軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

シビルとミリタリー

「シビリアン・コントロール」が異常に叫ばれてきた我が国だが、その特徴ある行動が産経新聞からうかがえる。

今朝の産経一面に「国守る最後の砦」などと被災地で黙々と活動する自衛官をたたえた記事が出たが、おそらく隊員たちは“冷や汗”ものだと思っても気にも留めていないだろう。
「身内に犠牲が出てもわが身を顧みず、被災地にとどまる隊員も多い。実績を声高に誇ることもなく、黙して語らぬ隊員の思いと労苦を隊員同士のメールや写真から検証した」と半沢記者は書いたが、自衛隊とはそんな集団なのである。普段からしっかりと検証しておいてほしい。

≪乾パン、缶詰食も、仲間と食うと旨いもの…産経から≫


自衛隊は、外敵の侵入に備えて諸活動が体系的に組み立てられている。つまり「防衛出動」が下令された時、いち早く持ち場につき任務を果たすための訓練を、一年365日続けている組織なのである。
空自では一年の成果を確かめるべく、毎年秋に「総合演習」を行って、その成果を確かめ、足らざるを翌年の予算に組み込んで補う習わしになっている。

地震発生、直ちに出動準備完了!…しかし津波が襲った≫


先日話題になった「防衛大綱」がそのもとになる。しかし、ご承知のように、要求額は一切認められないのが恒例だから、自ら“自粛”し必要最小限度に近いものを要求してきた。それを防衛省(内局)が3自衛隊を見渡して8掛け程度に抑え、大蔵省に提出、更にそれが削減されて「大綱」として定着する。
したがって一度たりとも「大綱の基準」を数量的に満足したためしはない。防衛大綱の「別表」がそれを示している。
そのうえPKOなど、海外派遣回数は増加し、任務は増加する一方なのだが、予算も人員も削減され、自衛官自身も「それが常識」であるかのような錯覚と諦観に囚われてきた。そんな中半沢記者が書いたように、第一線隊員たちは創意工夫でその不足を補ってきた。


「身内に犠牲が出てもわが身を顧みず、被災地にとどまる隊員も多い」というのは、定例的に行われる早朝からの「非常呼集」に際して、“スクランブル出勤”する夫を妻や家族が支え、夫婦とも自衛官の場合には、“出撃”する二人の官舎に隣人が自動的に駆けつけて「幼子」を預かる“臨時託児所”ができる風習が確立していたからである。

こんな「家庭を顧みない」夫は世間では袋叩きに遭うだろうが、それを60年間、ただひたすら有事に備えて続けてきたのが自衛隊という組織である。隊員たちだけではない。家族全員の支えがありそれを感じているから夫は身を挺して職務に専念できた。
15年前にお払い箱になった私もその一人で、家族には相当迷惑をかけたという自覚があるから、今、銃後を守ってくれた家内に“少しだけ”孝行?しているつもりである…


過去の大災害、JAL機墜落のような悲惨な事故の時でも、誰からも要請されないうちから隊員たちは活動してきた。
だから、今日の産経のように「国守る最後の砦」などと“高評価”されると、隊員たちはムヅカユイに違いない。ただ、彼ら彼女らが実に健全であることを知ってもらえたことを一OBとして半沢記者に感謝したい。


同盟“軍”は見事な共同作戦を展開している。中国もロシアも、それが気になって仕方ないらしく、いろいろちょっかいを出してきているようだが、日米“軍事”同盟は記事のように堅固である事を国民は知った。少なくとも制服同士は「トモダチ」であることを。


シビルは、自衛隊は「盾」米軍は「槍」だとして、有事には同盟軍に血を流させることを前提にものを言ってきたが、現場ではミリタリーは血を流しあうことが前提で共同訓練してきた。
訳の分からぬ「専守防衛」などという、非軍事用語をシビルがもてあそんできた結果、海上からの救援活動は“槍”のはずの米海軍に一任されているのだが、この現実を政治家たちはどう受け止めているのか?

上陸用舟艇は対象国に侵略する装備品??≫

ところで、そんなミリタリーをうまく使えないシビリアンだが、ミリタリーが身を犠牲にして献身している間、同じ産経の4面には被災地出身国会議員たちの行動が出ているから、その差がわかろうというものである。
民主党黄川田徹議員は岩手3区、一瞬にして事務所も家族も失ったという。現場で頑張っているそうだが、石巻市が選挙区の民主党安住淳国対委員長地震情報を見て携帯電話をとったという。「つながらねぇ…。うちの両親は生きているんだろうなぁ…」

≪身内が気になるのはミリタリーもシビルもない≫

そして18日夕、地元に帰り避難所で両親と再会したというが、父で元町長の重彦氏(84)がご無事だったことを私は知った。
まだ何人かの親戚は行方不明のままだそうだが現場は「現実とは思えなかった。写真で見た東京大空襲や広島の原爆の写真。それとそのまま同じ風景がそこにあった」と彼は語っている。
「年度末を控え国会運営はいよいよヤマ場、地元に帰りたくても帰れない」と記事にあるが当たり前、議員の戦場は国会である。自宅に帰りたくとも口に出さず遺体運搬、埋葬に明け暮れている自衛官たち「ミリタリー」がいることを忘れてもらっては困る。
せめてミリタリーに対して「やせ我慢」を見せることがあってもよかろう。
「戦争は狂気を生む。その中でどれだけ冷静を保って判断するか。そんな軍隊を統率するのが国会議員である。戦場での判断は我々がする。戦争するかやめるかという国運をかけた判断をするのが国会議員だ」と私はあの時部屋で話したはずだ。

これを機に成長してほしいものである。

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