軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

メタミド・・・ならぬ、ホメオスタシス!

 中国でも“自国製ギョーザ”で中毒事件があったという。あの有名な「天洋食品製」ギョーザだが、回収した品が倉庫から流出しているというところがかの国らしい。
 これで中国国内で仕組まれた事件であることがほぼ確実になったのだが、事件は6月中旬に起き、「中国側はこの事実を、7月はじめに外交ルートを通じて日本政府に伝えていた」という。ここが問題である。
 先日も、米国海軍の原子力潜水艦が、軽微な放射能漏れを正直に外務省に通告していたにもかかわらず、外務省がこれを伝達・公表しなかったため、日米問題、とりわけ左翼には「米国の不正義」として扱われている。「冗談じゃない、ちゃんと通知していたのだから、責任は日本政府にある」と米国は言いたくなるだろう。
 今回のギョーザ問題も、何が問題だと考えたのか知らないが、国民に情報を公開しないというミスを犯した。これではますます国民は政府を信用しなくなるだろう。

 今私は、大東亜戦争の真実を求めて、関連書籍を手当たり次第に乱読しているのだが、日米開戦直前に大使を命ぜられてワシントンに向かった野村吉三郎氏の回顧録には考えさせられる点が多い。野村氏が外務大臣時代に、外務省通商局を分離独立させ「貿易省」にする案が外務省の猛烈な抵抗、今で言う「省益」が絡んで紛糾したのだが、その責めを負った野村「大使」には外務省の「抵抗」が続いていた、と私は見ている。
 野村外務大臣就任の出鼻をいきなり挫いたのは「貿易省問題に端を発して外務省事務当局が官僚縄張り主義を振りかざしてやってのけた官吏一揆であった。つまりストライキである」と昭和36年に発行された「野村吉三郎(木場浩介編)非売品」にある。そしてあの12月7日の「翻訳遅れ」に繋がっていく。全ては「英語もろくに出来ない海軍大将」に責任を負わせ、戦後この“事件”の関係者〈ワシントン大使館勤務者〉は皆出世していい生活を送った。大東亜戦争の開戦責任が「陸軍の東条英機大将」に向けられたのと同じ構造である。

 上掲の本は「米国に使して」と云う昭和21年7月に岩波書店から発行された野村大使の回顧録だが、日米開戦を回避しようとする野村大使の切々たる心情が伝わってくる。

 今回の「メタミドホス事件」「放射能漏れ事故」通報は、当時の状況と何ら変わりない外務省の体質を示している様に思う。こんなことでは「存在意義」が問われかねない。
 2年3ヶ月間、外務事務官として軍縮問題のお手伝いさせていただいた経験がある当時の3佐としては失望落胆を禁じえない。
 目黒の「特定アジア人経営」ホテルに、長々と逗留して代金を払わなかったケチな外務省員が捕まったとの報道も、国民の顰蹙を買ったが、ホテルオーナーの目から見れば、高額な宿泊費よりも、現役外務省員がもたらす「情報」の方が、よほど実入りが良かった筈である。
 米留隊員の生活費2800万円を横領した3空佐といい、防衛省の利権を一手に取り仕切って「フィクサー」面した秋山容疑者も、結局は「個人所得隠し」で、高級車や時計を買ったことを認めたそうだが、何ともみっともない!山田洋行事件といい、こんな連中に騙されるほうもどうかしているが、ケチな人間が権力に取り付かれると、周りまでが国家目標を見失う危険があるから困ったものである。特捜には徹底的に膿を出してもらいたいものだが、ここまで書いた時、麻生氏の講演会を聞いてきた、という方から電話が入って、「彼は明るい。福田よりずっといい」といってきた。明るい性格だけではなく、麻生氏は資産家で企業会長を務めたから、ケチな考えはなかろうから安心できる、という話になったが、指導者には「顔で笑って心で泣いて」「明るく振舞って」欲しいものである。
 とにかく今の日本は政治家もメディアも(私のブログもそうだが・・・)、世の中を暗くする話で持ちきりのように感じる。しかし、世間の片隅では庶民が賢明に物価高を乗り切ろうとしているし、結構明るく振舞っているので救われることが多い。

 ところで、表題のメタミドホスならぬ「ホメオスタシス」とは、三戸恵一郎という医学博士が書いた新刊だが、考えさせられる。
ホメオスタシスとは生体恒常性という意味です。それは身体の内外に生じた刺激に対して、常に健康を維持しようとする生命の復元力です。今の日本は、あたかも慢性疾患のように、人々は国内外に不安を感じています。日本という国のホメオスタシスを、生命科学から検証してみましょう」と表紙にあるが、要は「病は気から」と云うことだろう。
 著者はあとがきで、小説「黒い雨」の中で、「国家のない国に生まれたかったのう」と一兵士が語り、「正義の戦争よりも不正義の平和のほうがいい」と主人公が叫んだことを取り上げ、「国家が起こした愚かな戦争への人々の無念さをも痛感させます」が、「それは免疫系ともいえる軍部の暴走ばかりが原因ではありません。実は、脳・神経系の一つともいえる外務省の誤りがあります。国際連盟の脱退は言うまでもなく、対米交渉の行き詰まり、そしてハル・ノートの解釈とその回答である対米覚書の曖昧さ。覚書は、あたかも外務省自らの責任を回避するかのような文言で締めくくられています。そして、開戦の責任の軍部への転嫁は、開戦から50年目の1991年12月のワシントン・ポスト紙のインタビューでも当時の外務大臣がはっきりと述べています。(注:「日本軍の無謀な判断で始まった太平洋戦争で、日本が米国民とアジア・太平洋の諸国民に耐えがたい苦痛と悲しみを与えたことに、“悔恨の念”を覚える」〈宮沢内閣時代の某外相〉)
 さらに、当時覚書を真珠湾攻撃が始まってから渡したために、米国の世論は『リメンバー・パールハーバー』として一気に沸騰し、日本への反撃が始まったのです」と手厳しい。
 著者の三戸氏は1946年山口県生まれの医学博士であり、広島工業大工学部を卒業後、海上自衛隊幹部候補生学校に入校、護衛艦「あまつかぜ」乗り組みを経て退官、その後医学方面に進み、レーザー血流計測システムの開発等で各種賞を受賞、2004年以降東亜大学院総合学術研究科生命科学専攻教授〈現客員教授〉という経歴が又面白い。

 5月に出血性十二指腸潰瘍で緊急入院し、4日間飲まず食わずの生活を強いられ、その後4日間は大部屋に移動し点滴続行、しかし、同室患者の「面白い会話」でホメオスタシスを刺激?され、血液循環が良くなったためか生体恒常性が復活して“奇跡?”の退院をした体験がある私には、彼の言いたいことがよく理解できる。
 ただ、出版社が“零細企業”のかや書房だけに、¥1800+税と割高なのが欠点!だが、生体同様、国家組織の恒常性向上のためにも、是非とも外務省関係者にはご一読頂き、同じ過ちを繰り返さないようにしてほしいと思う。
 そして、健康を維持しようとする生命の復元力を回復してくれるような、朗らかな政府が誕生すること期待したいものである!

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