軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

命を天秤にかける?

このところ何かと多忙で更新が遅れた。

いささか旧聞に属するが、今日は6月17日にAXNミステリー・チャネルで放映された「裁判劇テロ」についての感想を書いておきたい。


≪視聴者からの電話投票によって、容疑者の“有罪”“無罪”が変わる視聴者参加型の法廷ドラマ!:「犯罪」「罪悪」の著者で日本でも広く知られるフェルディナント・フォン・シーラッハ自身が原作・脚本を手がけた衝撃の問題作!≫で、≪本作は、近年、各地で実際にテロが勃発したヨーロッパで本国ドイツの他、オーストリアスロバキアチェコで2016年10月に同時放送され、大きな反響を呼んだ。また、舞台でも、ドイツでは30カ所以上の劇場で上演される他、オーストリア、テルアビブ、カラカス、ブダペストコペンハーゲン、日本など世界各国で上演され話題となった≫作品である。

ストーリーは、「2016年5月、ドイツ上空。戦闘機が旅客機を撃墜、乗員乗客の164人全員が死亡。撃ち落とした空軍少佐のラース・コッホは、ハイジャックされた旅客機が7万人の観衆で埋め尽くすサッカースタジアムに突っ込むのを防ぐため、164人を犠牲にしたと供述。果たしてコッホの行為は無罪なのか、有罪なのか!?」というもので、AXNミステリーでは、ヨーロッパで放送された展開同様に、視聴者に電話によるリアルタイム評決を行って、選ばれたバージョンが放送された。

思わず、食い入るように見入ったが、実にすばらしい裁判劇だった。主役がパイロットだったこともあり、私には切実な問題だったからだが…(20年前までだが‥‥)。


裁判では、パイロットは無実であると主張する検察側と、それを否定する女性弁護士とが、それぞれ見事な論述をするのだが、この日これを見た世界中の視聴者の判定は、有罪=38%、無罪=62%であった。私はこれが多くの“市民の”率直な判断なのだ、と安心した。


乗員乗客164人の命と、スタジアムの観衆7万人の命という人数が問題視され、「大の虫を生かすためには小の虫を犠牲にせざるを得ないことがある」とする検察側と、ひたすら「人命の尊さ」を主張する女性弁護士の主張は、法廷と視聴者共々、パイロットの行動を認めたのである。


双方の論述は実に迫真の演技だったが、検察側の論点は「もしも国が認めた撃墜の判断が否定されれば、テロリストの行動を認めることになり、今後テロの絶滅は図れない」というもので、女性弁護士は「法がモラルの問題を解決することはできない」とするもの。
日本の解説者もいささか判決に不満のようだったが、ダッカ事件で時の首相が「超法規措置」を取って、悪を野ばなしにした前例があったからか?。


6月17日、伊豆半島沖で、米海軍イージス艦とコンテナ船が衝突し、乗組員7人が犠牲になったが、事故発生直後の午前1時半頃にギャリ―・レーム1等兵曹が救助に駆け付け、水没した居住区に入り、20人以上を救助し、残る6人の救助に引き返した時、浸水が激しくなったので、救助隊がハッチを閉鎖してしまった。そのためにレーム1等兵曹も犠牲になったのだが、この時ハッチを閉めた隊員、あるいは閉鎖を命じた上官の責任はどうなるのか?という問題に通じる。おそらく日本の「判例時報」には載っていないだろう。

仮にレーム兵曹の遺族が訴えたとしたら、裁判はどう展開するだろうか?と興味を持ったのだが、死を覚悟した軍人の家族だからまずそれはあり得ないだろうが、仮にあっても米国には軍刑法が定着しているので、正当な判断が下されることになるだろう。

しかしわが国では、“憲法違反”の自衛隊だから、最高裁自衛官を有罪に処するだろう。
頼りになる軍刑法はわが国には存在しない。ゆえに六法全書“オタク”による人命重視判決が下るのだろうが、どこかの局でAXNと同様な形でドラマを制作してくれないモノだろうか?と考えた。


ちなみに6月25日に放映された“逆の判決”が出される後編は「パイロットが判断を誤り憲法に違反する」として「人間の尊厳に対する罪」で有罪になるのだが、どこか白けていたのが印象的だった。


法とモラル、「人の命を天秤にかけること」の困難さが浮き彫りになる、見事なドラマだったが、はてさて我が国ではどうだろう?
現国会で延々と続けられている<茶番>を見るだけで想像はつくが、この茶番もいつ終わるのだろう? 壮大なエネルギーの無駄に思えて仕方がないのだが…

ドイツの、深刻でまじめなドラマの様な作品が、わが国では製作されない背景には、こんな茶番が地上波TVのほぼ全体を占有しているからではないのか?

この国はどこかが狂っていると思うのは私だけだろうか?


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