聊か旧聞に属するが、6月14日の産経抄子は、「長編ノンフィクション『いつかの夏』(KADOKAWA)は、読むのがつらい。平成19年に名古屋市で会社員の磯谷利恵さん=当時(31)=が、3人の男に拉致、殺害された事件を題材としている」として“人間の皮をかぶった獣たち”についてこう書いた。
▼作家の大崎善生さんは、母親に女手ひとつで育てられた利恵さんの生い立ちを丁寧にたどっていく。事件に巻き込まれた時、利恵さんは囲碁を通じて知り合ったばかりの恋人と、幸せの絶頂にいた。改めて、残虐きわまりない犯行に対して怒りがこみあげてくる。
▼加害者のうち1人はすでに死刑が執行され、2人は無期懲役が確定している。面識のない3人を結びつけたのは、インターネットだった。犯罪の仲間を募る「闇サイト」の存在も、社会に衝撃を与えた。今も犯罪の温床になっている。
▼静岡県藤枝市の山中で29歳の女性看護師の遺体が見つかった事件で、県警は監禁容疑で40代と20代の男を逮捕した。2人もインターネットで知り合ったという。防犯カメラの映像によると、女性は先月26日、浜松市のフィットネスクラブの駐車場で自分の車に乗ろうとして、2人の男に押し入られていた。車ごと連れ去られてから、女性の身に一体何が起こったのか。女性の無念を晴らすために、警察は全力を挙げて捜査を進めているはずだ。
▼車に引きずり込まれた利恵さんは、顔を粘着テープで巻かれ、金づちで殴られながらも、懸命に生きる道をさぐっていたことがわかっている。銀行カードの暗証番号を教えろ、と脅されると、母親のための貯金を守ろうと、虚偽の番号を告げていた。
▼2960。母親は裁判の証人尋問で、「語呂合わせで『憎むわ』という意味」と説明している。人間の皮をかぶった獣たちに加えた、渾身の一撃だった。
産経抄子は、母親は語呂合わせで「憎むわ」と「渾身の一撃を加えた」と書いたが、恐らく犯人にとっては何の痛痒も感じなかったはずだ。
相手は産経抄子のような知識人ではなく、「人間の皮をかぶった獣」だからだ。
≪花が手向けられている藤枝市の現場。しかしこの残虐な殺人事件は、残念ながら今後ともなくなることはあるまい。合掌:インターネットから≫
先日何気なく見ていたケーブルTVの「ミステリー番組」に、最愛の娘を強姦され廃人同様にされた父親が、軍隊時代の仲間を誘って組織を作り、犯人たちに復讐するという内容だったが、その中に追いつめた探偵を仲間に誘う場面があった。
そこで彼は「無力な司法制度が蔓延っている今、正義が守られるはずはない。弁護士に護られた罪人は、証拠が揃わない限り罪に問われず、刑務所入りしても国税で養われるが、被害者は救われず一生苦しむ。
司法担当者が罪人よりも必ずしも賢明だとは思えない。この世の中の闇を共に改革するため協力してくれ」と探偵を説得する。
確かウクライナのTVドラマだったと思うが、この「復讐集団」は最後は警察部隊に追い詰められ全滅するのだが、探偵も警察幹部も司法制度が欠陥だらけである事を知りながら、その欠陥だらけの司法制度を守るために“皮肉にも”任務に忠実に、死に物狂いて彼らと戦って“正義が勝つ”と言うストーリーだ。
まさに現代日本の闇を鋭く突いているような気がして、何とも後味が悪かったものの深く考えさせられ、見終わっての感想は「学歴はあってもバカはバカ」だと、本の題名のような気分になった。
わが国でも明治以降、仇討が禁じられて新しい司法制度はできたものの、必ずしも有効に機能しているとは言い難く、浜松のような極悪非道な事件が後を絶たない。
それはウクライナの様に、司法を担当する「高官ら」が、政治家らとつるんで己の私腹を肥やすために制度を利用しているからだ、とは言わぬまでも、裁判で妥当な刑罰が付与されているとは思えず、而も判決が出るまでに、担当裁判官が転々と交代するような「公務員の人事制度のような無責任さ」が我が国の裁判にも感じられるのはどうしてなのか?
敵討ちは武士の世界では通例であって、森鴎外の「護寺院が原の敵討ち」は有名である。
但し、この小説にある天保時代は、「封建道徳が人びとの体面はもとより、内面までをも律していた時代」であったから、そんな時代においても「血族を殺された人間には、敵を討つという行為が、当然のこととして課されていた」のであり、それは自然のこととして遂行されるべきものであった。
しかし鴎外はそうした人々を内面から描くことによって「人は何故辛い思いに耐えて敵を探し出し、それを討たねばならぬ理由があるのか、その心理の必然性を追おうとし、そこに人間として、時代を超えた普遍的な感情が存在することに思い当たった」のだとされている。
この際、森鴎外の視点を分析するのは止そう。
そこには封建時代の「家と言うシキタリ」が影響していたともされているからだが、現代日本において起きている殺人事件は、家とも親戚関係とも、全く適合しない「赤の他人による行きずりの犯罪」であることを知れば、森鴎外はどんな結論を下しただろうか?と思われるからである。
池波正太郎の小説で、藤田まこと主演の「必殺仕事人」は認めてくれたかもしれないが…。
あるTV番組で、脳科学者が「生まれてある一定の期間、人間になるべき要素が植えつけられるのだが、それが受けられないと外見は“人間”だが、人間としての要素が欠落していて、TVでは言いにくいが人間に育っていない存在になる」と言ったことがある。
それが産経抄子が書いた「人間の皮をかぶった獣」たちと言うことであろう。
こんな“人間ではない存在”に人間界の司法制度が適用できるはずはなかろう。
脳医学的にも「人間の皮をかぶった獣」なのであれば、獣の群れの中に放り出し、獣との生存競争をさせてやるのが、“本人”達に取って一番シックリいくのではないか?
司法制度は適用できないのだから、裁判抜きで即刻実施すべきである。それを別の用語で表現すれば「淘汰」と言う。
連日ニュースを見ていると、なんとこの世には「淘汰すべき獣」が目立つことかと嘆かわしくなる。
他方、「人」が乱れているのだから、「天」と「地」も連動して乱れることがある事も、あながち理解できない事でもない。
人が律することが出来なければ、それは「天と地」が律する、つまり淘汰してくれることになる。『ノアの箱舟』のように…。
何だか昨今の情勢を見ていると、その機会がじわりじわりと迫ってきている気がしてならない。
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