軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

トランプ発言と核武装

先日、読者から「トランプ氏の言を俟つまでもなく、独自の核抑止、米軍の撤退も含めた防衛のあり方を真剣に議論すべきだと思いますが、今の日本では無理なのでしょうか」というコメントが届いた。


まずトランプ候補の発言についてだが、3月6日の産経によれば≪【米大統領選】トランプ候補の止まらぬトンデモ安保論…「日韓の独自の核保有いとわず」「在日米軍撤退を」≫の中で「米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は26日、大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏(69)のインタビューを掲載。同氏は大統領に就任した場合、日本と韓国の核兵器保有を容認し、在日、在韓米軍を撤退させ、日米安保条約について再交渉する用意があるとの考えを示した」とするものの中で、

日米安保条約についてトランプ氏は「片務的な取り決めだ。また米国には巨額の資金を日本の防衛に費やす余裕はない。(日本の駐留経費負担は)実際のコストよりはるかに少ない」と述べ、日米安保条約の再改定も視野にあることを明らかにした≫とし、≪さらに、日本と韓国が駐留経費の負担を大幅に増やさなければ「喜んでではないが、米軍を撤退させることをいとわない」と明言。日韓が北朝鮮と中国から自国を防衛するために、核兵器を独自に保有することを否定しないとした≫と伝えられた。


記事にもあるように、トランプ氏の発言の根拠には「米国の国益第一」があり、「米国は国際社会の平和と安定に、カネも軍事力も費やすべきではなく、余剰資金を国内経済に投下しよう」という内向けの選挙民向けの発言から「米軍撤退や、日韓の核兵器保有容認論」が出てきたとみるべきだろう。
米国は第2次世界大戦以降、世界の警察官となって“自主的”に国際的安定を求めてきたが、戦勝国でありながら、敗戦国の風下に並ぶのは許せない!という米国民の“貧困層”の不満に配慮したものだといえる。つまり巨大な格差社会出現に対する不満である。
しかし、金の切れ目は縁の切れ目。国民を無視して世界の「超大国」としての義務と責任を果たすという道を突き進む姿勢に、自国民が納得できなくなったのだ。
そこで彼らの支持を得て当選したオバマ氏は「世界の警察官」という役割を放棄したのだろうが、逆に米国の国際的信用度は相対的に低下したので、更に不満は高まった。
そこでこれらの状況をつかんだトランプ氏の登場になったのだろうが、あくまでも“選挙戦”という魔物の影響力を無視すべきではなかろう。
特に、戦後とっぷりとぬるま湯につかって“享楽”を楽しんでいる敗戦国・日本に対する米国民の不満は大きいのだ、と理解すべきだと思う。


湾岸戦争開始時、私は三沢基地司令だったが、各指揮官(家族を含む)の日本政府の態度に対するあからさまな不満は、いたく身に染みたものであった。
その後、沖縄勤務を経験したが、ここでも沖縄県民による“反米活動”に彼らは一様に“うんざり”していた。「同盟国なのに出て行けとは何事か!」というのである。特に下士官・兵とその家族に多かった。
次の漫画が当時の米国民の感情を良く表していると思ったものである。

≪当時、米国の新聞に掲載された漫画。これが中流以下の米国民の本音だろう≫


今朝の産経には「候補指名、共和・民主両党で大逆転なるか」という記事が出た。

米大統領選の候補者指名をめぐる争いが熱を帯びてきた。予備選挙民主党クリントン国務長官とサンダース上院議員の競り合い。共和党は不動産王トランプ氏がリードしている。11月の選挙で第45代大統領に選ばれるのは誰なのか。
米大統領選の候補指名争いは共和、民主両党ともに、2月1日の初戦アイオワ州党員集会から約2カ月を経ても指名獲得に必要な代議員の過半数を得た候補がいない異例の展開をみせている。先行する共和党の不動産王、ドナルド・トランプ氏(69)、民主党ヒラリー・クリントン国務長官(68)への指名を阻止しようとする下位候補に一発逆転の秘策はあるのか。「ウルトラC」の可能性を探った…≫


政治には金がかかる。何処の国でもほぼ大差はないが、特に米国の政治家は「金で動く」のを常とする。選挙資金の調達だが、もちろんこれには出資者が「見返り」をあてにしている。
クリントン候補のバックには、経済の本拠地・ウォール街が利権目当てについていて、今回も18800万ドルの大口献金があるという。一部には、シナの資金も流入しているらしいというから、当選した暁には、“彼”は彼女に何を求める気か?


