軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

“外交交渉”ならぬ“社交”を楽しむ愚

 洞爺湖サミットも“無事”に終了したようで、陰で厳重な警戒に当たった警察、自衛隊関係者の労をねぎらいたい。皮肉ると、世界のテロ組織からも相手にされていなかった?ということかも知れないが・・・
 冗談はさておき、その成果については大方不評であった。それを集約した文が、今朝の産経1面の「福田首相に申す」という桜井よし子女史の文であろう。つまり、世界の首脳達は、自国の国益を前面に出して、“じゃれあい”ながらも目的を果たしてそれぞれ帰っていったが、肝心の議長国である我が国の“成果”は、無事に行事が済んだ、程度ではなかろうか?
 ブッシュ大統領は「勝った」とCNN記者が評価していたし、ロシアのメドベージェフ大統領も北方領土問題を避け、ブッシュとの「お近づき」を強調できた。フランスのサルコジ大統領のごときは、チベット問題で人権を主張して中国と対峙したものの、その勢いはどこへやら、中国から「反仏行動」を起こされてスーパーが苦境に立つと、一転「五輪開会式出席」を表明した。中国の胡錦濤主席は、インドとの友好を強調しつつ、世界に「チベット問題」の終結を印象付けることに成功した。
 桜井女史は冒頭「主要国首脳会議は社交の場ではない。華やかさと友情の演出の中で、『お友達の嫌がること』も提起して、国益を懸けて戦う場である。福田康夫首相は、洞爺湖サミットを、国際社会での地位低下が著しい日本国の威信回復の場ととらえ、大いに奮闘しなければならなかった。だが、首相の言動は日本の地位を更に沈下させたにすぎない」と批判した。全くその通りであろう。どうも今の日本国全体が、会議でも集会でも、何と無く『社交の場』のような雰囲気に包まれていて、イベント中心花盛りの様相を呈している。
 多分、今回のサミットの「演出」も、どこかの「広報宣伝会社」がバックについて、イベント中心、華やかさ演出を中心に据えて、薄っぺらな「社交の場」を設定したに違いない、と私は思っている。だから、桜井女史の様な「真剣なクレーム」などどこ吹く風、上手くいった!と関係者は「慰労会」を開いて乾杯して終わったような気がしている。

 一面下方の「産経抄」には、日本が誇る「お弁当」のことが書いてあるが、その中に、「▼きのう閉幕した洞爺湖サミットについて、日ごろから、日本について辛口の記事が目立つ英国各紙が、歓迎夕食会の豪華なメニューをやり玉にあげていた。キャビアやウニに舌鼓を打つ指導者が、食糧危機を語るのは『偽善』だというのだ。▼確かに食事については、工夫の余地があった。安価な食材からでも、味と見た目、更に栄養にまで気を配った弁当に仕立てることが出来る。そんな文化を紹介する絶好の機会だったかもしれない」

 予算をふんだんに使って豪華な演出をするのはバカにでもできる。如何に小額の予算で絶大な効果を挙げるか、それが「知恵」というものであり、そこに各国首脳は「手腕」を見て取るのである。

 その昔、神宮外苑自衛隊観閲式が行われていた頃、婦人自衛官(と言ってもナースだが)部隊が正面を通過した後、各国武官達の目前に『ハイヒール』が片方転がっていた。間違いなく行進したナースの誰かの靴の片方が「脱げた」のである。武官達が一斉に通過した部隊を見たが、列は整然と行進していて、「ビッコ」をひいた隊員はいなかったから、ちょっとしたミステリーになった。
 実はハイヒールが脱げたナース当人は、隊形を崩さぬようにそのまま片足を爪先立ちして歩いていたのである。その事実を知った第一師団長は、当該隊員に「良く頑張った!」と「ナイロン製のソックス」を一足プレゼントしたのだが、それ以降、行進する婦人自衛官の靴は「紐で固縛」されることになった。
 勿論、外国武官たちは揃ってこのエピソードを自国に報告した。「恐るべし、日本の女性兵士!」と。
 当時は「ボロは着てても心は錦」の精神だったのだが、今や成金趣味、これでもか、これでもかとばかり金銀財宝で飾り立てようとする。しかし、所詮成金は成金、世界レベルから見ればまだまだで、背伸びする方が滑稽なのに、それに気がつかないで背伸びする、それがまた顰蹙を買うのである。
 日清・日露戦争時代のわが軍の「質実剛健さ」を、世界各国は評価し支持してくれたのであって、豊かになって自分達に近づいてきた「サルの惑星」の住人に何ぞ、列強は興味はないのである。
 それこそ、産経抄氏が言うように、北海道の新鮮な食材を生かした「各種弁当」を出していたら、各国首脳の関心も高く会話も弾み、資源の有効活用の宣伝にもなったのではないか?
13面下段の「紙面批評」欄で、学習院大の藤竹教授は、一連のサミットに関する産経紙の過去の記事を列挙し、「日本が確たる存在感を示さなければ、米国が、そして世界が、日本を見限る事だって」ありえると中曽根氏が論じたことを受け、「中曽根氏の強い願いとは反対に、4日の英紙フィナンシャル・タイムズは『行方不明の日本、姿が見えないサミット主催国』の見出しで、辛口の日本批評を出した。福田首相はどう受け止めたのか、それはサミットの結果がおのずと示している」と結んだ。

 このような批判を謙虚に受け止めることなく、世界が見えない関係者だけの“内輪の慰労会”で、自画自賛しあっている?とは考えたくないが、その間にも世界は恐るべき方向に突き進んでいる。

 一ヶ月を切った北京五輪と中国国内の混乱、中東、アフリカ、南欧で続く国内動乱やテロ活動、何よりもサミットで浮かれている間に、イランは着々と軍事能力をつけて、ついにミサイル発射を強行した。1トンのペイロードを持つミサイルの、射程1000マイルで円を引いてみれば、それに含まれる関係各国が次にどんな手をとるか推察できる。
 イスラエルは「手をこまねいて」はいないだろう。イラク原子炉を攻撃した前例がある。米国だってその昔、リビアを攻撃してカダヒィーを黙らせた。
 やるとしたら、世界中が「運動会」で浮かれている八月八日くらいが手頃かと思われるが・・・?
 サミットでは、いかにも“陽気に”振舞ってはいたが、『卒業』を前にしたブッシュ大統領が、仕上げとして次にどんなことを考えているか?
 胃が痛むようなことを考えないですむ“平和な”国の方々が何とも羨ましい限りである・・・

イラク原子炉攻撃!

イラク原子炉攻撃!

平和はいかに失われたか―大戦前の米中日関係もう一つの選択肢

平和はいかに失われたか―大戦前の米中日関係もう一つの選択肢

平和はまだ達成されていない―ナウマン大将回顧録

平和はまだ達成されていない―ナウマン大将回顧録

それでも「戦争はなくならない」これだけの理由

それでも「戦争はなくならない」これだけの理由