軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

トランプ旋風が意味するもの

米国の大統領選は佳境に入りつつあるが、共和党のトップを走るトランプ氏に対して、米国の既成特権階級が反発し始めている。
今朝の産経には、ハリウッドのセレブ達が非難しているという記事が出た。


「相次ぐ暴言にもかかわらず、米大統領選の共和党候補指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏。米国民の間でも『人気』と『嫌悪』が交錯する中、あからさまにトランプ氏を批判するハリウッドスターが目立ち始めている」とリードにある。勿論支持派のセレブもいるというが、記事を読むととりわけ、反対派の大物?達の言動も、トランプ氏に負けず劣らず品がないことがわかる。
「自分のことは棚に上げて…」とまでいう気はないが、直言居士のトランプ氏が大統領に当選すれば、彼ら彼女らの既得権益が失われるから必死なのだろう。


度々ここに取り上げる「リベラルたちの背信=アメリカを誤らせた民主党の60年(草思社)」の著者、アン・コールター女史は、戦後の世界をミスリードしたこれら米国リベラルたちの正体を余すことなく暴露している。

中でも第13章の「セレブ達の背信――もうお酒はやめたから、ニュースをたくさん見てるわ」の項は実に面白い。中見出しには「軽薄なセレブ達の軽薄な反戦運動」とあり、こう書かれている。


テロとの戦いについては下着モデルに言及しないことには説明かつかない。アメリカが生き残りを賭けた冷戦後最大の戦闘を開始すると、国民は世界でいちばん軽薄な連中の意見を聞きたがった――有名人(セレブ)である。
歌手、モデル、俳優、作家、ヒステリックな菜食主義者キム・ベイシッガーは、こぞって戦争に反対した。リべラルたちはみずからを雑兵に見立てた。ハリウッドのスターが将軍である。
ヴェトナム戦争では反戦運動が起こるまでに時間がかかった。いまではたちまち煽動団体が出現する。
9・11テロにセレブが動揺したのは無理もない。不快なセンセーションが巻き起こった。世界には、彼らやニューヨークのナイトクラブでのご乱行より大事なことがあるというのだ。
彼らの生活はお世辞にも英雄的ではない。セレブたる者、二カ月で百万ドルにもならない仕事などは眼中にない。食料などの必需品がどのようにして自宅の食器棚やクロゼットに並ぶかは皆目わからない。
自分のヘルペスの治療薬の値段を知らない者もいる。新聞の芸能面やゴシップ記事をにぎわせつつ、田舎者のファンの羨望に満ちた顔を思い描くのは大切なことだ。反戦運動への参加は、宮廷時代からちやほやされてきた選民たちに、社会的な存在意義をふたたび感じさせた。だが、彼らはアメリカヘのテロ攻撃の意味を把握していなかった。今回は大衆とともにテロの渦中にいるということを。
一般には、法外な収入を得ているナルシシストが重要な問題にコメントすべきではなかろう。しかし、ハリウッドの左派は、みずからの子供じみた祖国への憎しみを口にしたがった。民主党の政治家は、聴衆にはっきり説明できないにもかかわらず、こそこそ言ってまわった。
反戦ムードをつくり、しっぽをつかまれまいと具体的な発言は避けた。《ニューヨークータイムズ》は、読者は同紙の誇張癖にうんざりして、いちいち本気にしないし、テロリストに味方しているとは気づかれまいと思っていた。その間、ハリウッドの仲間はあけすけにアメリカ嫌いを□にしていた。
俳優のウディ・ハレルソンは、ロンドンの《ガーディアン》にこんな記事を書いている。
「祖国アメリカの嘘は聞き飽きた。この国の政府は嘘のかたまりだ」。ハレルソンは外国の読者に、アメリカはどこでもいいから「非白人」国家を壊滅させたかったのだ、と吹きこんだ。アフガニスタンヘの食料投下作戦はいわれなき侵略行為だったと攻撃した。ブッシュ政権主戦論者が「ホワイトハウスを乗っ取り」、「テロ支援国家と名指しした非白人国にたえず戦争を」しかけている。おまけに、クリストファー・コロッブスにかみついた。わけもわからず、愚かなアメリカ人はテロに怒っている。
この分別あるコメディ俳優は、「戦争中はみな分別を失う」と冷静に解説し、「国旗と黄色いリボンとポス夕ー」の蔓延に不満を述べた。
リペラルたちは、映画『エクソシスト』でリンダ・フレアが聖水に反応したようにアメリカ国旗に反応する。星条旗ほどアメリカ国民に潜在的ファシズムをはっきりと示しているものはない(しかし、ドラッグを使用していなくて二〇〇二年に黄色いリボンを見るなんてことがあるだろうか?)。
「あらゆるメディアが戦争をあおっている」。保守系メディアの逆襲!記事はすべて彼本人の名義で書かれている。このたわごとが世界情勢をみごとに要約していると自負しているかのように。
女優のジェシカ・ラングは、迫りくるイラクとの戦争を「憲法、道徳、法律に反する」と非難した。「イラク法案」は「でたらめ」だと。
国名を間違えなかっただけ、バーブラ・ストライザッドよりましだ。(ニューヨークータイムズ)の社説ページよりは心持ちあからさまに言い足した。「ブッシュは大嫌い、大統領も政権もいや」。
女優のスーザン・サランドンは言った。「だれも重大な疑問にちっとも答えようとしない。重大なことはどうなるの?……大勢の人が傷つき、死んでいくのよ。真剣な議論が必要だわ。だれも発言していない……。これはニンテンドウのゲームじゃない。いざ戦争になったらどういう作戦をとるか? 戦地に何人送る? どうやって? その後はどうする? だれもそれを論じない。
もし……詳しい議論をしたら、イスラム原理主義についての統計数字は意味を失うでしょう。わが子を戦地にやってもいいかと訊かれれば、話は全然ちがうのだから」(以下略)≫


