軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

防衛の務めは“素人”には勤まらない

初代防大校長・槇智雄先生は、昭和28年4月8日、保安大学校(現防大)第1期生の入校式において、
「その固い決意と誠実に対して心強い信頼の念を抱くものでありまして、四ヵ年の課程を終了して保安官並びに警備官たるの初志を貫徹されんことを期待するものであります」
「国が諸君に要請するところも、また国民の諸君に期待するところも、危急に際しての人としてまた国民としてのかかる忠誠の心であると考えております」と述べ、これにこたえる道として「第一に諸君の任務は偏することなく均衡のとれた人物であること、第二に諸君の任務は民主制度に対して的確な理解を要求していること」を挙げている。


そして四ヵ年の課程を「人としての修養期間」「理工学および保安学(現防衛学)に関する基礎知識の習得」「指導統率の資格を備えること」だと説き、更に指揮統率上生じる命令と服従の関係について「もっとも注意深き研究と練達を必要とする」として、「服従のみ存在して自由や個性尊重が認められないならば、それは奴隷的関係でありまして近代文明の許し得ないところであります。また自由のみ存して服従のない社会があるとしたら、それが夢に描く国でなければおそらくは無秩序混乱の社会でありましょう」(「防衛の務め」校長講話)と戒めた。
これは防衛の任に就く者の基本を解説したものだと我々学生は理解している。

≪槇校長時代の保安大学校(現防大):観閲式と卒業式風景≫



去就が注目されている一川防衛大臣は「防衛に関する素人のシビリアン」だそうだが、インターネット上に公開されている経歴を見ただけでも「国家防衛」に関心があるお方だとはとても思えない。
略歴には≪1942年(昭和17年)2月6日、石川県小松市生まれ。石川県立松任農業高等学校三重大学農学部農業土木学科卒業。1965年に農林省(現農林水産省)に入省し以後25年間農水省農林水産省に勤務する。1990年に退官≫とあるが、細部経歴には興味深いものがある。

≪一川防衛大臣=インターネット公開写真≫

インターネット上に公開されているところによると、
≪1990年、父・一川保正の後を継いで石川県議会議員選挙に自由民主党公認で出馬し初当選を果たしたが、1993年奥田敬和自民党離党に伴い自民党を離党し新生党結党に参加。翌1994年、新生党解党により新進党結党に加わった。

1996年、奥田の推挽により石川県議を辞職し、第41回衆議院議員総選挙に石川県第2区から新進党公認で出馬し森喜朗に敗れたが重複立候補していた比例北陸信越ブロックで復活し当選を果たす。同年、奥田が後見役を務める羽田孜と、新進党党首の小沢一郎の対立が激化。羽田、奥田らは新進党を離党し太陽党を結成するが、一川は新進党に残留し、以後は小沢の側近として行動を共にする≫とあり、1997年末小沢党首が突如新進党の解党を宣言し政界は混乱したが、紆余曲折を経て石川県の非自民勢力の中心人物となり、2003年民由合併により民主党に入党する。
しかし2005年の衆議院議員総選挙では石川2区で森に敗れ、比例復活もできず落選したが、石川県連代表の職には留まった。
2007年の参議院議員通常選挙に出馬し自民党公認の矢田富郎を約4千票の僅差で破り当選した。当初石川県連は別の候補者擁立を模索していたものの不調に終わり、やむなく県連代表の一川が擁立された・・・というのが彼の来歴である。


少なくとも我々防大卒の“制服組”は4年間、国家防衛の任を説いた槇イズムを胸に部隊で勤務したが、大臣はどこで国家の在り方を学んだのか、疑問に思える。
だから自ら「素人だ」と言ったのだろうが、それにしてもひどすぎはしないか?


先日、小松基地F-15戦闘機の落下タンクが破裂して落下したのが、彼の選挙区だったため、いち早く選挙区に戻って小松基地を責め、未だに小松基地だけは飛行停止だというから、彼の頭には次の選挙を意識して対立候補に負けた怨を晴らすことしか頭にないように感じられる。

≪F-15の落下タンク、大臣の選挙区に“落下”=産経から≫


地元では「彼は森元総理との怨恨で、小松のF−15だけ飛行再開させていないから、基地のF-15パイロットのチェックアウト(資格と技量維持上の訓練)も期限が切れるので、他の基地まで行って時間と経費をかけて着陸訓練をしている状況」だというから、あきれてものも言えない。
それがどれほどの無駄な労力と出費を生み、防衛力を低下させているのか、彼の頭にはこれっぽっちも意識がないのだろう。
防衛予算の内訳さえ知らないようだから、防衛省の役人たちも素人大臣への説明で連日精力を使い果たしているに違いない。
ある後輩は「政治家(自民も民主もみんな)は国益や国防を全く考えず、私情で国の財産を私物化しシビリアンコントロールだと息巻いているようで、真面目にやる気がしなくなる」と言ってきた。なんだか防衛省の実情が透けて見える気がする…


素人を標榜して各所で不適切発言を繰り返し、防衛省の業務を混乱させた大臣の罪は極めて重く世界に対して恥さらしものである。
早期更迭せねば、アジア太平洋地域に戦略の重点を戻した同盟国・米国とのこれからの緊密な防衛協議は成り立つまい。
国家防衛という崇高な任務を軽視した人物を大臣に配置した総理の任命責任も重い。陸の精鋭部隊・空挺団出身の父を持つ総理にそれがわからぬはずはなかろう。国の命運を左右する、国家防衛の任は素人には勤まらないということを総理は悟り、直ちに更迭すべきである。

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