軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国大地震と国家安全保障

 12日午後2時28分(現地時間)に、中国西部・四川省で起きた大地震は、既に3日たったが、情報が混乱してなかなか真相がつかめていない。我が国の「阪神淡路大震災」時に比べて、中国政府の初動は優れていた、と報道され、温家宝首相が直ちに現地に飛んだことが、当時の村山首相に比較して高く評価されている。
 しかし私は、全くといっていいほど「安全保障」に関心がなく、なりたくてなったわけでもない村山元「首相」の弛みきった行動を批判するほうがおかしいのであって、核兵器保有し、第二次世界大戦終了後も周辺各地と各種“戦争”を続けている中国とは比較になる筈がない。全うな軍隊を指揮することに慣れている世界各国の指導者は、当然この程度の行動を即座に取るのが常識なのである。温家宝首相は、5万人ともいわれる救援部隊の指揮を取っているというが、日本の首相にも防衛大臣にもこれは見習って欲しいものである。シビリアン・コントロールだ!と口先でいうだけではなく・・・。
 現場に救援隊が入るにしたがって、死傷者がどんどん増えることだろうが、お気の毒な被災者には哀悼の意を表したい。授業中だったこともあって、校舎が崩壊したため子供達の犠牲者が多かったようで、大事なわが子を失って途方にくれる親の姿はいずこも同じ、悲惨なものである。特に中国は「一人っ子政策」の国柄、親の悲しみも倍増だろう。
 温家宝首相の現地指揮という中国政府の活動振りを、オリンピックを控えて何が何でも国際的に失態を曝さないように懸命に振舞っているのだ、と言う評もあるが、勿論それを私も否定しないが、軍事大国として、もっと「他に」やらねばならないことが山積しているのだ、と私は見ている。それにしても温家宝首相にとっては今年も大変な当たり年だったようである。昨年11月だったと思うが北京に滞在中に、ロシアと国境を接する河川で有毒物質が流れ出すという大事故があったが、このときも現地へ飛んだ温家宝首相は、被災者達に水を届けるよう手配し、八面六臂の活躍ぶりがTVで報道されていた。次は今年“正月”の大雪被害で、南部地区に大被害が出たときであった。これだけ忙しければ、夫人との隙間風が吹いている?という報道も頷ける。
 しかし、何よりも今回忘れてならないことは、中国は「核大国」だということである。
1964年に原爆開発に成功したこの国は、その後軍事予算を倍増させて「軍拡」に狂奔し、1984年には米ソ(当時)を直撃できるICBM保有するに至った。中国を核攻撃しようという国はまず見当たらないにもかかわらず、「中国の核兵器は、純粋に自衛のためである」と公言してどんどん増強してきた。
 2007年現在、射程13000Kmの東風5(CSS4:DF5)を計52基保有しているとされるが、2010年ごろには射程12000Kmの[固体燃料式]東風41(CSSX10:DF41)に更新する予定で、射程8000Kmの[固体燃料式]東風31(CSSX9:DF31)は46基配備、既に2006年9月に、発射実験のためタクラマカン砂漠に8基持ち込んで配備しているという。
 射程が300Km〜1800KmのIRBMは、110基配備済みであり、その他SLBM,CMを入れると、相当数配備完了しているといわれているが、詳細は分かっていない。このまま行くと、2025〜30年には、米国と対等に“やりあえる”所まで達する、という見方さえある。
 ところで、「実験場」として有名なのが前述した[タクラマカン砂漠]であるが、ここは中央アジアに近い、新疆ウイグル地区にある。
 そして昨年1月12日、丁度当時の安倍総理が、NATOで演説しているときに、中国は[衛星破壊実験]を成功させたが、その中心地は、今回の地震で注目を浴びた成都から南西に約300Kmのところにある西昌であり、成都の北東約100Kmのところにある綿陽には、核兵器を担当する部隊が駐屯しているという。
 いずれにせよ中国という軍事国家を支えている「核兵器」は、紛争を抱える少数民族が住む地帯に展開しているのだから、おいそれとチベットウイグルを“解放”することはないのである。ところが今回の震源地は、これら[核戦力]の中心を直撃したことになりそうで、特に綿陽は震源地の真東約150Kmという地点にあたる。
 報道によると、中国政府は[援助物資]は受け取るが、軍など他国の救援部隊の入国に難色を示しているといわれるが、若しそうだとしたら、サイクロン救援をかたくなに拒んでいる軍事政権のミャンマー同様、何らかの“軍事秘密”を抱えているからかもしれない。温家宝首相の行動が素早かったのが、これら核兵器にまつわる何らかの“異常事態”だったと思いたくはないが、毎年、甚大な“黄砂被害”にあっている日本としては、ソ連チェルノブイリほどではないとしても、放射能などの2次被害に対する注意も怠ってはならないのではないか?新潟地震ではあれほど原子力発電所の被害に神経質になったお国柄なのだから・・・
 地震直後に政府は資金・物資供与で5億円の支援をすると発表したが、官房長官は、救援隊派遣に難色を示されたことを「自己完結型のお国柄だから・・・」と発言したようだが、なんとも気軽に過ぎないか?万一、核兵器などに損害があったら、空中に放射能が放出されたり、放射性物質に限らず、東シナ海にその他の汚染物質が流れ込む危険性だってあり得る。中国は仮に損害があっても絶対に公表しないだろうから、風下の国、海洋を共有する国としては用心するに越したことはあるまい。
 産経は今朝の「主張」に、「救援通じて日本も備えを」と書いたが、それは地震国日本という共通の観点からだけの主張であり、“核兵器保有国”である隣国で起きた巨大地震に対する備えという観点が全く欠けている。
 その一方で横須賀では、原子力空母配備に反対する一部市民グループが、時代遅れの「住民投票」を市長に要求しているが、政府が介護保険や道路特措法で揉めている国柄ならではの「安全保障無感覚」に、脱力感を禁じえない。

中国の「核」が世界を制す

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中国の安全保障戦略

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軍事研究 2008年 06月号 [雑誌]

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