見事に左翼の正体を暴露しているが、わが国内に起きている現象もこれとまったく同じなのだ。レベルはより低そうだが…


今日の産経トップはこれだ。

極めて変則的だと同盟国から批判されてきていた「集団的自衛権」の一部が行使できるようになったのだ。

天国で、これに尽力された岡崎久彦元タイ大使は、きっと喜んでおられることだろう。しかしまだまだ変則的だから、いずれ修正されるべきである。
これを審議した国会は、見るに堪えない混乱ぶりだったが、今、当時の党名を変更して、未だに破棄させようとしている勢力がある。

コールター女史が言った「軽薄なセレブ達の軽薄な反戦運動」に過ぎないのだが、本人たちはそう意識していないのだから始末に困る。尤も“セレブ”というには気が引けるが…。次号の「ジャパニズム」に彼ら左翼の活動を、私の体験から批判しておいたからご覧あれ。


ところで、トランプ氏は政策チームを編成した。
≪メンバーは不法移民に対して厳しい態度で知られるジェフ・セッションズ上院議員が率いる、自らの外交・安全保障政策チーム「国家安全保障諮問委員会」のメンバーを米紙ワシントンーボストに明らかにした。
メンバーは元軍人やテロ対策の専門家ら。自分自身がブレーンだとしていたトランプ氏だが、発言のぶれや矛盾を批判され、11月の本選を視野に外交・安全保障で助言を受ける専門家の人選を急いでいた。
トランプ氏は治安対策の観点からイスラム教徒の入国禁止や不法移民の退去を主張。また、通商問題で米国の「強さ」を復活すると提唱していることから、中東問題、エネルギー問題、テロ対策に詳しい人材で固めた。
「トランプ政権」の核になる可能性があり、トランプ氏は今後もメンバーを追加するとしている。ただ、トランプ氏は21日のワシントン・ホスト紙論説委員との会合で、米国の中東政策について「(他の)国づくりをすべきだとは思わない。自国を再建する必要がある」と語り、「内向き」(同紙)の姿勢を鮮明にしている。(産経)≫という。
またトランプ氏は「在日米軍は米国にとって利益にならず」「尖閣対応は言いたくない」「日韓の核武装に反対しない」とも発言している。


