軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

何が起きてもおかしくない年…

年頭に、ニューズウイークが「過激化するアメリカ大統領選、欧米各地に広がる排外主義、出口なきシリア内戦と対ISIS戦争、不確実性を増す中国」を挙げ、2016年は「恐怖政治の台頭で混沌が深まる」と予測したことを引用して、私は「今年は国際情勢は穏やかに済みそうにない気がします」と書いたが、中でも、今起きている現象で注目すべきはアメリカ大統領選挙であろう。リベラル代表の民主党が政権を取って以降、強力な指導者に恵まれなかったためか、世界情勢は混とんとして収拾がつかなくなってきているからである。
とりわけオバマ大統領の「世界の警察官引退…」発言は致命的だった。


さすがにこれは米国内でも大きな問題になったようで、その結果、“直言居士?”のトランプ氏の人気は高まるばかりである。
それに対して世界の“良識派”を意識する?進歩的文化人らが、政治活動歴がない彼の語り口を非難しているが、多くの米国民は彼を支持しているように見える。それはなぜか?
今朝の産経は「トランプ氏なぜ人気」と解説しているが、少なくとも共和党陣営で彼に太刀打ちできる候補者は出そうになさそうである。
産経はその原因として、「主流派への反感」「現状への怒り」を挙げているが、無力な庶民に取れる手段は「選挙」しかないのだから、その分析は当たらずとも遠からず、だろう。

≪25日付産経新聞

いま世界を支配しているのは“暴力”であり、反正義であり、一部の権力者による富の収奪だから、コツコツと働いている一般国民にとっては憤懣やるかたない状況が現出しているのだ。その“悪弊=旧弊”をだれが打ち破るのか?


古来歴史を振り返れば、力なき庶民に不満が鬱積し、それを指導者が打開できない時は「革命」という手段で首を挿げ替えられていた。
フランス革命然り、ロシア革命然り。明日がその記念日になる226も然りであった(未遂に終わったが)。
身体に巣食う病気もそうで、根が深い症状は「切開手術」でしか完治できないのと同じこと、国際政治も「手術が必要な段階」を迎えているといえるのかもしれない。


≪トランプ氏の矛先は、後手に回ったイスラムスンニ派過激組織『イスラム国』(IS)対策、不法移民の取り締まりの手ぬるさ、自由貿易の推進による雇用創出といったオバマ大統領の政策が中心だ。加えて、オバマ政権に「失政」を許している共和党の議会指導部や主流派の大統領候補にも矛先は向かう。党の亀裂を深める言動で自らへの支持を高めている格好だ。ルビオ氏は逆に、同じ穏健保守のジェブ・ブッシュフロリダ州知事が撤退したことを受け、トランプ氏に抵抗して党の統一を図る存在になろうとしている≫
という加藤記者の分析に同感である。
要は、今までのありきたり?な民主党政治に国民は飽き飽きしているのである。国外向けの政治活動は、世界の警察官だった米国の責務でもあったが「今やそれも放擲して新興国の後塵を拝するという“不名誉極まりない現状”」を憂えている国民と、いつまで外向け行動を重視し、米国民の貴重な税金を世界にばらまいているのか!「少しは内向きに政治を指導してほしい」と願う国民らが、元気がいいトランプ氏の言動に限りなく賛同しているからに違いない。


さてそこで、仮に彼が大統領に選出されたら、国際情勢はどう変化するだろうか?
少なくとも考えられることは“正体不明?の新大統領”であるから、相手は対応に戸惑うことは間違いない。
軍事的には、南シナ海などで盗人同然の行動を展開しているアウトローなシナは相当影響を受けることだろう。
ロシアも今までの様にはいくまい。EUもそうであろう。ほぼ「推定できるような」既定の政策活動が彼には期待できないからである。この時点で彼は国際政治のイニシアティブを一時的にせよとることになろう…。

ただ、問題は国内にある。今まで米国の政界を牛耳ってきた“既成政治家ら”「エスタブリッシュメント」の反発である。


キューバ危機を招いた時の大統領はケネディであった。年若く健康に不安がある“好青年”の登場を喜んだのはフルシチョフであった。
彼はケネディの隙をついて、性能が不確かだったICBMに変えて、安定した性能を持つIRBMをワシントンに届くキューバに密かに送り込んだ。
バレても若い大統領は【反抗することはあるまい】と読んだのである。
しかしそれは予想に反した。
第3次世界大戦をも辞せずと覚悟したケネディの強硬な抵抗に遭い、ソ連の輸送船は世界一の米海軍艦船に海上で封鎖され、すごすごと引き上げざるを得なかった。
“ひ弱そうな青年大統領”は実は勇気ある青年だったのであり、これでフルシチョフは失脚することになった。

その後国民に絶大な支持を受けたケネディは、あろうことか自国民によって“暗殺”される。米国政治の怖いところはここにある。


やがてスーパーチューズデイを迎える。このころには先行きもわかることだろうが、要は国民は「穏健保守派」を望んでいるなどというメディアの解説は必ずしも真意をついてはいないということだろう。
自分に都合の良い方を応援する風潮は、米国メディアに限ったことではなく、わが国もそれ以上に偏向しているから誰でも理解できる。


それにしてもあれほど権力欲にしがみついているように見えるクリントン夫人の影が薄いことも、大方の国民が規定概念に飽き飽きしている証拠だといえそうだ。


この夏のわが国の政治の転換期も、これと同様な≪強力な指導力≫が求められていて、それに抵抗しているわがメディア界のいわゆる“既定勢力”の悪あがきが始まっているように見えるのだが…

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