軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

菅総理に送る言葉

広大な被災地では悲喜こもごものドラマが展開されていて涙が止まらないが、老いも若きも東北人らしい忍耐強さと、仲間同士の絆の強さには頭が下がる。
自衛隊も米軍とともに懸命に活動しているが、派遣人員を2万〜5万〜10万などと根拠もなく増強する、思いつきの「シビリアンコントロール」によって“作戦計画立案”が妨害され、出だしが混乱したようだ。しかし、東北方面総監が一元指揮を執ることになったようだから、これから次第に奥地まで活動範囲が広がるだろう。菅首相災害派遣を命じるだけで、軍事専門家に「後は頼む」といえばそれでよかったのである。これじゃ私の予想通り「防衛出動」命令は期待できそうにもない。


黙々と捜索活動にあたる隊員たちの姿を見ていると、昭和60年8月のJAL機墜落事故を思い出す。あの時も整備不良のジャンボ機が墜落して520名もの犠牲者を出したのだが、事態を察した中部方面隊司令官が“勝手に”F-4をスクランブル発進、現場に急行させ、情報を得るや直ちに隷下部隊に非常呼集をかけた。
その後空陸一体となって、空は『空中統制機』が航空活動を統制し、地上では陸自が大活躍した。当時は自衛隊と警察無線とは交信できないなどあって苦労したが、その後不都合がいろいろ改善された。
今回陸自ヘリが暗視装置をつけて上空から情報を指揮所に伝達していたように画面伝送システムを備えることになったのもその一つである。しかし本来「防衛活動」が主体である自衛隊災害派遣用装備品は不備である。


主として災害を担当する陸自は、今後の情勢を見積って必要予算を要求したが、当時の女性主計官が「災害派遣」は不必要だとして大幅に削った。でも現場では若い隊員たちは文句も言わず懸命に知恵を絞って対処している。
今回も、現場を知らない仕分け好きな元女性キャスターは「無計画?停電」担当に変身して、この忙しい中石原都知事を“表敬訪問”してTV出演したが、電話で済む問題だろう。おかげで東北のみならず、東京地区でも大きな『人災』を被った。


昨日、家内が歯科治療を予約していたが足がないので車で送ったが、ガソリンスタンドは長い行列、Pがないので離れた電気屋のPに止め店内に行くと「乾電池、懐中電灯、ストーブは売り切れです!」と店員が叫んでいる。


道路は普段以上に渋滞、スーパーは報道されているように水、乾麺、お菓子類売り場はすっから菅!、今後入荷がないのは、メーカーが被災地に緊急輸送しているからだという。これを聞いて納得した、我々は我慢しようじゃないか。
この騒動を見て昭和48年の石油ショック時代を思い出した。もちろんあれほどひどくはなかったが…


東電も「このような状況ですから、交通機関、医療業務の活動を確保する事を最優先しますので、各家庭には普段以上の節電をお願いします」「パチンコなど遊技場、歓楽街、百貨店、郊外レストラン、コーヒーショップなどでは、普段の半分以下の使用を心がけてください」と節電を要請し、政府はそれを国民に説得すべきだったろう。「計画停電」は節電要請で十分、国民は覚悟していただろう。「計画」が“無計画”になったのは皮肉である。
変電所からの複雑な電気の流れも、現場の人の動き、サラリーマンなどの「普段の動線」を知らない素人集団が指揮すると結果はこんなもの、不必要な混乱を招くだけである。なんだか『いい仕事』をしているような錯覚に陥っているのじゃないか?


どうもこの政権には目立ちたがり屋が多いようで、国民の安全確保など、口先だけのことがバレバレになっている。ボランティア担当に「ピースボート専門女性」を当て、反自衛隊活動と被災地における『民主党支持者拡大』をPRしようと狙っているようだが、そんな人気取りをしている場合じゃない。


先日言ったように、首相の現地視察“陣頭指揮?”という1時間の無駄な動きが、原発事故で致命的な対処遅れを生んだのではないか?と危惧する。

尤も、電気事業連合会ともども東電労働組合民主党支持だから、今回の動きには何か胡散臭いものが漂っているのも確かだが…。


ただでさえ菅首相以下国民から「信頼されていない」閣僚たちだから、国民の目は厳しく、政府を信用していないところがある。だから混乱は収まらないのだろう。
しかし今は国家の危急存亡の時、1億2千万国民の生命を預かっていて、嫌でも政権を放り出せない菅首相にはしばらく奮闘してもらうほかはない。


そこで軍事的観点から「将帥」たるもののあり方について“助言”しておこう。


1、将帥は統帥の中心である。勝敗はその軍隊よりもむしろ将帥に負うところ大である。
2、将帥の責務は、あらゆる状況を制して、戦勝を獲得することにある。それは将帥の責任感と戦勝に対する信念にあるが、これはその人の性格と不断の研鑽修養によって生まれる。
3、将帥の具備すべき資性は、堅確強烈なる意志及びその実行力を第一とする。


2の「性格と不断の研鑽修養」は今更どうにもならないが、3の「堅確強烈なる意志及びその実行力」とは部下を怒鳴り散らすことではない。原子炉の暴走を止めることである。


更に閣僚らにも“助言”しておこう。
「将帥は事務の圏外に立ち、超然として、常に大勢の推移を達観し、心を策按と大局の指導に集中し、適時適切な決心をすべきである」とされる。
そのためには、「事務は幕僚以下の職務であり、将帥は幕僚を信任して、その局にあたらせねばならない」

TVで見る限り「政治優先」を意識しているのか知らないが、優秀な官僚の動きを封じて自ら不眠、不思考、自縄自縛に陥っているように見える。


国民はいつでも命令に従う用意ができている。「冷静に!」と呼びかける必要があるのは、どうも政府高官方(もちろん東電幹部の方々も)のように思えてならないが、国民を信頼すべきである。
こんな冷静で優秀、かつモラル高い国民は、ほかにはそういるものではない。そんな優秀な国民を「統制しよう」などと考えた素人集団=民主党の方針が間違っていたのである。

今はまず原子炉安全対策が第一、将帥たるもの、本当に“憔悴”して、現場東電職員と自衛官らを「特攻隊」の様に犠牲にしないようにしてもらいたい。
そして一段落したら、どなたかほかの適任者に道を譲ることをお勧めしたい。

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