軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

退官記念日?に思う

15年前の今日、私は防大4年、空自34年、計38年間着慣れてきた制服を脱いだ。そう、世界的に記念すべき≪香港返還日≫にである。

今朝の産経には≪香港、返還15年式典控え緊張感 民主派が大規模デモ計画≫と題して次のような記事が出ている。



≪中国の胡錦濤国家主席が出席する夕食会会場周辺で、警察官からスプレーを吹き付けられるデモ参加者たち=30日、香港(共同)≫


≪【香港=河崎真澄】英植民地だった香港が1997年に中国に返還されて1日で15年を迎える。胡錦濤国家主席は同日の式典に出席し、共産主義国家が民主主義社会を特別行政区として包含し、併存する前例のない「一国二制度」の成果を内外にアピールする。
一方で香港の民主派らは、3月の行政長官選に露骨な政治介入を行った中国と、そこで当選した梁振英氏の就任に抗議するデモを同日行う。数十万人が集結する見込みで、警察当局は警戒態勢を強めるなど、ピリピリした空気が流れている≫
≪97年の返還後、50年間は香港の民主政治や自治言論の自由が保障され、中国は外交と防衛のみを担うはずだった。だが実際は、報道機関への有形無形の圧力など、さまざまな形で中国は香港の自由をじわじわ奪う工作を続けてきた。香港記者協会では30日、「言論の自由への挑戦だ」と警察当局の対応を非難した≫
≪「あの選挙は一国二制度が重大な局面を迎えたことを示した」。天安門事件など中国による人権弾圧を批判した香港誌の元編集発行人で著名コラムニストの李怡氏は産経新聞の取材に対し、3月25日の行政長官選への失望をあらわにした。
親中派2人の事実上の一騎打ちだったが、投票権をもつ選挙委員会に対し、胡主席に近いとされる梁氏への投票を中国側が暗に要請。有力候補だった唐英年氏を大差で破った。
1日の就任を控えた梁氏には中国共産党の秘密党員説も浮上。民主派は「共産党員による香港統治だ」として、同日計画しているデモで梁氏辞任を要求するという。
 また民主派らは6月30日、中国湖南省で民主活動家の李旺陽氏が変死した事件の真相究明を求めるデモを、胡氏の宿泊先前で行った≫≪だが、英植民地時代からの自由を守りたい民主派の必死の抵抗とは裏腹に、香港経済はすでに中国の“支配下”に入ったようだ。
 返還後、香港は中国による優遇措置を度々享受してきた。同29日も隣接する広東省で金融から通信まで6分野で双方が越境協力する事業が発表され、経済一体化の進展を印象づけた≫


問題は次の内容である。
≪人口710万人の香港に観光客などで中国本土から訪れた人は昨年、2810万人に達した。97年の236万人の実に12倍。中国の人民元も香港の至るところで利用可能となり、中国人が欧米の高級ブランドショップの店頭に列をなす。声高に北京語で会話し、横柄な態度を取る中国人をモミ手で迎える店員の姿も。李怡氏は「中国人観光客が増えれば増えるほど、香港社会の矛盾も深刻化する」と現実の厳しさを表現した≫


前回、「ちびた」氏が「東北地方被災地三県では、いよいよ沖縄に続く、中国人客優先の「数次ビザ」が開始されます」とう坂東忠信氏のブログを紹介してくれたが、一国二制度とかいう中国方式の侵略が、香港返還というこの時点で始まることはすでに予想されていた。
そして台湾がそれにはまり、今や我が国もはめられていて、オスプレイ配備反対を“絶叫”している沖縄は、第3の香港ともいうべきだろう。


退官直前に、香港返還式典のためにはるばる東洋に展開してきた「大英艦隊」の旗艦・エリザベス女王陛下のお召船「ブリタニア号」をお迎えする光栄に浴したが、当時の沖縄県は「ブリタニア号」を、那覇港の片隅にあるコンテナ積載専門の埠頭に接岸させたので、在日英国海軍武官はその非礼に怒り狂っていたが、沖縄は「守礼の邦」のはず、その落差に私も驚いた。しかも艦長が招請したレセプションは、知事以下みんな揃って欠席する非礼を重ねた。


沖縄の3自衛隊では、特に海自が中心にこれを接遇して、日英親善の実を上げたのだが、もちろんメディアはその事実も無視した。
それどころか、英艦隊の東洋派遣について全く無知で、彼らはアングロサクソン(というよりも軍事的には国際常識なのだが)の深慮遠謀にさえ気が付かなかった。


