軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

スクランブル・状況判断を間違えるな!

東シナ海上空で、スクランブルした空自の戦闘機に対して中国の戦闘機が攻撃動作を仕掛けたとインターネット上で報じられた件は、防衛省も大筋で事実を認めたものの、背景に参院選挙があるからか、その御沙汰やみになった感がある。
おそらく事実を公表したOBに対して、内部で“犯人探し”が行われているのではないか?と想像する。物言えば唇寒い現状は憂慮に堪えない。私も何度か“憂き目にあった”が、内部に保身に走る者がいるとすれば情けないことだ。

今回の件は、いつどこで起きたかは明らかにされていないが、中国機が「領空侵犯」していなければ確かに騒ぐことではない。
ただし、以前中国艦艇が自衛艦に「射撃管制装置を作動させ」たように、領空外であっても照準することは危険行為であり、空自パイロットが一時的にその場を離脱したのは賢明な処置だった。


しかしその昔、我々がソ連爆撃機に対処していたころは、装備されている23mm機関砲がわが方に向けられることもあったし、当時はF86Fという旧式機で13mm機銃しか装備していなかったから、万一撃墜するにはさらに接近しなければならず、犠牲は覚悟していたものだ。
その後もミサイルの射撃レーダー電波を感知した事例もあった。


対馬海峡を通過中のTU95ベア。当時は、機体上部と下部と尾部に23mm連装機関砲が装備されていて、並行して飛ぶわが方に銃口を向けてきたものだ≫


ある日築城基地からスクランブルして、日本海方面に飛行する国籍不明機を追尾した時のこと、エンジン全開で追尾したのだが、機種が米軍機らしいとレーダーから伝達されたが、その時には既に前方に機影を目視していた。
確認すると米軍のイントルーダー2機である。
後方から接近する我に気が付いたその途端、2機は直ちに応戦体制に入り、それぞれが異方向に分離して反転してきた。我々には地上から「フレンドリー」と通知が来て要撃行動をしないよう指示を受けていたが、“歴戦の相手”であるイントルーダーには無線が通じない。
そこでやむを得ず彼と格闘戦に入ったのだが、複座のサイドバイサイド機とは思えない敏捷さだった。
数回クロスした後、彼らにも地上からの指示が届いたらしく、反転して北上していったが、多分日本海を航行する空母に帰投するのであろう。
このように空中での監視行動は、地上でコーヒーを飲みながら見ているようにはいかないのだ。


特に戦闘機のりは「見敵必殺」精神が叩きこまれているし、後方に接近する“相手”には敏感にならざるを得ないのだ。食うか食われるかの世界であり、瞬時に判断して対処しなければ、自分が殺される。
地上の指揮官は、いかに権限があって階級が高くても、誰も援護はしてくれないし、せいぜいリップサービスに過ぎないからだ。
事が終わってしまってから、いくら哀悼の意を告げられても無意味だということを、地上の最高指揮官には理解してほしいと思う。

勿論国際法や武器使用基準を徹底的にたたきこまれ、隠忍自重して国際問題にならないように心得てはいる。しかしそんな“過激なパイロット”は首だというのであれば、スクランブル任務など付与しなければいいのだ。

皆和気藹々、土日はゴルフ・麻雀で親睦を深めていれば済むことだ。
それでいいのであれば、皆ハッピー。しかしそれでは、わが国の主権をだれが守るのか?ということになる。
空自の戦闘機のりは総員の約3%以下に過ぎない。彼らの心情をしっかりと理解して指示してほしいと思う。
政治家とは住んでいる世界が違うのだが、それは人それぞれだから敢えて苦情は言わない。しかし国は任務を与えているのであれば、少なくとも現場の状況を把握し理解しておくべきだろう。


現役時代、国民党空軍OBらが、ヘリをチャーターして尖閣に降下し、建造物を破壊すると息巻いたことがあった。

それまでは海上作戦であり海保が主役だったが、空中から侵攻してくるとなると空自が担当になる。そこで私は「対領空侵犯措置」を一部変更して、ファントムに胴体タンクを増加し、空域で空中哨戒任務を実施させた。

この時“官邸”からは「武器を使うな!」と厳命が来た。
彼らが利口なのは口頭指示であって[証拠になる文書]は残さなかったから、私はミサイルも機関砲も装備して“粛々”と任務を遂行させた。
私としては≪武器を使うな!≫とは味方ではなく「敵に発する言葉」だと理解したからである。
当時の首相はハニートラップにかかっていたからそう言ったのかもしれないが、部下の命を預かる私としては絶対に承服できなかったからであり、万一の事態になっても、“彼ら”は絶対に責任を取らないことを熟知していたからでもある。

今回も、産経と毎日が報道するや、しぶしぶ見解を発したようだが、表になっていなければ、国民を無視したことになったのではなかったか?
彼らにとっては選挙が大事なのかもしれないが、パイロットにとっては領空侵犯を防ぐことが最重要なのだ。国民はどちらを理解するか?

