しの感情」がほとばしり出ていることである。行方不明になっている漁船員を“利用”して、己の政治的活動に利用しているだけだと思われる。政府も国民も、こんな「おためごかし」に騙されてはならないのである。
 いずれ事故原因は判明する。万一部分的な「政治的決着」がはかられたとしても、そのうちに「週刊誌」が裏を暴くだろうから、そのとき国民は事故の真相を知ることになる。
 国家防衛に責任ある立場の大臣は、一時的感情に迷わされることなく、軍の精強化を図るための措置を講じることに精力を傾けるべきで、「新聞が期待する大臣の政治責任・進退問題」に従うような悪弊をこの際断ち切って欲しいと思う。