軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

資料から:無気力な若者達

「徴兵制9割反対」「外国が攻めてきたら非暴力抵抗27%、逃げる26%:大学生意識調査」「自衛隊無用論5割超す」

これは、昭和55年5月13日付の西日本新聞記事である。

f:id:satoumamoru:20190206154013j:plain

【「京都」現在の大学生は核戦争発生の危ぐを抱き、日本の軍事大国化に反対する反面、日本が外国の侵略を受けた際、四人に一人は「逃げよう」と考えていることが大学生を対象とした学者グループの「平和意識調査」で分かり、十二日、京都市同志社大学で開かれた「日本法社会学会」で発表された。

 調査したのは、明治大学法学部の和田英夫教授(憲法行政法)ら、憲法学者を中心とした二十人。

調査は昨年六、七月に行われ、北海道から沖縄まで全国十六大学、三千八百四十八人(男女比、約八対二)の学生を対象に、平和意識、自衛隊感、日米安保など二十五項目についてアンケート調査した。学生対象のこの種の大規模調査は全国的に珍しい。

 核戦争の可能性では、局地的な発生三十四・五%はじめ、米ソ戦などの危険を感じる学生は七八・九%あり、日本が戦争に巻き込まれたり、自ら行ったりする不安を抱く学生は八七・五%にも上り、将来の平和が決して楽観的でないと思っていることが分かる。

ソ連の日本への軍事侵略の可能性は、わずかながら「思わない」が「思う」を上回った。「思う」学生の約四割がその理由を在日米軍基地の存在とし、日米関係について、民間レベルの交流促進を半数以上が望んでいる。

日米安保体制の将来は「軍事的性格を弱める」「段階的解消」「廃止」など体制維持消極論が六五・九%で、現状維持(二〇・六%)を大きく上回り、米国の日本に対する防衛費分担の要求にも七三・九%が反対し、日本の防衛予算の対GNP一%以上を求める意見は九・八%しかなかった。

自衛隊については「日本の防衛に役立ってない」三四・七%、「それどころかアジア諸国への脅威」十八・七%と、半数を超す学生がその存在に疑問を投げかけ、規模については災害救助隊などへの再編成(三六・三%)を含め広義での縮小、廃止支持者が五八・九%と現状維持(二二・一%)増強(一四・八%)を大きく上回った。

 徴兵制には九割以上が反対し、有事の際の自衛隊への協力義務づけには約八割がソッポを向き「外国の攻撃を受けた時どうするか」の問いに、自衛隊の支援など何らかの積極的抵抗をすると答えた学生は二九・一%で、非暴力抵抗(二七・三%)逃げる(二五・五%)無抵抗(四・五%)と続いている。

 戦後、日本が平和を維持した理由として「日米安保条約自衛隊の存在」と答えた学生は五・二%しかおらず、「平和憲法下での国民の努力」四三・九%が一番だった。     

 

「案外に健全」  調査した教授ら分析

平和意識調査をした和田英夫教授らは結果について「“学生の保守化”がいわれているが、日本の軍事大国化を拒否するなど平和について、案外健全な考えを持っているようでもある。学生も主体性を持ち、もっとこういった問題を真剣に考えてほしい。これらの調査、分析もそれだけで終わらせず、世界平和に向けて提言のようなものに集約させたい」と指摘している。】

 

昭和六〇年四月二九日の毎日新聞には、「若者の無気力浮き彫り」と題する総務庁の調査結果が出ている。

副題には「何もしたくない」67%、ストレス解消法「音楽を聴く」が54%とある。

f:id:satoumamoru:20190206154142j:plain


 【「何もしたくない」青少年は六七%と大人の五三%を上回り、「ひとりきりが一番気が楽」に至っては大人の三一%に比べ青少年は五六%と二倍近い数字に――総務庁は二十八日付で「青少年の活力に関する研究調査」の結果をまとめたが、この中で若者の無気力さが数字で浮き彫りにされた。

いまの若者は無気力・無関心・無責任の“三無主義”だ、との見方を裏付けた形になったが、一方で「もしも、こんなことをやることになったらヤル気を出して取り組めるか」と事例をあげての質問には、全体として青少年の方が大人より意欲の強さを示すなど複雑な一面も。総務庁では「ヤル気のある青少年は多いが、学校や職場、家庭で、そのヤル氣が生きていない。自分の力が十分に発揮されないという不満が無気力感につながっているのではないか」と分析している。

 

 この調査は国際青年年を機会に青少年のヤル気、社会的関心、人生観などを総合的に調べようという目的で、昨年九月十七日から三〇日まで、全国の十五歳から二十四歳までの青少年男女八千人、二十五歳から六十五歳までの成人(大人)男女三千人を対象に個別面接で行われた。回収率は青少年七三・二%、成人八〇・三%。

 

