軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

集団的自衛権問題解決を急げ!

 昨日は「日本ヒューマンファクター研究所所長・黒田勲先生を送る会」に参列してきた。700名を超える各界の方々が参列され、厳かな雰囲気だったが、黒田先生には操縦学生時代からご指導いただき、先生に心酔している一人である。
 黒田先生は、北大医学部を卒業され、航空自衛隊に入隊、航空医学の第一人者になられた方である。航空自衛隊の操縦者で先生を知らないものはいないだろう。最後は立川の航空医学実験隊長(空将)で退官されたが、航空事故調査の第一人者でもあり、航空自衛隊に「航空安全管理隊」を創設されたが、とりわけ航空医学部門では国際的な存在であった。

 とにかく発想がユニークで人間心理に造詣が深く、「飛行と体」「飛行と心」「ヒューマンファクターを探る」など著書も数知れない。先生の信念は「現場を知ること」であり、飛行隊のオペレーションはもとより、整備小隊にも顔を出され、気さくに隊員たちと話をされた。

「雫石事故」で鑑定書を出されたのは勿論、私が広報室長だった時の「御巣鷹山事故」などで、いろいろとご指導を頂いたが、事故調査では、一般的に「責任追及型」が多い中、それでは事故の再発は防げないとして、先生は数少ない「原因追求型」で、官僚社会には珍しい「頭が柔らかい」方であった。まだまだご活躍を期待していたのだが、2月中旬に突然の訃報が届き絶句したものである。部内誌に「黒田曲臍」という名前で書かれた名文は現役時代の貴重な参考書であった。ご生前のご指導に感謝し、心からご冥福をお祈りしたい。


 さて、いよいよ4月、関東地方は今週末が「お花見絶好日」だという。年に一度の桜のシーズン、大いに憂さ晴らしと行きたいものだが、“節酒”だから気分も乗らない。
 そんな春先の絶好のシーズンに、自衛隊のMD部隊は配備に就いた。「ピストルの弾をピストルで撃つような…」と言ってみたり、「日本列島を越えるとき、ゴルフボールのように見えたら面白い」とか、何ともまあ、ノー天気な発言が永田町方面から伝わってくるが、ペトリオットが搬入されるのを見た地元の男性が取材者に向かって「怖いですね」と言ったのには驚いた。北朝鮮のミサイル“破片”落下が怖いのか?と思ったら、自衛隊のミサイルが「怖い」のだという。
 このような場合には「頼もしい。是非撃墜して欲しい」というのが「フツーの日本の男」の言葉だろうに。
 戦後60年余、日本の男はこれほど「玉抜き」になったかと思うと実に情けない。むしろ、若い女性の方がしっかりしている様に思う。今回は、「情けない男の発言」だけをTVが特集して放映したのだと思いたいが、男が頼りなくなると、「女性が本能的に強くなる」のだろう。福岡の83歳のおばあさんが、22歳の鉄棒を持った泥棒男をとっ捕まえたと報道されたが、何か象徴的でさえある。日本男児よ、しっかりしよう!

 ところでこのミサイル事案は、いつに天候に左右されるだろうから北朝鮮側の意思決定が見ものだが、いずれにせよ、日米同時対処などと報道されているものの、米国が「米本土に危害が及ばないかぎり対応しない」というのはある意味当然だろう。


 その昔、沖縄上空をソ連の電子偵察機が2度にわたって領空侵犯したが、日本領空を防衛するのは航空自衛隊の任務であって嘉手納の米空軍ではないから、「お手並み拝見」とばかりに、米軍は「電波封止」をして観察していた。“たまたま?”対処したファントムが「警告射撃」を実施したから、米空軍は評価してくれたが、そうでなかったらどうだったか知れなかった。

 今回も、まず自国防衛は自国が第一義的に対処するものである。勿論、情報交換は密接だろうが、万一の場合、第一発を発射するのはわが国でなくてはならない。出来れば、日本上空をかすめるか否かは別に、米本土に飛ぶ恐れがあると判定された場合にも、海自のイージス艦は日米共同でこれに対処すべきであろう。それが同盟関係というものである。

 ところで30日の産経一面に、外交評論家の岡本行夫氏が「若き防人達へ」と題して、防大卒業式でのスピーチを書いていたが、集団的自衛権という観点から、いささか首を傾げざるを得なかった。
自衛隊員が万一日本に対する侵略が行われた時を想定する緊張感を持続するには、並大抵ではない努力が必要だ」として、「米国が日本のために実際に侵略国に対して報復するかどうかより、周辺諸国の『米国は日本のために必ず報復するだろう』との印象(パーセプション)が重要である」というのだが、楽観的過ぎないか?
 周辺諸国(ロシア、中国、北朝鮮…)がそう思うのは自由だが、思わなかったときにどうするのか?軍事力行使は「ヴァーチャルの遊びごと」ではない。

 岡本氏はその好例として9・11テロの一週間後に、「横須賀を実質的な母港とする米第7艦隊も横須賀から硫黄島へ退避することになった。そのとき、第7艦隊の前後を2隻の日本の護衛艦が警戒しながら、東京湾を南下した。この場面は米国のテレビでくりかえし放映され、米国民の大きな感動を呼んだ。その映像を見たであろう周辺諸国は、日米同盟の緊密さを知って、日本に攻撃を仕掛ければ米軍は核攻撃を含む報復行動をしてくるだろうと確信したに違いない」とあるが、本当だろうか?
 当時「第7艦隊ならぬ“空母キティホーク”の護衛は、集団的自衛権の行使に抵触するとか何とかで、政府は渋ったと報道されたはずだが、政府の指示で2隻の護衛艦は「キティホーク」を護衛したのか?
 もしあの時、明確なシビリアンからの「指示」が出ていたとしたら是非お教え願いたいものである。
 たまたま“偶然に”2隻の護衛艦は、訓練に出航して、水道を相前後して並んで通過しただけではなかったのか?
 勿論、TVで放映された画面を見た米国民はそんなことは知らないだろうから「大きな感動を呼んだ」に違いないし、周辺諸国も「日米同盟の緊密さ」を知って「報復行動」を確信したかもしれないが、これが本来の「フツーの姿」であるとしても、当然のこととして「同盟関係を象徴する」行動が取れないのが「大問題」なのである。

 あの時は、現場指揮官の「機転が利いた」対応ですんだと聞いているが、そんな現場の知恵が如何にこの国の防衛に貢献しているか、周辺諸国の「印象付け」に貢献しているかを率直に語って欲しかった。
 そんな裏話を知らないで「若き防人達へ」日米同盟を印象付けようとしても、彼らは部隊に行けば「ことの真実」を知ることになる。折角のお話が台無しにならないようにするためには、是非とも普通の国並みに「集団的自衛権」が行使できるように格別の努力をしていただきたいと思う。

集団的自衛権―論争のために (PHP新書)

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【ミリタリー選書27】BMD〈弾道ミサイル防衛〉がわかる (突如襲いくる弾道ミサイルの脅威に対抗せよ)

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