軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

“戦時内閣”組閣完了

 トランプ大統領のアジア歴訪と、“座間大量殺人事件”で世間はもちきりだが、肝心なのは我が国周辺に予測される“有事”に備えることである。
トランプ大統領は、韓国国会での演説で「北朝鮮は地球規模の脅威でならず者体制。我々を侮ってはならない。試そうとしてもならない。力を通じた平和を実現させる」と北に警告した。要は“舐めるなよ!”と言ったのである。
 有事のシナリオは国防省が何通りか立てて予行演習していることだろうが、北に勝ち目はない。問題は、斬首作戦であれ、侵攻作戦であれ、北の体制変換、つまり次期指導者をどうするかである。関心を持っているのは周辺諸国、と言ってもロシアと中国だが、米国は妥協点を探っているに違いない。
ところが一番影響を受ける我が国はどうだ!韓国は馬脚を現し、国自体が無能なことを証明したが、わが国の野党もそれに劣らぬ無能さを披歴している。

 安倍首相は今回、解散後の組閣は前政権の閣僚を継承することで、無駄なエネルギーの消耗を抑えた。見事である。
 そこで今日は「戦時組閣」を終えて事態に備えている安倍総理の行動を評価する記事をご紹介しようと思う。
 これは先月10月20日号の≪時事評論・石川(北潮社)≫に「“戦時内閣”組閣を急げ」と題して私が寄稿したものである。


≪昭和34年に、私は憲法は改正され再軍備されると信じ、祖国防衛に燃えて防大に入校した。しかし、以後38年間の現役生活で痛感したのは、建軍の本義もなく“憲法に明記されていない自衛隊”は「警察の物理的に巨大な存在(三島由紀夫)」でしかないということであった。

≪当時の防衛大学校全景≫



自衛官としての苦節と無念と
 騒音問題など各種制約が多く、実動演習でも自国の空港・港湾・道路さえも自由に使えず「設想」で処置するのだが、その実態を知っている国民はほとんどいるまい。
常々政府は「国民の支持なくして国防は成り立たない!」と言ったが、政治家も役人も「事勿れ」に徹し、真剣に国防に取り組んだ者はいなかった。
その上昭和40年2月10日に起きた三矢事件で制服組の中にもやる気をなくす気風が生じた。自衛官と雖も人の子、まじめに評価されないことに耐えられる聖人君子ばかりではなかったのである。


現役時代における総理大臣の評価 
 昭和34年から4年間の防大生時代は石橋湛山岸信介池田勇人で、その後佐藤栄作沖縄返還を果たして下野した。だが「角福戦争」を制して政権を取った田中角栄は雫石事故の責任を空自教官に負わせて保身を図った。彼が事故調査を捻じ曲げたのだが、天網恢恢やがて収賄罪で失脚した。
昭和51年12月まで三木武夫が政権に着いたが、丁度私は幹部学校を卒業して外務省に出向していたから、連日NPT批准問題で揺れる国会に通い、政治の実像をこの目で確かめる機会を得た。
 その後、ダッカ事件で「超法規」なる新語を作った福田赳夫は、テロ事件の本質を知ることなく「金で解決」して顰蹙を買った。
更に大平正芳の後の鈴木善幸は1000海里シーレーン防衛問題で米国政府との約束を破り、日米同盟を揺るがす事態を招いた。
 この頃第一線の戦闘機隊長だった私はスクランブル対処に追われていたが、ひたすら防空の任に就く部下たちの姿に、腐りきった政界を重ね合わせて「親は無くとも子は育つ」ことを実感していた。

≪ロシア機に対するスクランブル≫

 防衛研究所では国家戦略を学んだが高名な講師たちもさることながら、高級官僚と政治家の軍事認識度には失笑を禁じ得ないものが多かった。
 昭和59年、空幕広報室長を拝命したが、ここで私は「報道の実態」を垣間見た。勿論大半の記者は真面目だったが、反論しない自衛隊に対する「あらさがし」が目当ての者もいた。そんな記者が書く自衛隊論は推して知るべしで、そこに御巣鷹山事故が起きた。
 この時の常軌を逸したフェーク報道に業を煮やした私は、官姓名を名乗って現役自衛官として初めて「反論」したのだが、その反響は大きかった。
「社会の裏」を学ぶ体験が出来たが、時の総理は元海軍主計少佐で軍事に理解がある中曽根康弘であった。しかし中国の“お先棒”を担いだ朝日新聞記事を気にして昭和60年8月15日に靖国神社公式参拝を中止した事は、中曽根らしからぬ九仞の功を一簣に虧く軽挙であった。
 広報室長時代の体験で「目から鱗が落ちた」私は、その後、各地の部隊で幕僚・指揮官を務めたが、人間を冷静(冷たく?)に観察する癖がついた。
 そして竹下登、宇野宗助、海部俊樹宮沢喜一細川護煕羽田孜という軽量級総理が乱立したが、遂に村山富一が就任すると言う“珍事”が起きた。
 この間の政治の乱れは改めて書くまでもないが、自衛隊員がどんな気持で最高指揮官を見上げていたかは推察できるであろう。
 平成8年3月、反米デモに揺れる沖縄に着任したが、多発する尖閣問題の主役は海上保安庁であった。その海保が自国漁民よりも不法侵入者を保護する不可解な態度をとっていたのは、総理がハニートラップに引っかかった親中派橋本龍太郎だったからであろう。

