軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

天安門事件20周年

 6月4日の今日は中国天安門事件の20周年に当たる。以前から相当警戒されていたようだが、各地でデモらしきものがあったものの、官憲に厳重に封じ込められているようだ。
 産経7面のジャーナリスト石平氏の「随想」文には、この日は「心の死」を体験した日だとある。戦車部隊の出動を命じたトウ小平は「人民とエリート達を市場経済の中での富の追求に狂奔させることによって天安門事件に対する彼らの記憶を希薄にし、経済の成長と繁栄をもって血の鎮圧を正当化しようとしたのである」と書き、その直後に誕生した江沢民政権は「もう一つの国策級の戦略を打ち出し」たが、それが「『反日教育』の推進とセットにされた愛国主義精神昂揚運動の展開」だという。つまり、それもまた「天安門」を強く意識し、国民の憎しみを日本という「外敵」に向かわせて共産党の犯した罪をもみ消し、崩壊した共産主義の神話に取って代わって「愛国主義」を政権維持の新しいイデオロギーに奉ったわけ」で、これら「経済成長と愛国主義精神昂揚運動の展開は、いずれも共産党政権による『天安門善後策』の産物であると理解できる」というのである。

 国内騒乱による政権崩壊を、このような手段で克服した「魔術的な」成果も、「その効力を失おうとして」いるが、「血の鎮圧を代償にして図られた『成長と繁栄』が音を立てて崩れるのは当然の報いだが、この巨大国の今後の行方は、われわれ東アジアにとって、やはり最大の懸念であろう」というが同感である。

 
 その隣の「正論」欄に、平松茂雄氏が「中国の軍事力増強を見据えよ」と題して、「天安門事件後の権力闘争」と「江沢民の軍の2段階改革」を挙げ、軍の改革が進展したのは、軍と無関係だった江沢民氏が「『能吏』としてトウ小平氏の敷いた路線を忠実に実行した成果」だと書いた。
 中国の軍事費は既に米国に次いで2位となり、やがてGDPも日本を抜いて米国に次ぐ第二位にならんとしている。その米国では象徴的なGMがつぶれ、軍用車両部門の「ハマー」は中国四川謄中重工機械に身売りされた。


 他方北朝鮮では後継者問題が急浮上していて、半島は実に不安定である。そんな最中、わが国では、先のミサイル、核実験で目を覚ましかけた自民党が「敵基地攻撃能力」を提言し、「専守防衛の範囲で、ミサイル策源地攻撃能力を保有し、米軍の情報、打撃力とあいまった、より強固な日米協力体制を確立することが必要」だとして、海上発射型巡航ミサイル導入を提言、同時に「陸海空自衛隊ともやりくりの限界を越えている。防衛力整備に必要な防衛予算及び整備基盤の維持・拡充を行うべきだ」として、防衛費縮減方針の撤回要求と、防衛費と自衛官の定員を維持・拡充するよう要求したという。
 これに対して早速、崔天凱・中国大使が「北朝鮮の核実験に関連して日本の一部で日本を標的としたミサイル基地への先制攻撃論が浮上していること」を牽制したらしい。
「敵基地攻撃能力保持」を「先制攻撃論」と受け止めるのは理解が足りない証拠、というよりも自分達が常識的に「先制攻撃」を意識しているからに他なるまい。台湾に対してもそう威嚇してきたし、チベットウイグルなどでは、如何に対象が“自国民”だとはいえ、人民“解放軍”という名の軍隊の手で先制攻撃的に蹂躙したのであり、20年前の天安門広場事件も、無抵抗な学生達を戦車で蹴散らし700名以上もの死者を出したのだから、「敵基地攻撃」を『先制攻撃』と受け止めても仕方ない国柄だとはいえる。


 ところで奇妙なのは、日本国の政党を標榜し与党に組している「公明党」の態度である。これらの点について「自民党が進めると言うことになれば、うちは体を張って止めることになるだろう」と、敵基地攻撃、北朝鮮船舶への貨物検査を行う新法に反対する考えを示したと言う。
 更にこの公明党幹部は産経によると「『日本人が一人死ぬまでは何も出来ないというのはどういうことだ』という世論になると大変だ」と語ったそうだが、奇妙な文章だから理解しにくいが、要は公明党は『日本人が一人死ぬまでは何もするな』と考えていると言うことか? つまりこれも「先制攻撃論」的考えで、北朝鮮の首領様に対しては、日本から先制攻撃してはならない、いや、自衛隊にはそうはさせないために『体を張る』という風に聞こえる。

 そう受け止めると、一体『公明党』とは日本の政党なのか?それとも北朝鮮の政党なのか?どっちかはっきりさせて欲しいと思う。
 若し北朝鮮のために体を張る政党だとすれば、自民党はとんでもない敵性政党と手を組んだものだ。これでは『呉越同舟』以上に始末が悪いではないか。次回の総選挙では、こんな不明朗な関係が払拭されることを強く望みたい。


 さて話題は変わるが、昨日の午後は、拓殖大学八王子キャンパスで行われている『世界の中の日本』という講座で一時間講義をしてきた。私は『国際軍事関係論(安全保障の基本概念について)』と題して「丸い地球を四角く見る=メルカトル図法」の弊害を説き、丸い地球は地球儀上で、宇宙から眺める癖をつけて欲しい、と言う持論を展開したのだが、350名の1、2年生達は、熱心に聴講してくれた。
 ゲンダイ青年たちだから、多少の『ぶしつけはご容赦を』と事前にクギを刺されていたが、私がしゃべりだすと、多分深夜までのバイトで疲れていたのだろう「机に臥せっていた」2〜3名の男子学生も身を起こし、最後まで聞いてくれた。女子学生が非常に目立ったのには驚いた。中国や台湾、韓国からも数名留学しているそうだが、見分けはつかなかった。
 最後に質問を受けたが、私の講義内容とは無関係な「日航機墜落事故時に、米軍がスクランブルして救援しようといったのを自衛隊が断ったのか?」という質問があったが、これも当時のNHKのでデマ報道の影響だと残念に思った。

 これについては近々発行される『撃論ムック』に生の体験談を書いたからご参照いただきたいが、雫石事件も、JAL機事故も、なだしお、あたご事故も、いわれなき『自衛隊悪玉論』であるから、いずれ国民の誤解を解かねばならないと痛感した。とまれ、軍事、安全保障問題については、現代学生達には理解困難なようで、教えざるの罪の深さを確認できた。今後一ヶ月間でこれら350名分の所感に目を通し『採点』しなければならないので、にわか客員教授は忙しくなる!
しかし、久しぶりに息子よりも若い、多くの青年男女に話ができて、現役時代の『幹部教育』を思い出しつつ、懐かしく嬉しいひと時だった。

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