軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

国連の無力さ

 北のミサイル発射は、安保理決議1718“違反”だと皆が認識していながら、中国やロシアの消極的態度で「議長声明」に変更されるという。「北に罰を与えなければならない」と強硬な意見を吐いていたオバマ大統領は、今何を考えているのだろう? 所詮国連の「安保理決議」には、何の効力もないことは予想していたが、今回は同盟国・米国の態度までもがあまりにも歴然としていたので、いくらお人よし日本人でもやっと国際関係の実態に気がつき始めたのではないか?


 米国は、ブッシュ大統領共和党時代にも、北朝鮮の横暴に対して「強い対応を取る。対応には軍事力も含まれる」とか「軍事力使用も否定しない」などと威勢のよい掛け声が聞かれたものだが、確かに朝鮮半島上空をステルス戦闘爆撃機などが飛びまわった事実はあるものの、「強硬な力の行使」はついに行われなかったから、首領様は米国にその勇気はない!と自信を持った。

 日本に対しては、日本人を拉致したことを認めても、日本政府からは何のお咎めもないばかりか、経済支援まで戴いたから、小ばかにしきっている。その上世界の超大国・米国も「口先だけ」であることが今回証明された。
 次は8000キロ飛ぶテポドン??をハワイ近辺に打ち込む気だろう。それでも多分アフガンに気を取られている米国は反撃しない、と読んでいるのかもれない。


 今回は、事前には、日米韓が結束して強硬な姿勢を示すといわれていたが、当初は日本に期待を持たせていた肝心の米国が「さっさと」議長声明に態度を変更したから、日米間の“蜜月”は、もろくも数日間で崩壊したわけだ。

 この事態に直面した麻生総理はやむを得ず「今でも決議が望ましい」と思いつつも、「強い内容が確保され、国際社会が一致して迅速にメッセージが出せるのなら、形式に固執する必要はない」と姿勢を後退させた。
「国際社会が一致して“強い内容のメッセージ”を出すこと」が、北に対してどんな効果があるのだろう?経済制裁してみても、殆ど中国などを経由した取引が行われていて、効果が薄いことはわかっているではないか。
「時間がかかることで、国際社会は一致して対応し切れていないという誤ったメッセージが、北朝鮮に伝わるのは望ましくない」と総理は言うが、結束していないことは既に北朝鮮側には十分伝わっている。


 フランス革命ナポレオン戦争終結後のヨーロッパの秩序再建と領土分割を目的として、1814年9月1日から開催されたウィーン会議は、1792年より以前の状態に戻す正統主義を原則としたが、各国の利害が衝突して数ヶ月を経ても遅々として進行せず、『会議は踊る、されど進まず』と評された。
 ところが1815年3月にナポレオンがエルバ島を脱出したとの報が入ると、危機感を抱いた各国の間で妥協が成立しウィーン議定書が締結された。
 わが国には小田原合戦時の故事から「小田原評定」という言葉がある。「いつになっても決まらない会議や相談」という意味の諺で、ウィーン会議にちなんだ「会議は踊る…」と同じもの、国連も同じ状況だといえなくもない。それとも、ナポレオンがエルバ島を脱出した例のように、北朝鮮が「核搭載ICBM」を配備しない限り、国連は深刻に考えないのか?


 既にブログに書いたことだが、「国際連合」という用語は日本独特の「翻訳」で、「連合国」が正式の語源である。
中国などとの会議でも、日本側は「国際連合」という国際機関を意識して用いているが、彼らは「連合国=第二次大戦の戦勝国」と解釈して発言している。そろそろ日本も「“国連”信奉主義」から目覚めたらどうだろうか?


 先日、国連の藩事務総長が「米国の“会費納入”状況」について発言して物議をかもしたが、2007年のPKOを除く国連分担金比率は、米国(22・0%)、日本(16・624%)、ドイツ(8・577%)、フランス(6・701%)、英国(6・642%)、イタリア(5・079%)、カナダ(2・877%)、スペイン(2・968%)、中国(2・716%)、メキシコ(2・257%)で韓国は上位10位以内に入っていないのに、藩事務総長は大した度胸だ、と思う。

 2007年の国防支出費は、米・ロ・中・英・仏・の順で日本は6番目、しかし、上位5カ国はいずれも核保有国であり、“国連”安保理常任理事国である。ということは、いくら高額な会費を納入しても“核クラブ会員”以外は常任理事国にはなれないのであって、今回の北朝鮮に対する圧力なんぞ鼻から誰も真剣には考えていなかったのだろう。
“国連”は今や、巨大な国際官僚機関なのであって、いわば役人主義がはびこっている。そんな機関を信奉して、自らの国運を懸けているのは本末転倒、時代遅れもはなはだしいのではないか?

 別に脱退せよとまでは言わないが、今回の件で「日本の国益」という観点から再考してみる必要があると思う。メリットのない組織にいつまでも会費を納入し続けている「会員」はよほどの金持ちか、肩書きがほしいだけなのではないか?
 メリットのない会の『会員』であり続ける必要があるのか無いのか!せめて納入する「会費の額」を再検討する必要はあろうと思う。
『お人よし日本!日本大スキ!』と、開発途上国などから親しまれることは別にかまわないが、軍事大国や核クラブ会員達から、単に利用され“軽蔑”されるだけの「会員」であることに大いなる疑問を感じるからである。

「国連」という錯覚―日本人の知らない国際力学

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国連の限界/国連の未来

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国連憲章

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