軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

軍事抜きで政治が務まる不思議さ

 昨夜は国家基本問題研究所の「暑気払い」に出席してきた。熱気ムンムンな中、この国は危機状態下にある、という塚本氏の悲観論から、武道に励む青少年達の純真な集まりに参加したが、日本の将来は明るいと感じた、という田久保氏の意見まで、夜空を照らす雷光の中、大いに話が弾んだ。私も地方廻りの中に若干の「期待感」が見られるような気がするが“希望的観測”に終わらないで欲しいものである。

 
 さて、今朝の産経新聞7面に「ぎょっ」とする写真が出ていた。

 台湾の馬政権が初の3軍合同訓練を行ったことをメディアに公開したものだが、迷彩を施した台湾陸軍兵士の顔には、敢然と戦うという意思表示とともに、今後の政局に対する若干の不安が見て取れる。
 国民党政権に“復帰”した台湾、金門島と大陸が橋で結ばれようとしている台湾、F−16等、近代兵器輸出を渋り始めた「友好国・米国」の狭間で、軍幹部は苦悶していることだろう。第4世代の戦闘機約300機を保有する台湾空軍は、少なくとも私が沖縄の防空を担当していた頃は“橙軍(敵性軍)”にはカウントされていなかったが、今後どうなることか?今でも図上演習では一気に「赤軍」にカウントされてはいまいが、そのうちに橙軍としてカウントしなければならなくなるのかもしれない・・・。
 他方中国空軍は、第4世代の戦闘機をこれまた約300機装備した。夕食会で私の前に座った中国武官は「我々はSUを装備しました。空母も台湾を守るためです。台湾の南方海域は空母がないと守れませんから」と自信たっぷりに語ったが、軍事的合理性はともかく、彼らは既に台湾を併合したと考えている。
 つまり、空軍戦力だけをどんぶり勘定してみても、台湾の300機+大陸の300機=600機で、航空自衛隊の300機に対抗出来る!と思っているのである。
 今まで、日本政府にも“軍事常識”が備わっていれば、そんな事があり得る事を想定してこの周辺の防衛力を整備してこなければならなかったのだが、米軍に期待しているのかどうか?全然考慮されてこなかった。そればかりか、普天間基地返還で米軍戦力を「半身不随」にして既に10年を経過する。中国にとっては、外堀を埋めたから、次は内堀である。日本政府は外務省だけが“それを見越して”か「沖縄大使」を沖縄に設けている!。 現中国大使の宮本氏はその前は「沖縄大使」であったから、「沖縄が中国領」になっても事務手続きはごく簡単で終わることだろう!

 台湾を“併合”した中国の次の目標は東シナ海尖閣の領有である。日中「中間線」など全く認めてはいないし、沖縄トラフで領土を決めようとしているのは明白だから、多分次は、
1、中間線を越えた日本側の海域にガス田を“共同”で建設し、次々に日本側海域に建設する。
2、尖閣(彼らは釣魚島と呼称)の非武装化を提唱し、朝鮮半島の非武装地帯方式のように双方の軍事力(海上保安庁の警備力を含む)を尖閣諸島から除去させ、無人化、非武装化させた上で周辺海域の共同資源探索事業を提案する。
3、資源が見つかれば、改めて共同開発と共同警備を提唱する。
という戦略で日本を懐柔してくるだろう。軍事戦略に疎いわが政治家達と外務省は、簡単に丸め込まれると思われる。政治家達は、自衛隊幹部という信頼すべき軍事専門家を無視して、一部の軍事評論家?や新聞記者たちに頼っているようだから、専門家の現役自衛官たちは勿論、OBの採用も「天下り」に当たるそうで「蚊帳の外」、防衛省改革案の成立過程を見るが良い。その素地は、みんな素人たちか軍事オタクたちの思い付きである!
 最も、軍事専門家であるはずの防衛官僚や自衛官が、山田洋行や外交・安保のフィクサーとか言うイカガワシイ詐欺師に振り回されていたのだから、あまり大きな口はたたけないが、日本の政治家は、軍事戦略よりも「金と票」しか頭に無い。だから同盟国の米国からも信用されず、長期的国家戦略に基づいて行動する中国の政治家や軍人には歯が立たないのである。
 逆に言うと、軍事的思考抜きで1億2千万国民の「生命と財産」を左右できる日本政治は、まさにユートピア!、こんな楽な商売はないから、世界の先進国指導者達にとっては羨ましいことだろう!アフリカのボス達の中にも「俺だって日本の政治家になれる!」と思っている者がいるかもしれない!
 台湾の馬総統(でさえ)も、写真のような軍隊を指揮し、台湾有事?の際には彼らを指揮して各種の「決断」を迫られるのである。少しは見習ったらどうか?


