住まいから一山越えたところに「程久保」と云うところがある。有名な高幡不動尊の近くの、静かなところだが、ここに「勝五郎生まれ変わり物語」が残っている。
文政5年(1822)に、中野村(現八王子市)の勝五郎(当時8歳)が「自分は、もとは程久保村(現日野市程久保)の九兵衛の子供で藤蔵といい、6歳の時に疱瘡で亡くなった」と語り、調べたところ事実であることが分かり、このことが江戸中に広がる。
そして国学者だった平田篤胤が「勝五郎再生記聞」を著し、彼の「幽冥界研究」に資することになる。やがて小泉八雲が出した随想集の中の「勝五郎の転生」が外国でも認識されるようになった、丁度チベットの「ダライ・ラマ」と同じ有名な話である。
日野市郷土資料館が委託事業としてこれを調査しているのだが、この調査団主催の勉強会が昨日資料館で開催されたのである。
50人近くの参加者は、国学院大学の遠藤潤氏による2時間にわたる表題の講演に熱心に聞き入ったが、久しぶりに喧騒な時事問題から解放されて大いに勉強になった。
平田篤胤の命題は、本居宣長も追求していた「人は死ぬとどこに行くのか?」というものに答えようとしたもので、それが「幽冥界はどこにあるのか?」という講師の演題であった。
仏教では「西方浄土」といって西にある、としたが、丸い地球を西に進んでも行き着くところはない。
死者の世界は「月だ」「この世は二重になっているのだ」という意見もあったが、篤胤は「経験ができる世界=見える世界(現実世界)」と「経験ができない世界=見えない世界(つまり【夜見の世界(黄泉の世界】)と二重になっているのだ」と説き、その一つの材料として「勝五郎の生まれ変わり」を例に挙げていて、本居宣長は「貴きも賎きも善も悪も、死ぬればみな此の夜見の国に往くことぞ」と書いている。
浜松、東北勤務中にこの種の色々な体験をしたし、現実に「見える方々」にもお会いしたので関心があったのだが、先日の「ハインリッヒ・シーボルト」の研究会といい、今回の「平田篤胤」の話といい、土曜日の午後の忙しい時間を割いて勉強しようという熱心な方々の集まりが各地で開催されている事に感心した。
実は昨日は明治神宮会館でも「君に伝えたい日本」と云うシンポジウムが計画されていて、参加したいと思ってはいたのだが、こちらは私如きが参加しなくとも、大勢の参加者があるはずと思ったので「近い方」を選んだのである。
今朝の産経27面にこのシンポジウムが記事になっているが、「2000人が詰めかけた満員の会場には満ち足りた空気が流れていた」という。
私も国学者・平田篤胤の知られざる一面を覗いた気がして充実した半日だったが、ご先祖を崇拝する参加者から、今流行っている『千の風に乗って』という歌について質問が出たのは“ご愛嬌”だった。私はこの歌の歌詞よりも、某大手菓子メーカーのコマーシャル・ソング「だ〜れも居ないと思っていても・・・」の歌詞の方を信じている!
たまには全く違った方面の勉強をするのも気持ちの切り替えに非常にいいものだと思った次第。
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