軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国には武器輸出OK?

9月26日に、トルコ国防省が西側が配備するパトリオットミサイル・システムの替わりに中国からFD-2000システムを30億ドルで契約すると発表したことは世界に衝撃を与えた。
FD-2000は中国がロシアの防空ミサイル網「S-300」を基に開発した「紅旗9」の輸出バージョンであり、イスラエルが技術供与したと言われている。

NATO加盟国であるトルコが、西側との共通防衛システムから逸脱しようとしている、と危惧されているのだが、国際政治学上の裏取引は別にして、輸出する側の中国ではこんな騒ぎが起きているから面白い。


中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報のウェブサイト「環球網」は30日までに、中国軍の防空システム用の迎撃ミサイルなどに日本メーカー製の電子部品が使われているとして、兵器に使う部品を外国に依存しているのは「国防安全上の重大な危険だ」と報じた。

 同サイトによると、迎撃ミサイル「紅旗9」に、日本メーカー製のスイッチの一種が使われている。紅旗9はこのほど、トルコが初めて整備する防空システムへの採用が決まった。また、中国海軍の潜水艦にも日本メーカー製の航海レーダーが使われているという。

同紙は、中国は電子分品や半導体を日本や韓国などからの輸入に依存しており「もし禁輸となれば、想像のつかない結果を招く」と指摘した。(共同)≫


≪日本の製作会社名が一目瞭然!兵士が構えているカメラも多分日本製だろう=いずれも環球時報から≫


中国製のミサイルだけではない。ありとあらゆる軍事装備品の中には、日本製が取り付けられているのである。
特に電子部品、新型材料、半導体など、中国製の兵器は長期にわたってこれら“外国製部品”で賄われてきたのである。中国のサイトにはこう書かれている。


≪紅旗9型ミサイルは日本が生産したAZ8112型のスイッチ(空気バルブ)を使用し、潜水艦には日本製のレーダーも使われている…≫


別のサイトには、
≪中国の工業力、特に軍事産業は、特に半導体と大規模な集積回路産業、精密電子設備などでは日本と韓国に比べて劣るので、電子部品、エレメント、回路コンポーネント、センサーなどは相当以前から日本と韓国からの輸入品に頼っている。
日本はこれまで、これら電子部品の最大の輸入国だった。特にコンデンサー、蓄電器、抵抗器、インダクタンスなどの電子部品の輸入は増えている。2010年だけでもこれらの電子産品の日本からの輸入は35%以上であった。もし日本が輸出を禁じれば、中国は空軍の戦闘機、海軍の潜水艦、空母、陸軍の戦車、ミサイルなどの武器製造は停止せざるを得なくなる。
中共軍の紅旗9ミサイル、潜水艦は、日産製部品を多用している。…中国の軍事産業は以前から日本の炭素繊維を使っている。だから、日本からこれらの電子産品の輸出を止められたら、中共軍のすべての武器を製造することは不可能になる…≫

≪共産軍を支援する軍用指揮車両完成引渡し。日本の自動車メーカーが多大の貢献をしている=インターネットから≫


こうなってくると、世界に冠たる日本の「武器輸出3原則」が滑稽に思えてくる。

イラク戦争時に双方が重宝したのはトヨタランクルであった。日本からは「民間用車両」として輸出されているが、南米でこれに防弾処置を加えてイラクに持ち込んで使用していた。ちなみに防弾処置加工料は当時一台につき2000万円であった。


勿論、このような実態については、我が国のこれら製品に携わる関係者は熟知?していたことだし、今回の中国製武器についても先刻ご承知だろうから安心しているが、ややもすると、商売人にとっては商売最優先だから、愛国心が失われやすい。
反日運動華やかなりし頃、店先に「中国国旗」を掲げ、中には「反日」と書いた紙を張り出して襲撃を逃れようとした日本企業さえあった。
あの時我が国の産業界は、中国からレアアースの輸出を止められた苦い経験を持っているはずだ。
我が国としては、次回はこの手を有効な手段として活用すべきであり、トルコに輸出された中国製ミサイルに不具合が生じたら、直接日本企業が修理してやればよいのだ!トルコは親日国である!


