「統帥の中心たり、原動力たるものは、実に将帥にして、古来、軍の勝敗はその軍隊よりも、むしろ将帥に負うところ大なり。戦勝は、将帥が勝利を信ずるに始まり、敗戦は、将帥が戦敗を自認するによりて生ず(統帥綱領)」
これは防大入校以来、幹部必須の要件として機会あるごとに教えられたものである。
「勝利は物質的破壊によって得られるものではなく、敵の戦勝意欲を撃砕することにより、初めて獲得できる」とも教えられた。
組織のトップに選ばれる人物にさほどの差異があるはずはない。個人の能力にも限界がある。トップの秘密とは、そんなありふれたものではなく、「その人がトップに就任することによって、全組織の人々が奮い立ち、その全能力を発揮するようになること」つまり、滅私奉公の意識が隅々まで行き届くようになることだろう。
こうなると組織は偉大な働きをするようになる。今まで不平不満だらけで、実力の出し惜しみをしていた人たちが、トップ交代でわずか1%でも余計に力を出すようになれば、組織全体では数千%向上するからである。
「しかし、その逆も言える」と戦場体験がある教官方は教えてくれた。
「同じ状況でも名将はこれをチャンスとみ、凡将はピンチとみるからだ」というのである。
そして将帥に欠くべからざる資質は「責任感と信念」だが、それは「個人の性格と不断の研鑽修養」にかかっており、「責任感と信念が失われた瞬間に将帥の価値は消滅する」と教えられた。
日本の各界の現状をこれを下敷きにして見ていると実に興味深い。
現政権内に真の“将帥”がいるとは思えないが、果たして経済界や教育界はどうだろう?
いや、世界のトップたちはどうだろう?
お隣の国々の“首領様方”には、「勝利は物質的破壊によって得られるものではなく、敵の戦勝意欲を撃砕することにより、初めて獲得できる」という統帥の真髄を実行している方々がたくさんいるように見える。
ところで、中近東の混乱は回避されたかのように見えるが、辞職したエジプトのムバラク氏は、軍人出身らしく、軍に権限を委譲し、ひとまず国内混乱を抑えることに成功した。
一番ほっとしたのはイスラエルと米国だったろうが、イスラエルとは何らかの裏取引をしているに違いない。四面楚歌のイスラエルは、常時戦時体制だといっても過言ではない。
いずれにせよ、収拾つかない混乱が始まることによって中近東を不安定にしようとする勢力の企図を、ムバラク氏は辞職することによって防いだといえる。その意味ではムバラク氏は責任の一部を果たしたと言ってよかろう。
しかし今やインターネット時代、思わぬ事態が起きないとも限らない。危機が自国を襲わないように、孤立無援にならないように、イスラエルが今とっている政治・外交・軍事の手法が何か?大いに気にかかるところである。
さて、今後このような事態の発生を危惧しているのは“アジアの大国”だろう。
GDP世界第2位の座を獲得したと喧伝しているが、国内格差は拡大するばかりだから、人民の中にマグマがたまっているのは確かである。もちろん人権は無視されている。
最貧国の北朝鮮も同様、いつ新燃岳のように爆発してもおかしくない状況だから、わが国は万一の事態に備えるべきだが、果たしてイタリア並みの「難民流入阻止行動」がとれるかどうか…
北方領土のみならず、私の生誕の地・樺太も国際法を無視して奪取しておきながら、平然と不法入国するロシア高官たちも、国内不満の解消は頭が痛い問題だろう。
どうやら、わが国だけではなく、世界中でトップの責任が問われる時が来たようだが、それが一斉に始まるのが来年である。
「将帥の責務は、あらゆる状況を制して、戦勝を獲得するにあり」と綱領にある。
わが国の各界トップ達が、今までの負け戦から、戦勝を目指した「責任ある行動」をとるだろうことを期待している!
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