軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

自主防衛第一、「足らざるを同盟で」が筋

 小沢民主党代表が、「在日米軍第7艦隊だけで十分ではないか」と発言したことが波紋を呼んでいる。小沢発言の根拠がどうも分からないが、「日本が自らの安全保障と極東での役割をしっかりになっていくことで話がつくと思う」と付け足したことから見れば、「自主防衛第一」と考えた上での発言だろうか?それならそうと、しっかり国民に説明し、臥薪嘗胆、自衛力増強を訴えるべきであろう。
 ならば納得できるが、そうでなく「何と無く言った見ただけ」だったらとしたら無責任も甚だしい。

 片務条約として名高い!日米安保条約は、当時の岸首相が政治生命を懸けて改定して以降、部分的見直しはあったものの、集団的自衛権問題に象徴されているように、いまだ常識的な「同盟条約」とはいい難い。
 そこで独立国たる日本自ら脅威に対処出来る「防衛力」を整備して、足らざるを日米同盟で補完するという至極全うな考えを述べた上で、その場合の「補完戦力として」第7艦隊を挙げたのなら分からないでもないが、どうも戦力算定等、基本的な理論に立ったものではなさそうであるから、産経が「政権交代を目指す政党のトップとしての見識を問う」と書いたのも当然である。

 小沢氏は「米軍もこの時代に前線に部隊を置いておく意味はなく、軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンスは第7艦隊で十分ではないか」という“空想的”将来像を描いて発言したらしいが、わが国周辺の「脅威の見積もり」をどうやって分析しているのだろう?
 以前、国会会期中だったと思うが、胡錦党主席に代表団を引き連れて会見に行き、満面の笑みを浮かべて記念写真を撮って帰って来たと報道されたことがあったが、中国の軍備増強は「計算外」なのか、それとも中国との「密約」でもあって脅威ではないと信じているからだろうか?


 現役時代、当時脅威の最たるものであった「ソ連軍」の極東方面の脅威見積もりを立て、三自衛隊は国土防衛に必要な戦力(自衛力)をそれぞれ算定して防衛力整備を続けてきたが、GNPの1%以内の「最小限度の防衛力整備」という枠にとらわれ、それこそ効果的な戦力算定に真剣に取り組んだものであった。
 しかし、空は空、海も陸も同様にそれぞれの特性を持つ戦略があるから、「最小限度の戦力整備」を心がけるのだがとても満足できる戦力整備は出来ない。しかし、パイは限られている。
 そこで政府は日米安保を“有効活用”して、「自衛隊は盾」「米軍は槍」という「盾とヤリとの関係」だと宣伝して、国民を安心させてきた。
 しかしそれはあくまで国内向け、日米共同で訓練している「現場」ではそうはいかなかった。我々は日本防衛のために「攻めてくる敵軍を自国領域内で防ぐのが日本青年」で、最も危険な敵地攻撃に「米国青年の血を要求」する理不尽さに、日米同盟の危機を痛感していたものであった。つまり、自分の国を守るため、日本人が真っ先に槍となって敵地に突き進んではじめて「同盟軍」は助けてくれるものであって、自分は防壁の中で「防戦」し、同盟軍に「敵の策源地へ強行攻撃させる」のは、同盟関係を自ら崩壊させると感じていたからである。それでは「武士の末裔」として何とも恥ずかしい!

 元寇の役まで遡らずとも、朝鮮戦争では、建軍間もない韓国軍は、決死の覚悟で北朝鮮軍と戦い、それを見た同盟国(主として米軍)はこれを懸命に助けたのであって、韓国軍が戦場を放棄して釜山周辺に立てこもり、米軍に「先に行け行け!戦ってこい!」と38度線への進撃をけしかけていたとしたら、今頃半島は北朝鮮のものになっていただろう。

 だから今でも韓国の仁川の上陸地点には、当時参戦してくれた連合国に感謝するメモリアルが建っているのである。そんな基礎的な安全保障の根幹を無視して、自国防衛もいい加減なわが国が、来てくれるのは「第7艦隊だけで結構」などといえた義理ではあるまい!

 当時、ソ連の脅威に対処していた三自衛隊に対して、「専守防衛」である以上、ソ連軍の着上陸を防げば防衛成立なのだから、着上陸を防ぐための「空海戦力の充実」に予算を当てて、陸上自衛隊は不用だという極論を吐いた識者もいたが、今回の小沢発言はそれに似ている。
 自民党幹部からは『日米防衛問題の実情に無知な不見識発言だ』と批判され、米国でも相当な不評を買っているが、これじゃ仮に政権交代しても、オバマ政権からも相手にされないのではなかろうか?

 国家戦略なき日本の実情を余すことなく示した今回の発言が、中国側から何らかの示唆を受けたものではないように祈りたい。日米離間工作としては最も効果的な『ヒット』発言だったからである。


 さて、田母神“効果”は、依然として続いている。田母神氏の人気は高まるばかりで、今日は米国に講演に行っているが、その反響も多いに楽しみである。今朝の産経は、防衛省に気兼ねした一部が『講演参加自主規制』をしているそうだが、何とも官僚的で姑息な『言論統制』である。防衛関連企業はもとより、関連団体が自粛する根拠とは何だろう?何をちらつかせて自由な行動を牽制しているのだろう?何と無く憲法違反で、全体主義国家に似たことが続いているようだが、これでは“自由民主主義”社会の名が聞いてあきれる。

 またまた「田母神塾」という彼の著書が出版されたが、軍事に疎い『現場知らず』の議員の方々の必読の書ではないか。良い機会だから、空想的安全保障論を発言する前に、一度彼の著作に目を通されることをお勧めしたい。

大戦略パーフェクト3.0

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田母神塾―これが誇りある日本の教科書だ

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