このころ、日本周辺海域は緊張していたのだが、日本でそれに気が付いていたものは皆無といってよかった。

たとえばこの月の6月6日に、佐世保に原潜が入港するのが半年で1年分に急増したとして「活動範囲、極東集中か」と朝日新聞は報じたが、「軍事事情に詳しい」前田哲男教授は「ソ連原潜を相手にしていた米原潜の役割が、冷戦後は地域紛争における対地攻撃や上陸作戦などに変わっている」として、「朝鮮半島と中国の監視で、原潜の活動範囲が東シナ海に移っていることの表れだろう」とのんびりした解説をしている。
この記事を読んだ部下の情報班員は「さすがに情報専門の国だけありますね。行動の秘匿が徹底しています」と感心して報告してくれたことを思い出す。
「軍事事情に詳しい」教授さえ、ころりとだまされる彼のやり方についての感想である。


このころ、日本全国の港や韓国の港にも、英国海軍艦艇が「親善訪問」で寄港していて、中国海軍も、もちろん米海軍もそれなりに厳戒態勢を敷いていた。
中国は警戒と情報収集を、米英は“大英帝国”女王陛下のお召船に何かがあると、それは重大な問題を引き起こすからその用心のためである。その意味では沖縄県知事の「無礼」なんぞ、まだまだかわいいものであった。

ブリタニア号出航を見送る3自衛隊員と音楽隊≫


6月20日夕刻、那覇港を出て香港に向かうブリタニア号を写真のように見送ったが、“彼女”はつかず離れず護衛してくる英米艦船に守られて香港に入港した。そして返還式典が終了すると、フィリップ殿下はじめVIPを収容して帰国の途に就いたが、香港出航時点では空母をはじめ、20数隻の英国艦隊に護衛されていた。

≪平成9年7月2日の産経新聞夕刊≫


いつ、どこからこんな多数の英艦船が出現したのか?といぶかった≪軍事評論家≫もいたというから、わが国は「平和」である。


あれから今日で15年経過した。予想通り香港は「専制主義国」の草刈り場と化し、市民は自由を奪われた。


理想は正しいし、人類の在り方としてはそうありたいと願う≪自由と民主主義≫だが、いったん専制主義という暴力主義に取り込まれると、元に戻るためには恐るべき代価を支払わねばならないのだ、ということを香港市民は身をもって示しつつあるわけである。

自業自得といえばそれまでだが、わが友邦台湾も、民主党とは名ばかりの“左翼政権”に支配された日本国も、第2、第3の香港にならぬうちに目を覚まさねば、とんでもないことになることは自明であろう。

上記の記事を書いた河崎真澄記者も、惰眠をむさぼる日本人にそこまで≪警告≫を発してほしかった。


ところでがらりと話題は変わるが、私の宿願ともいうべき「雫石事件の真相」が、ようやく日の目を見ることになった。しかも刑事裁判の判決が出た当時の官房長であった佐々淳行氏から、表紙の帯に一言言葉をいただいた。感謝感激である。


現在はおごり高ぶった?各種政府機関などが、その実態をどんどん暴かれていて権威が失墜しつつある。ことの良しあしは私にはにわかに断じがたいが、昭和46年7月30日に、岩手県雫石上空で起きた、86FとB727空中接触事故は、スケジュールが大幅に遅れていたため羽田へ急いでいた727が近道して訓練空域に侵入し、しかも操縦席では遅れていた昼食をとっていた操縦者たちの見張り不十分で、同機が86Fに追突したのだと私は確信しているが、当事者の一人である私の説を主張すれば“愚痴だ”と取られかねないので、各種資料をなえ混ぜて事実関係を浮き彫りにしてみたものである。


それにしても当時のメディアの自衛隊バッシングはひどかったと改めて思う。誤報どころではなかった…
当時1等空尉の私は、えらい方々がそんな誤報に堂々と反論してくれると信じていたのだが、何と、高官自らが自分の部下である教官の責任にする発言をした!。事故調査も始まっていない当日にである。
そして辞職したトップに彼が取って代わったから、「一将功成りて万骨が枯れた」と我々若手は悲憤慷慨したのであった。

そんな奇妙な事件だったから、私はあらゆる資料を切り抜いて保存してきた。もちろん判決文も事故調査報告書も。


今回は極力やんわりと書いたつもりだが、一部の当事者には不快かもしれない。
御巣鷹山日航機事故も、JR西日本の事故も、今回の原発事故も、犠牲者や被災者抜きで、関係者たちが自己保身を図る風潮が見えていて、真の原因調査と事故防止につながっていない、というのが私の不満である。


紙数が増えたため、税込みで2000円になったが、ぜひご一読いただきたい。明日7月2日は、全航空自衛隊の部隊では、“恒例”の本件事故に係る教育が行われるそうだが、出版は17日以降になるとかで、安全教育のお役にたたなかったのが少し残念。
しかし、黙々と防空任務に就いている後輩たちが、あの事件の隈教官は無罪だったのだという事実を知り、自信を持って任務にまい進してくれたら本望である。
もちろん、事故防止は「戦力維持のためにも」継続しなければならない、操縦者としての重要な任務であることも忘れずに。

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