このような、今までの“公式発言”とは“ふた味”も違った意見を持っているトランプ氏だから、世界はその対応に苦慮しているように見える。
しかし、今までがぬるま湯状態だったのだ。
米国内の反応や意見は別にして、どちらが大統領に当選しても、同盟国たる我が国は、真剣にその対策を考えておかねばならない。

≪さて、どちらが大統領の座を獲得するか?=インターネットから≫


むしろ、今まで通りの「花も実もない」ヌエのような建前外交は限界に近づいており、思い切った改革が必要なのだ。オバマ氏も「チェンジ!」と唱えてムードを煽ったが、結果は「yes we can't」だったじゃないか。


白を黒と言い続けて恥じなかった我が国の防衛姿勢も、もう変わるべき時期に来ている。世界中から非難されてきたが、肝心の日本人だけが気が付かなかったのだ。そう、その底流には「安保ただ乗り論」があったということを!

しかし、わが国にとってトランプ大統領出現は、災い転じて福となる兆しもある。脱皮する時期が近づいたとしたら僥倖だといえるのではないか。

いつまでも戦勝国の“植民地”に甘んじているべきじゃなかったのだ。
今までのわが国の政治が“虚構”だったのだ。
これを機に、自堕落な姿勢を改めて真の独立を勝ち取るべきチャンスが来たのだ、と私は考える。自堕落だった証拠に、現代青年の虚無的なおぞましい犯行が多発しているじゃないか!


問題は、日米安保核の傘にとっぷりとつかって自国防衛を忘れてきたキリギリス男らが正常に回復するのに時間がかかるだろうという点だ。

それに、我が国のバックについていた米国の強力な軍事力の影が薄くなると、シナが誤解する危険性があるから、それをどう乗り越えるかという課題が生じることだろう。

しかし、「いつまでも、あると思うな親と金」といわれるように、「いつまでもあると思うな米の庇護」と国民が感じて発奮すれば、トランプ大統領出現は、わが国としては大いに歓迎すべき出来事になるのではないか?


届いた航空雑誌のPR
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「航空情報5月号」
特集が興味深い。
特集1=「先進技術実証機X-2の正体」は誕生に至るまでの経緯が整理されていて役に立つ。
特集2=「東日本大震災と航空被害」も松島基地津波被害と米軍による友達作戦などが興味深い。


「雑誌『丸』5月号」
本誌は伝統ある軍事史雑誌だけあって、その貴重な写真類は他社の追従を許さない。特に写真技術が向上したこともあって、現代の写真か?と見まごうばかりである。そして私の連載も、159回目、いよいよ松島基地時代に入った!


航空ファン別冊=世界の傑作機シリーズ・MiG−25とMiG-31特集」
巻末近くに「ベレンコ中尉、自由への飛行」と題する“MiG-25函館空港亡命事件”記事があり懐かしい。1976年9月6日の昼過ぎに起きたもので、当時私は外務省に出向していた3佐であった。
「テレビで自衛隊機がソ連機を函館に強制着陸させたといっています」と若い室員に教えられてテレビを見たところ、何と函館空港に“MIG25”がいるじゃないか! 千歳基地、よくやった!と喜んだのもつかの間、自主的強行着陸だったことが後でわかった。
局長から「佐藤さん、見に行きたいでしょうね? 今自衛隊は除外されているようですが、佐藤さんは外務事務官ですから現場に行かれたらどうですか?」とトイレで語りかけられた。思い出深い事件であった…

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