軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

ウエルダン!

 昨日は陸士第59期会の大先輩方とお会いして、時間の経つのを忘れるくらい、5時間も話が弾んだ。特に戦後外務省に入省したK先輩の体験談は実に迫力があった。
 昭和50年に外務省出向を体験した私も、当時の高官方に、陸海軍出身者が多く居られ、軍事力は“無くとも”、培ったノウハウで、丁々発止の戦いをしておられたことを感じていたが、K先輩の話で裏づけが取れた気がした。
 その後、戦後育ちの“優秀な官僚達”が出て来るにつれ、外交は「ペンを持ってする戦争である」という意識が、うせてしまったのだろう。しかも悪いことに国家を忘れて「個人プレー」に走る傾向が強くなったことである。拉致問題にかかわったT審議官などはその悪例だろう。軍事力の裏づけのない外交ほど惨めなものはないと思う。


 さて話は変わるが、15日午後ニューヨークで起きたUSエアウェイズのA320型機の墜落事故は、機長の好判断で事なきを得た。今朝の新聞も機長の行動を絶賛しているが、元空軍パイロット、しかも私と同じF-4ファントムライダーだったから尚更嬉しくなった。
 産経によると、チェスリー・サレンバーガー機長(57)は、パイロットとして40年以上の経験を持ち、通算飛行時間は1万9000時間。米空軍士官学校卒、大学で修士号取得後米空軍でF-4戦闘機のパイロットを7年間務め、1980年にUSエアウェイズに入ったという。57歳で40年以上ものパイロット経験・・・といえば、17歳から飛んでいたことになる。1980年に民間に出たということは28歳で空軍を退役、その間7年間ファントムライダーだったというから、21歳からファントムに乗っていたことになる・・・。修士号取得も最短時間で取った俊才なのだろうが、それはともかく、現在も「航空会社操縦士協会で安全担当の委員長を務め」今回不時着後は「2回にわたって機内を見回り、乗客の無事を確認して、全員を機外に脱出させた」というから絶賛に値する。
 日本でもこれくらいの「ウエルダン」はあってよさそうなものに、と思うが、軍事排斥の風潮が強い日本では、自衛隊パイロットの活用は、防衛省国土交通省との取り決めで、年間15名、それも35歳以上に限られている(筈である)。
 軍人上がりの操作は“荒っぽい?”と誤解されているが、普段から「緊急事態」に備えた意識を叩き込まれているのが取り柄である。飛行時には、緊急事態に備えた緊張感を持続しておかなければ、いざという時に発揮できるものではないから、今回のウエルダンは、空軍出身者らしい処置だというべきだが、それにしてもサレンバーガー機長の沈着冷静な判断と行為は特筆に価するといえよう。

 私も戦闘機課程学生の時、F−86F(シングルエンジン)で離陸直後にエンジンが停止した時どうするか!と毎朝教官に叩き込まれたものだが、教官になった時にはそれを叩き込む側になった。
 浜松基地の滑走路は東西に向いており、西向きに離陸する場合は、浜名湖に突っ込めるから比較的安心感があったが、東向きに離陸する場合は、数本の国道を超えねばならず、早朝には車が渋滞している。その中に突っ込むのは絶対に避けねばならない。何とか頑張って市民球場までたどり着ければ、後は出来るだけ垂直に機体諸共突っ込め!と教えたものであった。今では住宅密集地になっているから、そんなことは、適用できないだろう。当時でもシーズンオフには中日ドラゴンズが練習中であったから、学生が「球場で選手が練習中だったらどうしますか?」と聞く場合があったが、時期が限られているからそれは運を天に任せるよりほかに無かった。
 何とか天竜川まで粘ることが出来たらシメタもの、川に沿って機首を向け着水、出来たらベイルアウトする。丁度今回のハドソン川に着水したように。「鮎釣りの釣り人がいたら?」とか「牛が放牧されていたら?」とか質問が出ることがあったが「万一の場合には司令官が責任を取ってくれる」といっても誰も信じなかった。軍刑法がない自衛隊は、警察によって取り調べられ、一般刑法によって事故当事者が処罰されるのであり、上司は口先だけ、精々「行政罰」を受けるだけだったから・・・。丁度イージス艦「あたご」と漁船の衝突事故では、海上保安庁(コーストガード)が「海軍」を取り調べたように。

 更にエンジンを騙し騙し海岸線を過ぎて海上に出たらラッキー!すかさずベイルアウトせよ、と教えたものであった。
そんな「地球より重い命の大切さ」を無視した「非人道的」教育のせいで、入間でT-33がエンジンが故障して滑走路にたどり着けないと分かった時、二人の乗員は懸命に操縦桿を支えて機首を入間川に向け、脱出高度を逸して墜死した。彼らは教えられたとおりに実行したのであろう。今回も犠牲者が出ていたらメディアはどう報じただろうか?渡り鳥には文句は言えなかっただろうから・・・

 バードストライク(鳥との衝突)も重大な問題である。昔は基地ごとに猟銃を持って追っ払っていたが、今は「野鳥保護」とかで制限が厳しいと聞く。超音波や擬音などで追い払う研究も盛んだが、相手は生き物、人間の裏をかくので効果は上がらない。
 飛行中に突然視野に入った鳥は、小型であっても瞬間機体周辺を通過するからあわてて回避すると、編隊間で衝突しかねないし、第一回避は間に合わない。
 私は着陸時、接地直後に数羽の鴨が滑走路上から飛び立ったが、そのまま直進していたらなんと飛び立った鴨はなぜか戻ってきて脚に「こつん!」と当たった。後続機が「雀の死骸が滑走路上に散乱しています」と管制塔に言ったが、雀ではなくバラバラになった鴨であった。
 何と無く気になった私は、ランプイン後のクーリングを止め、空気取り入れ口からエンジンを点検させると、エンジン直前のスクリーン(Fー86Fには異物混入を避けるためのスクリーンがついていて、着陸直前に下ろして使うことになっていた)に鴨がまるまる一羽引っかかっていた。整備員が取り出してきて「これ頂きます。今晩鴨鍋にします!」と言い、仲間の整備員が「また次を御願いします!」と嬉しそうに言ったものであった。

 羽田空港も海に近いだけに渡り鳥が目に付く。多くの客の命を預かっている機長にとっては神経が休まるまい。他山の石では済まされない出来事である。

墜落!の瞬間―ボイスレコーダーが語る真実 (ヴィレッジブックス)

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ジェット・ルートJ11L―全日空・自衛隊機空中接触事故の真相 (1975年)

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真説 日本航空機事故簿

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墜落!からの生還―生存者が語る航空機事故の真実 (ヴィレッジブックス)

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