軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

ロシア、この「力治国家!」

 大麻取締法違反で逮捕されたロシア出身の元幕内力士「若ノ鵬」らが、日本相撲協会から解雇されたことを不服として訴訟を起こした。メディアに出ては「己の潔白」を主張しているが、裏で手練手管を誇る弁護士がうごめいているという。
 カメラを前に、大きな目玉を落ち着きなく動かして教えられたセリフ?をしゃべっている姿を見て、何とも哀れを禁じえない。帰国しても仕事があるはずはないから、彼らは出稼ぎを成功させる以外にない。幸い、理解ある?日本の弁護士がついてくれた、さてだめもとで一騒動・・・と考えているかどうか知らないが、「規律違反→審査→解雇→訴訟→日本企業の敗訴」という典型的なロシアの手口がついに日本相撲協会にまで波及したか、と考えてうら寂しくなる。

 平成13年(2001年)6月、有志とともに樺太(サハリン)を訪問した時、北緯50度に近い旧敷香ではホテルもなく、旧王子製紙の宿舎にトイレットペーパー持参で宿泊したのだが、豊原(ユジノサハリンスク)に戻って漸く人並みのホテルに宿泊できた。それも日本でいえばビジネスホテル並みのホテルなのだが、お湯も出ず、窓には鉄格子がある便所も不便な強制収容所並みの敷香での宿泊体験があったから、「サハリン・サッポロ」ホテルは“天国”であった。
 尤もフロントの従業員の態度は横柄で冷たかったが、それはサービスということを教えられていない「共産国」の通弊でもあり、平成9年(1997年)退官直後に訪問した北京のホテルもそうであったから、驚くことではなかった。
 一台しかないエレベーターは「二人とスーツケース乗り」に限定されていたが、確かにそれを知らずに手ぶらの6人が乗ったら1階で故障して扉が開かず、ロビーでぶらぶらしていた大男がバールでこじ開けてくれて「脱出」できた。彼はその目的で雇われていたらしい。
 その時、フロント係の「おばさん」が、「ここに書いてあるだろう!」とドアの脇の張り紙を指差して怒ったのだが、見るとそこには日本語で「二人」と書いてあった。
 日本語だから同じ体験をした日本人客が書いたもののようで、客がかなり“被害”にあっている証拠だが、フロント係が客に「説教する」事なんか日本のホテルでは考えられないから“感心”したものである!
 聞くとこのホテルは日本企業が「合弁?」で建てた物のようだが、今やロシア人の手に渡っているという。まるで中国の「ヤオハン」を思い出させるが、帰路、小型のAn機で函館に向かう途中、後ろの席に座った紳士が、私の仲間の元教授と会話しているのが聞こえた。
「どこに泊まられましたか?」
「サハリン・サッポロホテルです」
「そうですか、私はもっと大きなホテルを建てたのですが、見事に乗っ取られましてね。今回5回目の裁判がありそれで樺太に来たのですが、漸く勝ちました」
「どういうことですか?」
「サッポロホテルもそうですが、ホテルを建て、システムを整備し、従業員を教育し、準備万端整って開業にこぎつけると、従業員の中に無断で休む者が出る。業務に差し支えるので厳しく注意するが聞かないので解雇すると、彼らはすぐに裁判に訴えるのです」
「日本でもそんな訴訟が増えましたね」
「そうですがこの国の裁判は一方的で、経営者が悪いことにされ、その結果莫大な訴訟費用はもとより、結局追い出されることになって建物自体を取られることになる」
「サボった従業員のほうが当然裁かれるべきでしょう?」
「それは日本の考え、彼らは日本から奪うことが目的なのですから最初から計画的なのです」
「それじゃ国家ぐるみの詐欺じゃないですか?」
「その通りなのですが、一応裁判の形式を取っていますからクレームが付けにくい。4回まで戦いましたが負けて全部取られました。そこでどうにも気持ちが治まらないので、たまたま経済使節団がモスクワに行き、プーチンに会うと聞いたので、代表団の中の友人にプーチンへの直訴状を預けたのです」
「届きましたか?」
「勿論、彼はVIPでしたから・・・。そこで早速プーチンの指示が出たらしく、5回目の裁判が開かれるというので樺太に呼び出されたのです」
「結果はどうでした?」
「今度は、結審していた裁判に勝ちました。権力者の指示でしょう」
「それはよかった。しかしデタラメな裁判で日本では考えられませんね〜」
「そこで早速取り返せるものだけでも取り返そうと、手立てをうって来ました。力が支配する国との商売はよほど気をつけないとむしりとられるのが関の山です」
「日本人は全くお人よしですからね」
「政府もメディアも、そんな事実は伝えませんからね。現実は酷いものです」

 当時、サハリン北方で開発されていた石油・ガス田にも、相当な出資をしたはずだが、完成したとたんに、この実業家が体験したと同様な手口に引っかかったようだ。報道された「サハリンー2」プロジェクトである。
 国や大手商事会社までもがどうして易々とロシアの詐欺に引っかかるのだろう?と思ったものだが、たまたまロシアからの出稼ぎ力士の非常識な記者会見を見て、「またあの手を使っている!」と思い出したのである。
 今度は日本国内法が適用される筈だから、まさか彼らが勝訴することはないと思うが、今や法曹界までもロシア方式に手馴れた“国際派弁護士”の方々が支配しているかもしれないから油断はできない・・・


 昨日の産経「正論」欄に、ロシア問題の専門家・伊藤憲一氏が「ロシアの行動の本質的な意味」と題して、グルジア問題を取り上げ、「帝政時代から旧ソ連国家の本質を『力治国家』ととらえる私は、プーチン前政権のこの本質への回帰の危険性を感知していた」とし、その根拠として「プーチンが『暴力』依存の権力基盤を構築しつつあり、それがロシアの伝統的な政治文化である『力治国家』体制に適合すると判断したからだ」と述べている。そして今後、「国際社会が抱え込んだ新しい問題とは、ポスト冷戦期の安全保障の脅威である『ならず者国家』がロシアのような大国である場合には、どのように対応すべきか、という問題であろう」「ロシアが『新冷戦を恐れない』という以上、国際社会がそれを恐れていては問題は何も解決せず、事態はかえって悪化するのみ」だと書いたが全く同感である。
 所詮『テロはテロ』9・11を引き起こしたアルカイーダなどは、「犯罪者ではあっても、一国を代表した戦士ではない」。大国・アメリカがこんな「犯罪者」に振り回されているからこそ、北朝鮮のような「犯罪国家」が脚光を浴びるという皮肉な現象が起きるのである。レーガン元大統領はソ連を「諸悪の根源」と呼んだ。その血を引く「力治国家」ロシア対策を、「北方領土問題」でロシアとの間の「紛争当事国」である日本は忘れてはならないのだが、総裁選で何時まで「ワイドショー」を繰り広げるつもりだろうか・・・

 とまれ、ロシアのチンピラに加勢する日本人?弁護士の挙動を監視しておく必要がある。樺太のホテルオーナーが辛酸を舐めたような民主主義国に通用しない身勝手な「判例」が生まれると、次々にこの手の訴訟が連鎖して「日本相撲協会」のみならず、「日本国」そのものの根幹が危うくなると思うからである。

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