軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

オバマ大統領の広島訪問

27日、懸案になっていたオバマ“現職大統領”の広島訪問が実現した。
2009年に就任したオバマ大統領、プラハ演説核廃絶を唱えてノーベル平和賞を受賞した彼の最後のチャンスでもあったが、無事に成し遂げたといえるだろう。彼は就任当初から広島訪問を希望していた。勿論それが実現していたらその後どのような変化が起きたかは想像できないが、少なくともノーベル賞が意味を持ったであろうとは思われる。

オバマ大統領の広島演説=インターネットから≫

実は、オバマ大統領広島訪問実現までには“外務省の妨害”という裏話があったことが、ウィキリークスによって暴露されている。

2009年オバマ氏が就任した時、この問題に決着つけたいと考えた彼は、日本側に密かに広島訪問を打診したという。ところがこれを事前に「時期尚早だ」として拒否したのが鳩山内閣時代の日本の薮中外務次官だというのである。

彼は平成20(2008)年1月に、谷内事務次官の後任として、2001年に外務省機密費流用事件に関し懲戒減給処分を受けていたにもかかわらず、本命だといわれていた海老原紳駐英大使を制して外務事務次官に就任した人物。

翌年の9月に、自民党政権から民主党政権交代した時、11月に予定されていたバラク・オバマアメリカ大統領の初来日に際し8月に広島訪問が打診されたが、彼が「演説で言及されていた“核なき世界”への期待を抑えなければならない、広島訪問があるか否かは注目の的となっており時期尚早で控えるべき」と駐日大使ジョン・ルースに伝えていた事がウィキリークスに暴露された(2011年9月)。鳩山内閣時代の出来事だが、彼の判断が何に基づいていたのか、総理が指示したのかは一切わからない。

何か日米開戦時における在ワシントン大使館の外交官らの判断ミスを思い起こさせる。あの時も第14部(最後通牒)翻訳前に「帰宅していい」と館員に指示した大使館員がいて、真珠湾攻撃が「卑怯なだまし討ち」になったのだった。今回も外交官の独走でなければいいが…。



核兵器第2次大戦で生まれた「悪魔」であり、人類がパンドラの箱を開けてしまったことは間違いない。その後、広島、長崎の惨劇を知って、良心を揺さぶられた核科学者も多かった。しかし時は「戦争」時代であったから、科学者も国家のために尽力するのは当然の行為だとされた。
あれから既に71年経ったが、人類はいまだに核の恐怖から逃れらないでいる。むしろ小型核兵器が、テロリストという悪魔の手に渡る最悪の事態が起きる公算も高まり、恐怖は高まっている。


そんなさなかに唯一原爆を使用した国の大統領の「広島訪問」であったから全世界が注目した。しかしジャーナリストらの中には、“謝罪するかしないか”に注目する程度の低い論調も見られた。


今回のオバマ大統領の広島での行動は、今までの“決断できない彼”とは違って、むしろ堂々としていた。
演説内容も、実務的というよりもむしろ浪漫派小説なみの表現が多く、スピーチライター・ベン・ローズ大統領副補佐官(38歳:国家安全保障問題担当)による“壮大な「絶望と希望」のストーリー”だったと言われている。
彼はニューヨーク大学修士課程に在籍し、作家を目指す「文学青年」であり、そして彼を政治の世界に駆り立てたのは2001年の9・11だったというからさもありなんと思われる。


常に生臭い政治が、時には演劇調になる事もやむを得まい。むしろ今回は、少なくとも日本国民と大多数の米国民に密かな感動を与えたから、成功だったと評価できる。人は感情の動物だからである。

被爆者代表とハグするオバマ大統領=インターネットから≫

この“演出”は、日米だからできたのではないか?と思う。被爆者代表とハグしあったオバマ氏の動きは、同じ人間として“本物”に見えたから…。
わが国には「恩讐の彼方に」という言葉がある。
江戸時代後期の豊前の国、耶馬渓にあった交通の難所に、青の洞門を開削した実在の僧・禅海の史実に取材した菊池寛の短編小説である。菊池寛は「敵討ちの話」も良く書いている。

しかし現実問題になると、敵討ちがこのような赦しにつながることは少ない。だから小説になるのだろうが、今回は表面的な政治的「謝罪」よりも、この一枚の写真がすべてを物語っており双方の感情を「氷解」してくれたように思う。

これが日本人的な赦しの表現であって、おそらく他国民には不可能ではないか?と思う。特に近隣アジア諸国においては…。
韓国では早速、韓国人被曝者の碑にオバマが参拝しなかった!と騒いでいるように。未来志向ではない彼らにはこのような高潔な行動はとれないのだ。