しかし今回は面白い。トランプ候補は“自前”の資金2730万ドルで戦っていて、いわば大企業のひも付きではないからだ。
彼は企業家として「政治家は金のためなら何でもする」ことを熟知しているから、支持者はそれに期待していると言われている。
そう、一部出資者が得するダーティな政治家とそれを生み出すシステム・金のかかる選挙に飽き飽きしているのだ。
他方、クリントン候補に猛追している社会主義者のサンダース候補は、一般国民から上限27ドルの草の根献金で賄っているという。


従って、トランプ候補に見返りが期待できない企業は彼に猛反発しているのだが、この状況は米国民がよく知っていることであり、戦後の「米国式民主主義」に失望し激怒している多くの市民が彼を支えているのだから、多少“下品?”な発言をしてもトランプ人気は衰えないのだ。
更に彼には「既成政治家としての実績がない」からより新鮮味と期待感が生じている。国民は、今までのダーティな既成政治家には飽き飽きしていて、「顔を見る」のも嫌なのだ。
この現象は我が国はじめ世界中に広がりつつあるのだが、世界中、あまりにも穢れがひどく目が曇っている政治屋が多いので、彼らには現状が見えないのである。つまり、国民のニーズが読めない政治屋なのだ。


勿論“選挙”はミズモノだから、結果は出てみないとわからない。
但し危険なのは、政敵を倒すのはこの国では何も言論だけに限ってはいないということである。暗殺された大統領が相当いる国柄だからこんなことがニュースになるのだろう。

≪産経の記事≫


≪トランプ候補に後方からペンを差し出して近付いた女性記者。当然関係者は武器か?と防御する。それを暴力行為だとする米国メディアは思い上がっている。産経から≫


こんな状況だから、わが国も“希望的観測”でものを見ることをやめ、1歩下がって情勢を観察し分析すべきだろう。



≪こうなってからでは遅いのだ!それともそう願う気か?≫


こんな情勢だから、トランプ氏が「日韓の核武装を否定しない」と発言したのだと思われる。
自分の身は自分で守るのが基本である。この発言に慌てふためいている我が国の方が見苦しい。「核の傘は信頼できるか、できないのか?」などといつまで米国に甘えている気か? ご先祖様が嘆いているとは思わないか?


処で我が国の核武装だが、ここで述べるには紙数がない。しかし面白い意見があるメルマガにあったからご紹介しておこう。
「日本が核自衛するとどんな世界に影響を与えるだろうか」というものだが、結論は「中共、韓国は即友好的に変わる」というのである。


その理由は「ロシアは東西挟撃をうける形になるので、西側への圧迫を緩めるだろう」
とすれば「日本の核自衛は欧州にとって望ましく、米国にとっても望ましいことになり日本は西欧の救世主になる」
同時に「今回の米研究所の発表の意図は、日本政府に対する核自衛を急げというメッセージであるとともに、米国は核戦争では日本を助けないという事でもある」


更に彼は言う。
「日本人の国防意識は遅れすぎている。戦後の反日マスコミの国防隠蔽により思考停止に陥っている。国民国家なのに徴兵反対を本気で主張するほどだ。近代国家の参政権と国防の関係を全く理解していない。
日本は特別な国ではない。自衛しなければ滅ぼされる。男は殺され女子供は奴隷だ。近くは満洲、遠くは元寇の被害を見れば分かる。今も変わらない」


そして最後に1953年の池田勇人・ロバートソン(国務次官補)会談で、池田が再軍備を断った理由(ただし、本当の理由は新日本軍が米国に朝鮮戦争に国連軍名目で動員されないためであった)を、
――対象の青年は占領軍により、何が起ころうと2度と銃を取らないように教育された。
――婦人は、大事な人を捧げたのに戦後大迫害を受けたので絶対に反対する。
――それでも軍隊を作ると、占領軍が共産主義を広めたので、共産主義革命が起こる可能性がある。
そして最後に「日本人が自分のことは自分でしか守れないと気付くまでには相当の時間がかかるでしょう」と述べたと書き、今、その時が来たのである。目を覚ませ。利敵内紛を止め、安倍さんの指揮の下、結集して核自衛を急ぐべきだ。国防自衛はあらゆる価値観、論理、制度に優先することを忘れてはならない」と書く。


核武装能力に関しては、平成十八(二〇〇六)年十二月二十五日付の産経新聞に「わが国の核兵器開発能力はほぼゼロからのスタート」と題して「核兵器の国産可能性について=政府内部調査文書(二〇〇〇年九月二〇日)」がダイジェストされているからご参考まで。

私の個人的見解は、機会があれば…としておきたい。

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