≪波高かった尖閣列島

 その後台湾国民党軍OBらが、ヘリで尖閣に侵攻すると宣言したので空自が海保に代わって対処したが、この時官邸は「武器を使うな」と私に厳命した。部下の命を預かる現地指揮官の私としては承服できなかったから無視したが、これが日本国の総理なのか?「武器を使うな」とは敵に言うべき言葉ではないのか?と怒り心頭に発したものである。
 そして平成9年7月1日に私は制服を脱ぎ沖縄から「復員」したのだが、祖国防衛に燃えて防大に入ってから38年間、最悪の事態は起きなかったものの憲法を改正して自衛隊が正規の軍隊になるという希望も実現しなかった。 


安倍晋三の登場
 平成18年9月、若き安倍晋三自由民主党総裁に選出され、第90代内閣総理大臣に就任した。退官後の私は岡崎研究所の一員として度々彼に接する機会はあったが、何より期待したのは彼の著書・《美しい国へ》に感動したからである。平成18年8月に出版された本書の裏表紙には「『日本』と言う国のかたちが変ろうとしている。保守の姿、対米外交、アジア諸国との関係、社会保障の将来、教育の再生、真のナショナリズムのあり方・・・その指針を明示する必読の書」とある。そして彼は「はじめに」にこう書いた。
【わたしは政治家として十四年目を迎える。この間(中略)政治家の中には、あまり政策に興味を抱かない人がいる一方、特定の政策については細部までつき詰める人たちもいる。(中略)かっては自民党に「官僚派}と「党人派」という区分けがあったが、現在は「政局派」と「政策派」という分け方ができるかもしれない。その意味では、若手議員のほとんどは、かってと比べて政策中心にものを考える傾向が強くなっているのではないだろうか。
時代は変わったが、わたしは政治家を見る時、こんな見方をしている。それは「闘う政治家」と「闘わない政治家」である。
闘う政治家」とは、ここ一番、国家のため、国民のためとあれば、批判を恐れず行動する政治家のことである。「闘わない政治家」とは、「あなたのいうことは正しい」と同調はするものの、けっして批判の矢面に立とうとしない政治家だ。
わたしが拉致問題について声をあげたとき、「右翼反動」というレッテルが貼られるのを恐れてか、運動に参加したのは、ほんの僅かな議員たちだけであった。事実、その後、わたしたちはマスコミの中傷の渦のなかに身をおかざるをえなかった上「応援しているよ」という議員はたくさんいたが、いっしょに行動する議員は少なかった。「闘う政治家」の数が少ないのは、残念ながら、いつの時代も同じだ。(中略)
初当選して以来、わたしは、つねに「闘う政治家」でありたいと願っている。それは闇雲に闘うことではない。「スビーク・フォー・ジャパン」という国民の声に耳を澄ますことなのである】
 更に感動したのは靖国問題に関して「一国の指導者が、その国のために殉じた人々に対して、尊崇の念を表するのは、何処の国でも行う行為である」と語ったことであった。
 しかしながら、総理就任後の平成19年8月15日の靖国神社参拝を、何故か彼は回避した。私はこの日夕方まで多くの参拝者と共に靖国の杜で彼を待った。しかし彼は現れなかった。
 その直後の平成19年9月に彼は体調を崩して総理を辞任したが、私はこの時《英霊の声》を聞いた。
 5年後の平成24年に彼は再起し12月に第96代内閣総理大臣に就任、病後とは思えない目を見張る活動を開始した。「闘う政治家」に戻ったのである。
 そして第97代内閣総理大臣に就任、今や世界の指導者の一人になりつつある。


危機存亡に備える秋
 我が国を取り巻く情勢は開戦前夜だが憲法は不変だから、万一の時には“超法規”で行動する以外にはない。
 しかし安倍晋三は同盟国米大統領ドナルド・トランプと太い信頼の絆で結ばれた。正に僥倖である。そして今回、安倍は衆院解散を決意した。
 野党は「一本化」を企てているが、これは明らかな利敵勢力の集合体であり、我が国益に反している。再び前回の民主党政権の悪夢を招いてはならない。
 現役時代を顧みれば「安倍の前に総理」はいなかった。今後を見渡しても「安倍の後」に適任者はいない。「戦時内閣」を組閣し危急存亡の秋に備える秋である≫


届いた本のPR
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愛国者:田母神俊男著・青林堂¥1400+税≫
久しぶりの“田母神節”復活の兆しである。
日米安保の在り方と、安倍総理靖国参拝に対する苦言は今まで通りだが、番外編の「逮捕に至る経緯と真実」の中の、当時の選挙対策本部長、検察の強制捜査に対する怒りは本音であろう。社会の裏を知るためにご一読あれ!


≪軍事研究12月号≫
今月は、国産の「X−2」が特別公開されている。
読み物では「探知困難!中国の衛星攻撃兵器≪紛争空間≫へ変貌する宇宙空間」が読ませる。
私事だが、この夏講談社から上梓した「宇宙戦争を告げるUFO」は、終わりの部で中国の宇宙空間への軍事的進出は今手を打っておかないと、人類は将来大きな禍根を残すことを警告したものだが、[UFO〜]というタイトルに負けて「精神世界」「オカルトコーナー」に展示されているだけなので、著者としてはいささか残念である。


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