軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

国防再考の好機?

 昨日は岡崎研で一日中、中国山東大学アジア太平洋研究所所長以下4名の研究者と『安保』対話をした。
 第一議題は『アジア太平洋地域の安全保障問題』で、私が約10分間で問題提起をした。
 時間の制約で「安全保障上の注目点」として、(1)朝鮮半島問題(ミサイル発射事案)(2)中国の軍拡問題、に絞って簡単なレジュメを元に指摘したが、(1)については中国側はあくまでも6者協議を中心に、といい、(2)については、時間切れで明確な反応はなかった。

 第二議題は『経済問題』で専門家の吉崎氏が「G20」について提起し、第三議題は『朝鮮半島問題』で、これまた半島専門家の武貞氏が今回のミサイル事案について詳細な提言をし、それぞれ中国側も提言したので時間が足りなくなった。


 中国側は所長以外は30〜40代の若手のドクターで、米国留学経験などもありなかなかの論客だったが、夕食会では若さを露呈し?好感が持てる青年たちだった。日本の青年達にもこの位の安全保障観と経済問題に対する関心がほしいものだ、と思った。
 彼らは初来日だったそうで、成田でのトラブル(駐車場での料金支払い?)では、状況を詳細に聞いた上で係員が判断して通過させてくれたことに“異常なほど”感心していた。中国では、この手のトラブルでは料金の二重払いを強要されるか公安での取り調べになる?のだろう。

 東京は人口密度がすごいので相当混雑していると聞かされてきたが混雑どころか交通もスムーズで驚いた、と正直に語ってくれたが、「東京=ラッシュアワーの山手線」の印象がメディアによって誇大に伝えられているのか、または中国の交通事情と同じだと思い込んで来たからだろうか、面白い発言だった。
 とまれ、息子と同じ年代の青年達が、世界経済やアジアの安全保障について、国益を重視しつつ堂々と持論を展開する姿は印象的だった。


 さて、今朝の産経一面の「塩爺・・・」欄の「国防再考こそ『北の教訓』」は、やっと日本にも全うな国防再考論が出現したか、と感慨無量だった。当たり前の内容なのだが、それがいかにも「新鮮に」聞こえるところが戦後“平和主義日本”なのだろう。
 塩川氏は今回のミサイル事案を「ドタバタ劇」で「幻影に怯え」、「危機対応能力の軽薄さを示し」「ミサイルを『飛翔体』とか『ロケット』とか呼んでいるようでは、相手の思うつぼだ」といったが同感である。
『ミサイル』とは『飛び道具』のこと、「ロケットエンジンなどで飛び、内蔵する装置などによって目標に到達する兵器。誘導弾」と一般に言われているから、『飛翔体=鳥のように空中を飛ぶ物体』のほうを採用して、いかにも“軍事色”を弱めようとしたのだろうが、まるで未確認飛翔物体(UFO)的発想でそんな他愛もないところに“知恵”を働かせるお役人サン達の狼狽振りも滑稽であった。

「いざというときに右往左往しなくて済むよう、われわれは今の自衛隊の能力だけで国防の責任を果たせるのかどうかを、真剣に考えておくべきではないか」「自衛隊の編成、装備を根本的に見直し、人材育成にも真剣に取り組んでもらいたい」「予算の使い方に反省するべき点があった」「早期警戒衛星を自前で持つこと」「日本の周辺を独力で守れる態勢の整備を進めるのと同時に、これまで以上に自衛隊と米軍の一体化を図り、弾道ミサイルの脅威に対処すること」「外交だけでは安全を確保できない」とし「国論を統一して国家としての意思を明確にすることが肝心だ」と塩川氏は結んだが、退官後11年を経過した私が初めて見たといって良いくらい『全うな国防論』であった。しかも元財務相の発言であるから重いというべきだろう。

 自衛隊の予算を大幅カットして活動を窮屈にした張本人の元主計官・片山さつき氏は、次回選挙で苦境を強いられ「静岡県知事出馬」を考えていると「週刊新潮」にでている。いやはや、次は静岡県を骨抜きにする気か?最も誤報を出した週刊誌だから、“慎重”に見極める必要があろうが・・・。

 何度でも書くが、『備えなければ斯くの如し』なのであり、看板を「庁」から「省」に書き換えてみたところで、中身は同じなのだから、根本的な見直しが進められるはずはない。ましてや人材育成に熱心だった田母神前空幕長を排除するようでは“塩爺”がいくら正論を叫んでも、期待は出来そうにもない。

 国防の根底に横たわっている『憲法の呪縛』を根こそぎ変えない限り、今後も繰り返される事案であることは疑いない。
「これまで以上に自衛隊と米軍の一体化を図り、弾道ミサイルの脅威に対処する」ためには、ただちに「集団的自衛権解釈」を変更することであり、「国論を統一して国家としての意思を明確にすることが肝心だ」というのであれば、憲法改正を俎上に載せることである。

 それなくしては、戦後教育を受けた日本国民が、今回の「北の教訓」ぐらいで「国防」を再考することはないであろう、と私は最近悲観的に感じている。

今から『史料調査会』恒例の研究会。今日は『ガザ戦争と米オバマ政権の中東和平政策』という題で、森戸幸次・静岡産業大教授が話をする。楽しみな内容であり大いに期待している。

憲法の常識 常識の憲法 (文春新書)

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