 今朝の産経1面の「人界観望楼」欄に、外交評論家の岡本行夫氏が、「若者の意欲と国の無力」と題して、学生たちに「中東の歴史感覚」「(悠久の歴史が背景にある)パレスチナ問題の、現代における解決法は?」「日本の貢献は?」を理解させようとして現地に連れて行ったが、「学生達は、日本の教室でいくら説明しても体感できない風土――宗教と民族性と行動様式を育んできた中東独特の風土――に身を浸した」と報告している。
 学生ではなくアマちゃん政治屋を連れて行って欲しかったが、「日本は先進国の中でただ一人、世界の安全保障協力に背を向けつつある。約40カ国の部隊が協力しているアフガニスタンだが、日本からは危険性を理由に自衛隊も警察も入らない」と書いた。今やOBの私でさえも、「事に臨んでは身の危険をも顧みず」34年間滅私奉公してきたつもりだから、こう書かれると「屈辱感」を感じる。「危険性を理由に」という箇所である。
「一方で何の防御手段も持たないJICA職員、専門家、更にはNGOの人々が、リスクをとってアフガンで平和構築に従事している」と言われるのだから尚更である。

 NGO伊藤和也氏が殺害された痛ましい事件も、こんな我が国の軍事音痴政治家が招いた事件だ、と私は思っている。彼は「政治家の無能に殺されたのである」といいたくなる。「危険地帯には軍隊を派遣せず、非武装の民間人が派遣され」仮に軍隊が出かけても、武器を使ってはならない、邦人保護よりも武器は自分を保護するためだ」といわれるのだから屈辱であり異常である。その異常さに気がつかないほど政界は異常なのだが、岡本氏は「若者達は理解力も意欲もある。ないのは、こうした資質を持つ若者達に示すべき国家としての行動の見本である」と締めくくったが、これはつまり、私が唱え続けている「教えざるの罪」を言うのだと思う。
 しかし、国内を見れば、民主党のお家騒動、「ぶたれ姫」の脱党騒動を見れば分かるように、わが政界の実態は、議員の偏差値を取り上げる以前の「見るに耐えない低脳」で「不潔感漂う野生動物達」の集合体にしか過ぎない様に感じられる。
 こんな「己の無能を国民の血で贖」って平然としている“政治屋”を選ばざるを得ないところに、今の日本の危機的状況があると私は理解し、塚本氏に同意する。

 今やインターネットの時代、国会議事堂を永田町ではなく、南鳥島などに移転し、高度に発達したコンピューターシステムで、霞ヶ関の官庁と情報交換して政策を進めるシステムにしたらいかがだろう?そんな「離島」に議員宿舎を作れば、「ぶたれ姫」も実力を発揮?できることだろう!
 冗談はさておき、岡本氏の次の提案を期待したい!

風土―人間学的考察 (岩波文庫)

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ルワンダ難民救援隊ザイール・ゴマの80日 [我が国最初の人道的国際救助活動]

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軍事研究 2008年 08月号 [雑誌]

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戦略論――間接的アプローチ

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戦略的思考とは何か (中公新書 (700))

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扶桑社新書 日本陸軍に学ぶ「部下を本気にさせる」マネジメント (扶桑社新書 28)

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