軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

空幕長更迭

 金曜日の夜に「空幕長の論文が問題にされている」とメールや電話が入り情報が混乱したが、私は生憎翌早朝から札幌に出かけて講演することになっていたから、あまり深刻に受け取らなかった。しかし翌朝6時のニュースでいきなり「更迭!」と出たので驚いた。

 そのまま羽田に急ぎ、千歳で旧軍の先輩と陸自の同期に迎えられて札幌に向かい、午後講演をした。第66回北海道偕行会全道大会という、陸士で言えば53期から62期までという旧軍関係者と陸自OBの集まりで、80歳以上の方々が大半だったが、懇親会では空幕長更迭“事件”が話題になった。
 色々と質問されたが詳細を知らないので返答できなかったのが残念だった。
 出席者の中からは、「第二の栗栖事件だ」「防衛省は何時までこんなことをやっている!」「事勿れの官僚どもと政治家が、自衛官の口を塞いでいる」「自民党もだらしない!」「昔だったら226だ!」などと意気盛んな意見が噴出したが、私は努めて旧軍末期の体験談や、自衛隊草創期の裏話を伺うようにしたから、その意味では大いに有意義だった。

 9時過ぎにホテルに戻ったがTVでもつかめず、翌日ロビーで毎日新聞の社説を読み出したところにお迎えが来て千歳経由で帰京したから、とにかく情報欠如のままであった。

 帰宅すると留守電やメール、電話が続いて、何と無く全体像がつかめたが、良く整理してからゆっくり纏めたいと思っている。
 今日はチャンネル桜の「防衛漫談」収録だから、井上キャスターとの対話は当然これになるのだろうが、ここには情報が溢れているから助かる。


 そこで取り急ぎの感想を産経新聞から書くとして、まず1日付の産経トップだが「空自トップである現職の幕僚長が先の大戦侵略戦争と決め付ける見方に異論を唱え、憲法改正の必要性に言及する論文を発表するのは極めて異例。憲法解釈の制約などで十分な活動が出来ない自衛隊の現状に一石を投じる狙いがあったものと見られる」との言い回しに、何と無くひっかるものを感じた。
 麻生首相は31日夜「適切でない」と表明し、同日中の決着を浜田大臣に指示したそうだが、新テロ特などの「国会審議への影響を最小限にとどめたい考え」だという。しかしこれは「早まった」のではないか?真相と真意を確認してからでも遅くはなかっただろう。こんなことをするから「言葉狩り」と評されるのである。

 3面トップに高橋記者は「過去の歴史呪縛なお」「繰り返される『言葉狩り』」との見出しで、浜田防衛相が更迭を決めたのは『論文に野党が強く反発、今後の国会運営に大きな支障をきたすことが明らかな上、『平和の党』を掲げる連立相手の公明党も、更迭を求めることが確実だったためと見られる」と書いた。そして昭和61年の藤尾文部大臣、63年の奥野国土庁長官、平成6年の永野法務大臣、6年の桜井環境庁長官、7年の江藤総務庁長官(閣議後のオフレコ懇談)、そして今回の空幕長の例を挙げ、「こうした『言葉狩り』のような更迭劇が続くのは健全とは言い難い」「政府の公式見解が、綿密な検証や議論によって作られてきたかも疑問だ」「日本が『真の歴史認識』を構築するためには、例え政府部内であっても、自由に議論を交わせる土壌があってもいいのではないか。田母神氏の更迭は『過去の歴史の呪縛』を示している」と結んだが、同感である。

 2日の「主張」欄でも「歴史観封じてはならない」としてこの問題を取り上げ、空幕長が「国会審議などの影響がでるのは明らか」な時に「政府の一員としてそうしたことに配慮が足りなかったことは反省すべきだろう」として上で、「空自トップを一編の論文やその歴史観を理由に、何の弁明の機会も与えぬまま更迭した政府の姿勢も極めて異常である。疑問だといわざるを得ない」と書いたが同感である。

 浜田防衛相が、田母神論文が平成7年の「村山談話」以来引き継がれている政府見解と異なることを更迭の理由に挙げたが、確かに「談話」は先の大戦の要因を「植民地支配と侵略」と断じており、閣議決定もされているが、「談話はあくまで政府の歴史への『見解』であって『政策』ではない」。しかもさまざまな対立意見がある中で、「綿密な史実の検証や論議を経たものではなく、近隣諸国へ配慮を優先した極めて政治的なものだった」のだから、「むしろ今、政府がやるべきことは『村山談話』の中身を含め、歴史についての自由闊達な議論を行い、必要があれば見解を見直すということである」と締めくくっているが全く同感である。

 そこで野党に提案だが、是非とも田母神氏を国会に招致して、彼の意見を聞く場を作って欲しい。彼が空自トップとして“相応しいか否か”の議論は枝葉末節、相応しくない議員や官僚が数多居るのだからこの際帳消しにして、彼の意見をぜひ聞くべきである。

 麻生総理も、通い慣れたホテルのバーにでも彼を招待し、自衛隊の最高指揮官としてこの際徹底的に彼と議論を交わして、「いや〜漫画も良いが君の懸賞応募論文もなかなか味がある。しかし、このあたりの認識は私はこう思うがどうだ?…あそう!」くらいの度量を示して欲しいものである。
 このまま彼の口を封じたままで「おしまい」にすれば、来年の選挙は極めて不利になるだろう。


