軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

オリンピックの陰で・・・

 北島選手の驚異的な能力に国内は沸いた。彼の努力する姿と、努力が報われるという事実は、青少年に良い目標を与えたことだろう。
 男子体操で、あん馬で2度も落下した19歳の内村選手が、最後まで希望を捨てずに戦い、堂々と銀メダルを取ったことも印象的であった。残念だったのは本家本元としての柔道だが、それでも他の種目で10代、20代の若者達の活躍に、今後に期待が持てたのは収穫であった。問題は今の日本の「大人たち」の態度だがどうにかならないものか?青少年の非行は「大人たちの教えざるの罪」だという自覚が足りないのではないか?
 連日報じられる「安易な殺人事件」には辟易する。キチガイに刃物、そのままである。


 ところで日本のメディアは五輪一色の感があるが、CNNやBBC等はグルジア問題に大きく時間を割いている。今回のロシア軍の侵攻はブッシュ政権にとっては「虚」を衝かれた形になったが、情報によればグルジアへのサイバー攻撃は2ヶ月前から始まっていたという。
 一旦「和平」に合意したにもかかわらず、ロシアはグルジアの複数都市内に軍を進めていて、米国がいくら“警告”を発しても、今のところ効き目はない。
 日本海で行われる予定だった米露共同演習に米国は不参加を表明するなど、泥縄状態だが、ブッシュ大統領は「軍事と外交の両面で、ロシアのカフカス支配を阻止する決断」を示し、今後ロシア支持を検討し直す可能性を表明したという。
 他方、プーチン首相の“指導下”にある若いメドベージェフ大統領はなかなか強気で、「ロシアの立場は変わらない。ロシアは両地域の住民のあらゆる決定を支持する」と述べ、この地域がグルジアから脱退する意思表示をした場合にはこれを支持する姿勢を示した。 米国との軍事力の対決は当然避けたいのだろうが、新大統領としてはこれをしくじると政権運営が危うくなる。今のところ「虚勢」を張らねばなるまい。
 ロシアは、ブッシュ大統領がレーム・ダックだと見て介入したのだろうが、次期大統領候補の二人も、ブッシュを支持しているから事はややこしくなってきた。果たしてブッシュ大統領の「最後っ屁」を喰らうことになり、それでも強がって抵抗するのか?それとも「目的は達した」と、1979年にトウ小平が宣言してヴェトナムから退却したように引き下がるのか?いずれにせよ欧州情勢からは目が離せない。
 先の米国のイラク攻撃も、イラクの石油取引をユーロ仕立てにしようとした、フランス・ドイツ・ロシアの“陰謀”に怒った米国が開戦したという説もあり、今でもドルとユーロの対立は烈しく、米国は危機感を持っている。そんなEUでは加入をめぐる問題は進展していない。
 別途進んでいるのはNATO加入問題だが、米国のMD展開問題にはロシアは神経を尖らせている。まさに欧州情勢は流動的である。そんな中、フランスのサルコジ大統領が仲介にのり出したのも何と無く馴れ合いのようで“臭い”ところもある。国際関係は奇奇怪怪、今後どう動くか大いに興味深いが、日本としては少なくとも次の2点には注目しておく必要があろう。

1、「人道支援」を掲げた米国がグルジアをどこまで掩護するか?つまり、民主主義国のリーダーとして、どこまで同盟国を掩護するのか?今後の日米安保の有効性と信頼性を占う意味で重要である。
2、ロシアの「領土」に対する貪欲なまでの実力行使は変わってはいないということ。冷戦間の数々の東欧の悲劇を思い出すが良い。東西冷戦が終結して、丸裸?になったロシアは、旧ソ連並みの「防護壁」を再度確立しようとしている。崩壊して離脱して行った東欧諸国が、どんどんNATOに加入し、モスクワに「歯向かって?」来ることに耐えられないのだろう。丁度中国が万里の長城で外敵を防いだ様に、自国防護のために周辺諸国(領土)を犠牲にし、手放したくないのである。

 私が外務大臣だったら、グルジア問題でロシアの軍事侵攻を非難し、「まるで1945年8月に、まだ有効だった日ソ不可侵条約を破って満州樺太北方領土に侵攻してきた当時のソ連軍の暴虐振りを思い出す。そして未だに我が国固有の領土である北方4島を占領しているのである」と声明するだろう。そして米国を「北方4島」問題に引き込み、ロシアを東西から挟撃する。
 竹島だって北朝鮮との間の拉致問題が解決した暁には、改めて竹島問題を俎上に挙げることを韓国政府に言明する。そうすれば北朝鮮は日本との友好関係を最優先にし、何らかの解決の道を探ろうとするやも知れず、そうなれば韓国は南北から挟撃されることになる。竹島にかかわっては居れまい。

 北京五輪報道に浮かれた中で、そんな「真夏の世の夢」を見ているのだが、2008年危機は既に始まっていることを痛感する。台湾、チベット問題はやや影が薄れた感があるが、欧州問題と中近東問題は依然として危険状態から抜け出してはいない。
 お祭りの陰で、何らかのキッカケで軍事力を行使するような事態が頻発するような気がしてならない。東洋の「平和な島国」も、五輪の成果に浮かれてばかりいてはならないと思うが・・・

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