4月17日、防大時代の大隊指導教官・桑江良逢閣下が亡くなった。
大正11年沖縄首里に生まれ、沖縄1中から広島幼年学校を経て陸軍士官学校に入り、昭和16年8月、卒業と同時に満州東部国境警備部隊に配属、昭和19年2月には内南洋のメレヨン島守備隊で中隊長として“飢餓”と戦い、戦後失った部下のご遺族を巡礼された。(『メレヨン島、生と死の記録(朝日新聞社・昭和41年刊)』に詳しい)
青春時代のもっとも大事な時期に、桑江教官に出会い、薫陶を受けたことは私にとって極めて幸運だったと思っている。
桑江教官はその後昭和47年3月に臨時第一混成群長に発令されて沖縄移駐の準備に当たり、同年10月に移駐、昭和51年8月まで第1混成団長を務めて退官された。
しかしこの人事発令については、いささか腑に落ちない混乱があったように私は記憶している。全国各地からの“寄せ集め”になったせいか編成自体も大幅に遅れ、高射特科群が移駐完了して混成団になったのは昭和48年2月であった。
雫石事故の後だったから大多忙だった私でさえ不思議に思ったのは、部隊を立ち上げて沖縄に移駐し、全ての準備が整った時点で桑江群長が団長に昇格するべきなのに、昭和48年3月に群から『混成団』への昇格に伴い、初代団長として同期のO陸将補が東京から着任し、桑江1佐は副団長になったのである。沖縄県の“特殊事情”からいろいろ配慮したのかもしれないが何となく理解に苦しんだ覚えがあるが、陸幕にとってもこれが裏目に出たことは間違いなかった。
桑江初代“群長”の心中はさぞかし複雑だったろう。しかし黙々と上司に仕え、昭和49年7月に副団長から第2代混成団長に就任したのであったが、「人事は統率の基本」のはず、当時の陸幕は禍根を残したようであった。
平成8年3月25日、南西航空混成団司令に着任した私を心から歓待して下さったことが忘れられない。そして当時の第1混成団長は同期の村田秀信(平成20年10月13日癌で他界)だったから、教え子二人が沖縄に来てくれたと大喜びだった・・・。
ある日沖縄の方々と泡盛を交わしていたとき、中の一人が「桑江団長はてっきり初代として赴任したと思っていたが、突然東京から初代が来て桑江群長は副団長に格下げになった。一番困難なときに沖縄出身を派遣して“宣撫工作”をやり、一段落したら良いとこ取りする。大田海軍司令官のご子息(ペルシャ湾掃海部隊指揮官落合1海佐=同期)も地連に来て苦労したが、これも“宣撫工作”、ヤマトンチュウのやり方はいつもこうだ」といった。
この言葉は最後まで私の脳裏から消えなかったが、普天間返還を打ち出した、時の橋本首相が「浮体工法案」に固執した時に同じ言葉を聴く羽目になった。
「総理は本土の造船業界から多額の選挙資金をもらっているのだろう。あんな鉄板を海に浮かべても、台風が来れば折れるだろうが沖縄には修理能力がない。せいぜいペンキ塗り程度、ヤマトンチュウのやり方はいつもこうだ」
今や再び、愚かな政治的人気取りで、普天間問題は日米間の空洞化を招いている。そして再び国民のエネルギーの浪費が始まった。沖縄出身の桑江教官でさえ苦労された沖縄の“特殊事情”については、著書の「幾山河」に詳しい。
その中に沖縄上陸の記者会見で、心境を聞かれた桑江1佐は次のような「熊本から当地へ来る機中で読んだ歌」を披露している。
烈々たる気迫の中にも慈愛に満ちた笑顔が覘く、部下を愛した名将であった。今頃は黄泉の国で村田と泡盛の杯を重ねておられることだろう。心からご冥福をお祈りする。
≪幾歳月(としつき)、幾山河(やまかわ)をめぐり来て、辿り着きけん故郷(ふるさと)の島≫
≪たらちねの 御親の御霊眠ります、海空青き うるま島山≫
≪この平和 永久(とわ)に守らん守らなん ウヤ(親)ファーフジメー(祖父母様)御覧(ごろう)じ給え≫
昨日は午後半日、市ヶ谷に出かけて4人の陸士59期生の大先輩方と歓談した。このところ旧陸軍の大先輩方との交流が続いている。この日は、北海道から上京されたN先輩をお迎えしたのだが、今日(28日)長野県佐久市の権現山で行われる「碑前祭」に参加されるのである。
空襲が酷くなったため、士官学校が座間から佐久に疎開、皇居遥拝の跡地に当時の依田英房村長が私費で顕彰碑を建立、以来同期生がここに桜を百本記念植樹し「権現山五十九会桜樹園」を整備し毎年碑前祭を行っていたそうだが、すでに皆84〜5歳のご高齢、今回で解散するので札幌から上京されたのである。私が築城、三沢基地勤務時代にお手伝いした海軍関係のこの種の集まりも、ほとんど解散してしまった。後は「靖国神社」に集まることになる・・・
今日の佐久市に於ける碑前祭は雨で大変だったろうが、「仲間たちの涙雨だ」と先輩方は覚悟して出発された。無事に終了することを祈りたい。
万物は流転するから仕方のないことではあるが、若かりしころの先輩方の熱情を聞くと、以前よりも次第に「軟弱化」しつつある我が国体の現実を思い知らされるような気がしてなんとなく寂しくなり、宇宙まで進出する科学の進歩にはすさまじいものがあるが、人間に「進歩」はあるのだろうか?とふと考えることがある。
他国はいざ知らず、少なくともわが国はここ60年でかなり「退化」しているように思えてならない。
お年を感じさせない大先輩方の会話を聞いていると、弱輩の私もまだまだ頑張らなくては・・・と思うのだが、ニュースを見たり聞いたりすると、やる気がなくなってしまう。
ところが、若干「正義」が復活したようなニュースが飛び込んできた。
政治家が社会正義を無視しても、非力な庶民は泣き寝入りしか出来ないのか?と思っていたら、検察審議会が小沢氏に「起訴相当」との結論を出したのである。
このところ裁判も検察も“本来の専門家”は「刑量」や「嫌疑」を不十分として、あやふやな結論で政治問題から“逃げる”傾向が強かったが、「くじ引きで選ばれた一般人」からなる「審査員」や「裁判員」は、官僚独特の立身出世や各種しがらみにとらわれないからか、「国民目線」の勇気ある判断をするようで頼もしく感じるときがある。今回の検察審議会の決定はまさにそうである。少しは暗い世の中にも望みが出てきたか?と期待したくなった。
せめて物言わぬ英霊、大戦で苦労された先輩方の名誉のためにも、指導者たちは今より少しは良い国づくりに尽力してほしいものである。
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