主な調査結果次の通り。

 《生活の充実感》 「おもしろいと思ってやっていること」がある青少年は五一%と大人の四六%を上回る。その内容(自由回答)は青少年では①スポーツ十八%②趣味・けいこごと十五%③娯楽③旅行・ドライブ五%⑤日常の仕事・勉強四%――の順。大人は①趣味・けいこごと二二%②スポーツ一一%③日常の仕事・勉強七%④娯楽三%⑤旅行・ドライプ二%など。

「やっていることがある」人数は女性より男性が多い。

 また青少年の七一%、大人の七五%が生活が充実しているとしている。生活領域ごとに分けると「仕事や勉強」(青少年五二%、大人六一%)「家庭や家族」(同八〇%、八九%)での充実は青少年が低く「友人関係」(同八七%、七七%)「余暇や遊び」(同六四%、五一%)では逆に高くなっている。

  《意欲や自信》 「次にあげることをやることになったとして、どれだけヤル気を出して取り組めるのか」と十項目について聞いた。青少年・大人とも「正しいと思うことをやりとげる」がトップ。(順に八八%、八五%)。青少年は「収入が見込めることをやる」七一%(大人五四%)「芸術や技術の創造に取り組む」四八%(同三二%)「開発途上国へ行き仕事をする」三四%、(同一六%)と、ほとんどの面で大人より強い意欲を示した。しかし「仕事をコツコツやり続ける」「弱い立場の人を助ける」では大人の方が意欲をみせている。

 

 また「日ごろ、氣が滅入ることがあるか」と十四の状態について聞いたところ「何もしたくない」六七%(大人五三%)を筆頭に、ほとんどの状態で青少年が大人を上回り、“無気力の証明”に。

特に「一人きりが一番気が楽」五四%(同三七%)、「学校や職場に出るのがイヤだ」四四%(同二一%)で大きく差がついている。男女別では女性の方が無気力感が強い。

 ストレス発散法(複数回答)は青少年のトップの「音楽を聴く」(五四%)が大人では一四%と極端に低くなっているのが特徴。】

 

今回、何故これを取り上げたか?

実は友人の検事正が書いた『昨日の世界』と言う小説を読み終え、思い当たったことがあったからである。

f:id:satoumamoru:20190201160616j:plain

取り調べを受けている、学生時代に全共闘デモに参加した事がある「被疑者」が、自分には先祖代々からの「隠れキリシタン」の血筋が影響していると語る次のような場面がある。

 

――あんたは、そういう連中を批判しているのか!

――そうではありません。誰しも時代の「空気」の中で生きていくほかありません。特にその人の青春時代の「空気」は一生ついて回ります。ですから、中には「カクレキリシタン」化する者か出てきても不思議ではありません。それ自体は、それぞれの個人の生き方の問題ですから、周りがとやかくいうことではありません。ただ怖いのは、その影響が、良い意味でも悪い味でも、一世代回った頃に現れるということです。明治の勃興期を支えたのは、江戸時代の空気の中で青春を送った者達だし、太平洋戦争を始めたのは、日露戦争前後に青春を送った者達だし、戦後復興を支えたのは、軍国主義の時代に青春を送った者達なんです。つまり、その者達が社会の中枢を占める年齢に達したときに、意識するしないにかかわらず、その影響か頭をもたげ、大きく世の中を変えることになる。そう考えると、全共闘世代が、一世代回ったとき、日本がどうなっているか非常に楽しみでもあり、不安でもあると思うんです・・・

 

今、日本中を驚かしている問題に、杜撰な「勤労統計」を適用して平然としていた厚労省問題がある。いや、厚労省に限らず、大企業内にも、製品のデータを改ざんして口をぬぐって平然としている輩がいる。

嘘をつくことを何とも思わず、誤魔化すことが日常になり、仕事にまじめに取り組まないこんな“公務員”等がなぜ生じたのか?

 

そこで“ハタ”と教えられたのが「全共闘世代が、一世代回ったとき、日本がどうなっているか非常に楽しみでもあり、不安でもある」という、この小説に出てくる『被疑者』の言葉である。

 

前掲した各種記事の日付は昭和五五~六〇年代である。この当時は「非暴力青年」や「無気力青年」が跋扈していて、それらを指導する立場にある大学教授らは「健全に育っている」と自賛していた。

総務庁の調査は「無気力で、何もしたくない若者たちの急増を」を危惧していた。

 

当時、一五歳から二五歳だった青年たちは、現在は五〇才台に“成長”しているはずだ。丁度社会の中枢に入り込んでいるだろうから、今の世は、正に『被疑者』が言う一世代廻った状態にあるはずだ。

だとすれば、無気力で「外国が攻めてきたら逃げる」と答えた世代が国の要所を占めていることになる。

何となく、今の乱れた社会の原因の一つの謎が解けた気がする…。