こんな意見もある。
アメリカは唯一の原爆使用國である。謝罪しなくても遺憾を表明すべきだったと私は思うし、欧米のメディアも批判している。

オバマの広島訪問で日米間の敵意は一応の終結を見た、つまり敵対感情の「終りと癒し(Closure and healing)」があったと感じた人も多い。このあと米国大統領が広島を訪問することが出来るようになったと思う日本人も居る。

だがしかし、それなら米国国民は日本の歴代首相や閣僚の靖国参拝も反対しないのかと問えばとそうではない。オバマの広島訪問で日米関係は好転したと評価する人も居るが、日米関係が好転したからアメリカ人は日本の真珠湾奇襲攻撃にも「終りと癒し」を感じているかと言えば答えはノーである≫

これは在米台湾人大学教授の感想である…。


ところでへそ曲がりはどこにでもいるが、特にフランスはへそが曲がっている。これだから“標的”になるのだ、という漫画付のメールが友人から届いた。


≪不愉快極まりないフランス紙の<Hiroshima : pourquoi le Japon préfère qu'Obama ne s'excuse pas>≫

友人のコメントは「この漫画はオバマは原爆加害者 安倍は100人斬りを亡霊みたいに背負っている姿を書いている。記事自体ふざけるなと言いたいほど日本を戦争の加害者として決めつけシナや朝鮮に同じように行かされて謝罪をしなくて済むようにオバマに謝罪させなかったとしている。腹が立つ!」というものだが、確かにフランスという国は、どこかへそ曲がりであるが、それが売りの国だから仕方ない。
「フランス語ができないと馬鹿にするが、できると逆に軽蔑する不思議な国だ」と米軍人が私に語ったことがある。

このように素直さがないフランスのジャーナリズムが、互いに憎しみ合う風潮を助長しているのだ。もっとも新聞や雑誌漫画は売れればいいだけのことだが、以前の襲撃事件を反省していないのは確かだといえる!


先週訪問した台湾も、国共内戦に敗れた敗残兵らが侵入してきて甚大な被害を蒙ったが、あれから70年、蔡英文新総統は犠牲になった台湾国民の心を「恩讐の彼方に」誘導できるだろうか?

同じ島国だから、その精神には共通点があることを信じたいのだが…。


さて、28日の第30回国防講座は「軍事力と政治力の関係=レーガン登場とトランプ現象=」だったが、皆さん熱心な質疑で充実したものになった。中には富山から駆け付けた方もいたので恐縮した。
前回に引き続いて参加された佐野千遥博士には、会場から「地震兵器の存在」に関する質問に科学的立場から丁寧に答えていただいた。


選挙運動たけなわの米国から帰国した宮崎正弘氏は、
≪とくに日本の新聞報道がおかしいと日頃から感じている者にとっては現場を見ないことにはなんともならない。移民、男女差、イスラムへの偏見、TPP反対、環境協定離脱、中国製品への課税など、荒々しいスローガンを並べたため、ヒスパニック、チカノの反感は根強く、またアジア系移民、ムスリムの多くはいまもヒラリー支持を鮮明にしている。

しかしリベラル派の若者たちは大学授業料無料をさけぶサンダースへあつまり、民主党の分裂状態は、共和党より劣悪である。ひょっとしてサンダースは民主党大会で指名を得られない場合、独立党から出るのではないかという不安を口にするひとも増えた。

たしかにオバマの広島訪問はニューヨークタイムズも、ウォールストリートジャーナルも一面トップで報じていたが、テレビニュースをみていると、真っ先に映し出されるのがトランプの動向、ついでヒラリーとサンダースである。
順番が変わっているのだ。

おりしも5月25日あたりからアメリカの各世論調査は、トランプがヒラリーとの差を縮めたばかりか、「逆転した」と報じた。熱狂ぶりが異なるのである。ヒラリーはサンダースの猛追にくわえてのFBI聴聞が報じられ、ほぼ「失速」気味である。… 
町では顔がくるくる動くトランプ人形が売り出され、40ドルもするのに飛ぶような売れ行きだ。
ところがこの人形、老舗バーニー社のデザインだがメイドイン・チャイナなのはご愛敬。
書店にいけば、トランプ自伝を含め、関連書籍が十種もでているうえ、TIMEが別冊のトランプ特集号(14ドル99セント)を出した。
他方、ヒラリー本は本人の自伝一冊、サンダース本は見あたらなかった。どうやらトランプ現象、一時的ではない。奔流になりそうな勢いと見た≫
と、ご本人のメルマガで「トランプへの熱気、熱狂は本物だった。クリントン候補に勝てるとする世論調査が圧倒的に」と報告している。
皆様方はどう感じられるか?

わが外務省には「作戦計画」が出来ているかな〜?心配になってきた。

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