 その昔、JAL123便が御巣鷹山に墜落して520名もの犠牲者を出した時、位置特定や救難遅れ?についてあまりにも非常識な一部メディアの論評に私は官姓名を名乗った上で反論したが(以前ブログにも紹介した)、その後一新聞記者が「1佐なんか飛ばしてやる!」と怒鳴り込んできたことを思い出す。
 今度は1佐ではなく「空将」の首をとったのだから、さぞや某紙記者は得意だろう。そのとき私の論文に対してあまりにも無知な評論家が≪月曜評論≫紙上で反論し、質問してきたので、更にそれに反論しようとしたら、「国会で問題になる」「相手は元防衛庁部員(防衛庁内だけに通用する事務官の内部呼称)だから」とかいう理由で、「口封じ」された経験を持つ。
 今回もまたこのことを思い出したのだが、ある雑誌編集者からは「論文を読み一般の反応もサーチしたが、8割以上がが田母神氏を応援している。
 私の分析では論文後半に重点があったのであり、創設以来、憲法の呪縛で動きが取れない自衛隊を何とか『チェンジ』しようと考えた“確信犯”の自爆、もしくは特攻ではなかったか?と思う」と電話があった。

 そこに産経の「空自トップである現職の幕僚長が先の大戦侵略戦争と決め付ける見方に異論を唱え、憲法改正の必要性に言及する論文を発表するのは極めて異例。憲法解釈の制約などで十分な活動が出来ない自衛隊の現状に一石を投じる狙いがあったものと見られる」と云う論評が結びつくのである。
 もしそうだと仮定すれば、私には「自爆」でも「特攻」でもなく、陸士58期の大先輩が口走ったように、これはOBなどという影響力が限られた“老兵のたわごと”ではなく、人臣位を極めた田母神氏の現職としての「無血クーデター」ではなかったか?ととらえるべきではなかろうか。
 OBや後輩達がこれをどう受け止めるか?それよりも創設以来60年にならんとする「武力集団」が、如何に憲法の呪縛によって、戦力発揮を制限されてきたか、内部には“悶々とした不満”が蓄積されているか、を国民の前に公開した方がよいだろう。いや、すべきだと思う。或いは、隊内に鬱積する色々な問題を察知した彼の身を挺した「ガス抜き」作戦だったのかもしれない。それを「確信犯」というなら“犯”は別として理解できないでもない。

 そんな最中、彼の評価を落とそうという魂胆か、私は見ていないが、NHKが「田母神氏は首相と大臣に『御迷惑をかけた』と語った」と報道したらしいが、その事実は全くなく“NHKの創作”、つまりデマであるという後輩達からの怒りの情報も入った。

 そこで再び私は、JAL機事故のときに陸幕防衛部長が『米軍ヘリの応援を断った』と当時の夜9時からの「NC9」で報じられたことを思い出した。
 これは全く違った部分の取材テープをその場面だけつないで報じたものだったから内局広報課を通じて抗議したところ、NHKから幹部が来て『出るところに出て決着をつける』と“脅迫”されたことがあった。私は陸幕の森野防衛部長への取材の時に同席していて、広報課員の1人がなにを言われるか分からないから、といって個人的に録音していたのを知っていたから、いつでも応じます、その時はどの部分をどう利用したか全て録音してあるテープを公開します、といったところ驚いた様でそのまま帰っていったことを思い出す。一事が万事だとは言わないが今回もこれを聞いてそのときのことを思い出した。今回も、空幕広報はきちんと処理しているだろうか?

 田母神氏は空幕付き?としてまだ制服を着た状態で、その間副長が代行しているらしい。朝鮮半島では年内にも相当な混乱が生じるという情報も入っている。後継者争いらしいが、韓国も中国も油断はしていないだろう。
 そんなときに空自トップを交代させて、防空網に穴が生じてはなるまいに。
 せめて次期空幕長予定者は、『見ざる、聴かざる、言わざる』状態の針の筵に座る幕僚長になることは目に見えているから、就任を断ったらいいのだが・・・
「これじゃ部下は付いては来ません!そんな逆境に耐えたいとは思いません!」と、現代っ子らしく拒否したら、大臣はどうするだろう?今度は「土下座して」就任を依願するのだろうか?見ものなのだが。
 防衛省はしばし日銀総裁のように『空幕長席』を空白にしておいたほうが良い。茶坊主を据えて、形だけ整えるような愚挙をとったら、士気が低下して海自みたいに事故が多発するだろう。

 いずれにせよ、こんな風にみてくると、これは単なる「自爆」「や「特攻」ではなく、私は「憲法解釈の制約などで十分な活動が出来ない自衛隊の現状に一石を投じる狙い」で行った、彼独自の「無血クーデター」ではなかったのか?と思っているのだが・・・。

 とまれ明日は米国大統領選挙、ある意味で世界の枠組みが変化する重大イベント。麻生内閣にも「心構え」はできているものと推察しているが、さて?

≪北京抗日記念館に展示されいる「村山首相の書」
果たしてこれは公人の書?それとも私人の書?≫

我々だけの自衛隊

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自衛隊よ胸を張れ

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自衛隊員も知らなかった自衛隊

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自衛隊官舎若妻日記

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