まるで民主党政権下において「中国漁船の体当たり」を隠そうとしたような姑息な態度を自民党政府にはとってほしくない。
あの時は海上保安官の一色氏が一身を賭してビデオを公開したから国民が知ることになったのだが、知る権利を強調するメディアも以外にだらしなかった。


今回の事案で気がかりなのは、シナ空軍パイロットが、「空自機を追っ払った!」と勘違いして粋がることだろう。そうなれば第2第3の無謀なパイロットが出現しかねない。
夕刊フジが書いてくれたが安倍首相が「事態を悪化させないため、自衛隊には我慢を強いてきたが、今後は領土・領海・領空を守るために断固たる措置を取る」ぐらいアピールしてもいいと思う。それが双方の誤解による紛争を未然に防ぐための処方箋だと思う。
首相の口癖?である「シッカリ」した対応を取ってほしいものである。


ところで今日は少しPR

沖縄勤務中に、部下の“上がり”で食っていた閑な私は、オキナワにまつわる伝説と、UFOをなえ混ぜた中編小説を書いた。
退官行事に「引き出物」として小冊子になった物を配布したのだが、今回青林堂から≪マンガ本≫として出版された。

作画は「あびゅうきょ」氏で、昨年までジャパニズムに連載されていたものが本になったのである。

講談社から「自衛隊パイロットたちが接近遭遇したUFO」を上梓して以降、読者の方々からいろいろな情報と体験談が寄せられたから、近々三度講談社から「UFOから知的生命体(仮題)」として単行本になる予定だが、その露払い?として出版された。


≪「STRANGER」作画あびゅきょ氏・青林堂¥1000+税≫
若いあびゅうきょ氏らしい豊かな発想で、沖縄の伝統文化とUFO、さらにはSF小説的な戦闘シーンなど、老兵の私にできない発想で、作画が生き生きと豊かになっている。
沖縄を訪ねたことがないという彼に、一度訪問してもらった成果がふんだんに入っていて、基地の現場で若いパイロットたちにインタビューした成果が見られ、鋭いタッチになっているところが面白い。
ぜひご一読いただきたい。

次はTV放映のご紹介。
TV朝日の「ザ・スクープスペシャル 終戦71年特別企画」
「太平洋戦争 最後のミッション ミドリ十字機、決死の飛行〜〜誰も知らない“空白の7日間”〜〜」

マニラのマッカーサーから政府を代表して終戦交渉できる要員を派遣せよという命令をもらったわが政府は、海軍の1式陸攻を白く塗り、日の丸を消してミドリ十字を書き込み、木更津から2機が隠密裏に沖縄の伊江島に飛んだ。全権一行はここで米軍のC54に乗り換えてマニラに向かい、司令部で徹夜の交渉をし、翌夕方伊江島に戻った。準備していた乗員は直ちに離陸した。しかし1機が故障で遅れ、全権団は1番機で木更津に向かったが、燃料が足りずエンジンが停止したため、深夜に天竜川東の海岸に不時着する。
見事な不時着で、乗員は無事、そして地元民が総出で一行を助けて帰京させる支援をしたのだが、万一行方不明か、帰還不可能になっていれば、終戦交渉が長引き、ソ連に北海道の半分は占領されていたかもしれなかった。

そんな危機を救った約40名の地元民は、歴史から消えているのだ。
今回テレビ朝日がそれを掘り起こすというので取材に応じたが、いつも通りの緊張感のない対応だったから、どんな画像になっているか気にかかる。

放映は8月14日の日中だそうなので、時間がある方はご覧いただきたい。
目立ちたがり屋とは違って、眞の英雄は無口なものだという証明でもある。


届いた本のPR
=================

「軍事研究7月号」
御承知、軍事専門誌だが、今月号の「市谷レーダーサイト」が書いた、≪所謂沖縄米軍属死体遺棄事件の実証≫は必読である。
≪…何れにせよ日本人同士の殺傷事件は淡々と報道する癖に、犯人が米軍関係者という時に限って感情的に報じ、また感情的に市民運動が盛り上がるというのは、ヘイトスピーチ解消法以前の問題で、文明人の取るべき態度ではない…≫とは全く同感である。矢張りここの県知事は文明社会のリーダーではないようだ。ご一読あれ。

実録 自衛隊パイロットたちが接近遭遇したUFO

実録 自衛隊パイロットたちが接近遭遇したUFO

ジェットパイロットが体験した超科学現象

ジェットパイロットが体験した超科学現象

安保法制と自衛隊

安保法制と自衛隊

自衛隊の「犯罪」-雫石事件の真相!

自衛隊の「犯罪」-雫石事件の真相!