このような“適性国の武器”に日本製品が多用されていることについては、OBとなった今だから言うが、戦時に敵が放った【日本製の弾丸・ミサイル】で撃墜されることほど悔しいことはない、ということだ。
商売人にとってはどうでもいいことだろうが、やられる者としてはたまったものじゃない。その時には「日本のメーカー」に化けて出てやる!と現役時代に部下たちと話し合ったものである。敵も味方もない彼らが「死の商人」と呼ばれるゆえんだろう…


外務省時代に「武器輸出」に関して意見を求められた際も、正論を吐いた後に、しかし…として、「メイドインジャパンのミサイルで落とされたら死んでも死にきれない」と言った覚えがある。
西部劇で、白人の武器商人がインディアンに売り渡したメイドインUSAのウインチェスター銃でやられる“白人の”騎兵隊員の心境と同じなのだ。

自衛隊さんの本心はそうでしょうね」というのが当時の外務省の友人たちの感想だったが。


それはともかく、この報道は、わが国の大企業が意識していようといまいと、「敵!に塩を送っている」事を示しているのである。売って儲ける?商売人と、その武器に命がかかっている軍人との感覚には差があるというべきか? ま〜今は「平時」だから構うことはないが…


ちなみにその“敵軍”に関する情報では、「中共軍の9大危険因子」として習近平主席が「軍隊の変質」を危惧している。習主席は8月1日の「中国人民解放軍健軍節」を前に、「軍隊に対する党の絶対的指導を体現する必要がある」として次のように下達したと言う。


「軍隊の9大危険因子」
1、 軍隊・軍事・国防機関(以下同じなので「軍」と略す)における党組織の指導的地位が、内部からの干渉や影響を受け、ひいては挑戦や排斥まで受けている。
2、 「軍」では長きにわたり、特権を行使し、特別待遇を享受し、不正を働いて、軍紀・法律・規律を無視するということが行われている。
3、 「軍」の高級将校は、平和建設が行われている時期になると、理想や信念が欠乏し、使命感が欠乏する。
4、 「軍」の中高級将校は、いずれも、多かれ少なかれ官僚主義・享楽主義・名利や贅沢を追求する態度といったような悪風に染まっている。
5、 「軍」において軍紀に緩みが見られる情況は深刻であり、それが当たり前になっている。
6、 「軍」の管理がだらけて散漫なことから、一連の重大な事故が発生している。
7、 「軍」における士官と兵士の関係、上級と下級の関係が緊張状態にあり、それが暴発する情況は深刻である。
8、 軍隊・軍事部隊の訓練や演習や考査のレベルや質は、指導要領の要求するものと隔たりがある。
9、 「軍」と、その所在地の党・政府機関との関係が、それぞれの利益が原因となって紛糾するという問題が深刻化し、ひいては衝突まで発生して悪しき影響をもたらしている。

≪習主席と軍。双方どんな気持ちなのか?=インターネットから≫


この9つの問題を抱える「軍」について、月刊中国の鳴霞編集長は、「政界関係者は、軍隊内部の長期にわたる怠惰・散漫・軟弱・無気力・腐敗といったような状況について、その最大の危機はまさに中共自身が作り出していると指摘している。自身を管理しない党に、どうして軍隊を管理することなどできるだろうか?
軍隊の近代化にとってその第一に重要な条件は軍隊の国家化である。軍隊が党化し、実際には中共の親衛隊、形を変えた中共の自家用軍隊となっている以上、そんな軍隊にどうして怠惰・散漫・軟弱・無気力・腐敗が生まれない訳があろうか?そんな軍隊は最終的に戦闘力を喪失して当然なのである」と酷評しているが全く同感である。

何よりも重視すべき軍の規律がこの状態であり、その上、中国製の近代兵器の主要部分には“敵国日本”などの高度な近代的製品が多用されている以上、人民解放軍の前途は多難だといわねばなるまい。

しかし我が国としては、国民の目を盗んで?「敵に塩を送る」こんな商売人がいることに関して、何らかの措置を講じることを優先すべきではないか?


シナが尖閣を占領しても、その維持・補給には困難が伴うから先は見えているというべきだが、それとも、わがメーカーは尖閣まで出張して修理してやる気だろうか?

私が懸念するのは、以前冷戦時代に、ココム違反を平然と行って敵に塩を送り、同盟国の怒りを買ったような愚かな商売人が出現することである。

自衛隊は予算も人員も制約されて苦境に立ってはいるが、それでも私が精強であると評価する根拠は、このような中国の最高指導者が懸念する「9大危険因子」には無縁な存在であることを知っているからだ。
しかし、あれから17年たつ。「9つではないが4つほどはあるかも…」などと言われないようにしてほしいと思っている。


ところで「撃論」最新号をご紹介する。今回は「日本国憲法の正体」特集である。
私もインタビューを受けたが、「憲法第9条に縛られる自衛隊の憂鬱」と題して掲載されている。
ご関心ある方はどうぞ
オークラ出版:¥1143+税」


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