軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

≪入院日記≫ プロローグ

 5月29日木曜日、雨のち曇り。「出血性十二指腸潰瘍」と診断された私は、市内の個人病院に急遽入院することになった。
 内視鏡室で処置を受けた私は、そのまま3階の緊急処置室に運ばれ、絶対安静を申し付けられる。枕元には「禁食・禁水」と書かれた札がかかっている。
 点滴棒には、二種類の液が入ったビニール袋がぶら下がっていて、右手前腕部に差し込まれた針へ繋がった細いビニール管を通して、液体が小刻みに静脈に流れ込んでいる。
「寝返りくらいはいいですが、ベッドから降りないように」と看護婦が注意する。「尿瓶を置いておきますからお小水もここに取ってください」
「すみません。急だったものですから午後の会合をキャンセルするため、連絡したいのですが御願いできませんか?」
「御家族は来ていないのですか?」
「ハイ、一人で来ました。どうしても3時までには連絡したいのですが、御願いできませんか?」
「それは出来ません。御家族には事務室から連絡が行く筈ですから御家族にお願いしてください」


 この日の夕方は岡崎研究所の理事会とフォーラムがあり、月曜日にはチャンネル桜の「防衛漫談」の収録があるから、すぐに連絡しておかないと「ドタキャン」の迷惑をかけることになる。
 点滴の針が刺さった右手でセカンドバックをあけ、携帯電話を取り出し、家内が来たら渡そうと番号をメモ用紙に書き写す。
 
 この部屋には、薄いカーテンで仕切られたベッドが四つあるようで、一番奥には点滴棒を押しながらトイレに行く60代くらいの女性、左隣は重体?らしく喚いている老人、右隣は時々咳き込む老人が寝ている。勿論、顔も体つきも容態も不明である。
中央にはナースセンターがあって丸見えである。
 その奥には「集中治療室」があるようで、心音を伝える「ピッピ」という音が絶え間なく聞こえる。最も音がしなくなるということは「御臨終」のしるしだが・・・
 すぐに入院になるとは全く予期していなかったので、今後のスケジュールを再検討しなければならない・・・などと考えていたが、少し居眠りしたようだ。
 看護婦さんが来て「連絡は取れましたか?」と聞いた。
「いやまだです」
「もう一時ですよ。携帯はお持ちですか?」
「ハイ」
「では緊急ですから、携帯で連絡してください。3分間だけですよ」
彼女の機転に感謝しつつ、まず家内に連絡すると「アラ、どうしたの?」と来た!
「病院から連絡はなかった?」
「いいえ」
「入院になった」
「エッ、ではすぐ病院に行くわ」
 次に岡崎研究所チャンネル桜に電話、これで3分。意思が伝わったかどうか不明だったが、一応連絡完了。

 看護婦が入れ替わり立ち代り来て、体温、血圧、脈拍を測定する。医師が来て「輸血同意書」の説明と同意の署名を求める。
「出来たら輸血は受けたくないのですが・・・」というと、「それは御自由ですが、医師としては万一のためのものです」という。
 厚生省の怠慢によるHIVの例もあるし、ああはなりたくないが、止むを得ないからしぶしぶ署名。

 午後4時過ぎ、家内がマスクをつけて入室して来た。入室前に入念な手洗いとマスク着用が義務付けられているのだという。
看護婦が「入院時のオリエンテーション」を説明、当面必要な物品を親切に説明し「近所にスーパーがありますからあそこで何でも揃いますよ」と家内に告げる。
 指示通り、家内は「湯飲み茶碗、ティッシュペーパー、下着類」を買ってきて小さなロッカーに入れ、やおら私に“お説教”を始めた。
「いつも言っていたでしょう。無理しすぎよ。あなた、人が良いんだから。頼まれると断れなくてどこにでも出かけて、疲れた!疲れた!と私にこぼすだけ。いつまでも若くはないんですから、少しは身体を大切にしなさい。今度はいい機会だから、先生の言うことを聞いてしっかり休養をとりなさい!」
 いやはや、いつも「命令」ばかりしてきた私が、逆に家内に「命令」されるとは、なんとも早情けない。そして次の“訓示”が身にしみた。
「あなた一人でこの世が動かせるわけじゃありません。いつまで天下国家のことばかり考えているの?自分の体が大切でしょう?あなたが一人くらい倒れても、誰もなんとも思っちゃいませんよ!それを貴方は独りよがりで気負いすぎ!もっと自分のことを真剣に考えましょう。少しは歳を考えて見たら?あなたがいくら頑張ってみたところで、世の中、なるようにしかならないんだから」
 確かに何の得にもならないのに、ボランティアで走り回っていた!「気負っている」とは思わなかったが、間宮英宗禅師の言葉「身を守り、家を守り、国を守る」が思い出された。「国の守り」は11年前に卒業した。今回は「身を守る」番なのであろう。今日はその必要性を否応なく認識させられた。
 入院間は、家内の“指示”どおりしっかりと「身を守る」ことにしよう。  【続く】


退院後、家内と共に癒されたDVD! ご鑑賞をお勧めする。

NHK 喜びは創りだすもの ターシャ・テューダー四季の庭 永久保存ボックス〈DVD+愛蔵本〉

NHK 喜びは創りだすもの ターシャ・テューダー四季の庭 永久保存ボックス〈DVD+愛蔵本〉