軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

善意が報われるとは限らない

前回、アフガンに貢献した中村医師が同じアフガン人?に殺害されたことを書いた。このような無私の精神で他国民に献身した偉大な医師がなぜ無法にも殺害されたのか、についてその後のメディアには追跡記事が見当たらない。

処がたまたま届いたWILL2月号に政治評論家の宇田川敬介氏が鋭い分析をしていた。

アフガニスタンの悲劇・中村医師はなぜ狙われたのか】がそれである。

副題には「善意と思ってとった行動が、善意と受け取らない人たちもいる」とある。

そう、個人的には「いいことだと思って」献身していても、中には”迷惑だ”と受け取る者もいるという事である。

其の昔、アフリカの”大飢饉”に際して、メディアに煽られた”善意ある日本人の多く”が、物資を送ったり毛布を大量に送ったことがあったが、送った当事者は”いいことをした”と「自己満足?」していたものの、現地を取材したレポーターが、それとは全く反対の現地人の言葉を伝えていたことに驚いたことがあった。

送られてきた毛布などの大半は、地元の”指導者たち”に横流しされ、苦しんでいる庶民にはいきわたらないというのである。

紛争地帯にも善意の物資が届けられたが、虐げられている民族の中には「食糧ではなく武器を送ってほしい」とまで訴えたものがいてレポーターは絶句したという。

強欲な為政者に対抗するには、食料ではなく武器が必要だというのである。今回の香港の若者たちもきっとそう思ったに違いない。

宇田川氏は言う。

【「報道を見ていると、今回の事件は、無差別テロや物取りの襲撃に巻き込まれたのではなく、中村医師の活動を妨害するために故意に狙った犯行であることが窺える」

「別な言い方をすれば、今回の襲撃犯は中村医師の何らかの行動を恨むか、または阻止するために襲撃したことになる。アフガニスタンの人々の命を助け、灌漑を行い不毛の地を農地としてつれるようにした中村医師。食と職ができるのだから、徐々に紛争が少なくなり、アフガニスタンは平和になるはずだ――日本人ならば誰もがそう思うし、中村医師が恨まれるはずがないと思うのも自然な感情だ。しかし、日本人の感覚とは異なる感覚が存在することがある】

そしてアフリカで政府援助で完成した道路を取材した宇田川氏は、【現地の自動車の修理工場は「この道路ができたおかげで、自動車の故障が少なくなり、商売が悪くなった」と言い、また、道路から離れている村の人は「道路が繋がったところの土地だけが栄えて、道路を造ってくれなかった我々の土地は、人かいなくなり物資も来なくなった。日本の道路のおかげで我々は貧しくなった」と、意外な評価か多かった・・・日本と一緒に仕事をしたところや、日本の道路に接している土地を持っている人だけが栄えることになり、そこに貧富の差が生まれる。当然、工事業者も入札で選び現地の業者と絡むことになるので、公平に選んでいるだろうが、しかし、現地の人々にとってみれば、日本人が来たことによって貧富の差が広がったという感覚になるのである。このような格差は恨みを買う・・・本来、日本の外務省や現地大使館は、そのような声を拾って日本政府に伝えるべきで、現地の格差が広がらないようにし、開発援助をしながら恨まれるような理不尽な怒りを買わないように対策を行わなければならない。

 しかし、相手国政府の上層部としか付き合うことがなく、また、開発援助を行った場合の周辺の生活の違いなどをしっかりと取材していない現地大使館がそのような声を伝えることはない。大使館や大都市から出ることが少ない大使館員は、現地の情報を得られず、その大使館や外務省の情報を鵜呑みにした現地企業の人々が、格差の被害者たちの不満のはけ口となり、悲劇に見舞われることが少なくない。現地大使館は、それらは事故、または現地のカントリーリスクとして認識するだけであり、自らの情報不足や取材不足という感覚がなく、またそのことが明らかになっても外務省や政府に正直に伝えることはない。

開発援助の良いところだけを伝え、現地の声としては、それで潤った人々だけを紹介するのである。・・・今回の中村医師の件がこれらのアフリカの開発援助と同じであると断言できないし、またそのようなことから襲撃されたと断定することもできない。しかし、一方で灌漑用水の整備と人道支援していたことにおいて、そのような逆恨みを受けていた可能性を排除できないのではないか。

中村医帥のような事件が発生した以上、国をあげて人道援助の在り方や世界各国の情報をどうするかを考える機会を持つべきではないのか】と書く。

そして【日本国憲法前文には「平和を愛する諸国民」と書かれている。しかし、世界は平和を愛する諸国民ばかりではない。自らの欲望や格差などの恨みを持った場合には、平和よりも争いを優先させる価値観を持つ人が出てくる場合が少なくないのである。

 外国でそのようなことに巻き込まれた場合の対処法は、日本国憲法には書かれていない。日本人の命が奪われるかもしれないという非常事態に対処できる憲法を日本は持っていないのだ。そのような場合にどのようにするのか、事件が起きてからでは遅すぎる。中村医師が亡くなった今日も同じような事件が再び起きないよう、日本人の人道援助という善意が相手国のすべての国民に通じるようにするため、どのように考えるべきか。

こういった議論がなされていないことは、日本の政治の劣化といっても過言ではない。

 世界各国で活躍する日本人がより安心して仕事かでき、そして日本に貢献するためにはどうしたらよいのか。日本にいながらできることは何か。考え、行動すべきではないか】と結んでいるが、全く同感である。

 その“劣化現象”は今に始まったことではないが、この半年を見ているだけでも急激に劣化しているように見える。

「花見の会」の“論争”は論外だとしても、外国企業への便宜供与などあきれてものも言えない。これが“副大臣”のやる事か!

委細は本紙をご一読願いたいと思うが、メディアもまた“事なかれ主義”に徹して、本音を書かない。こんな政治家の元で働かされる公務員もまた“劣化”を免れまい。つまり、国全体が“劣化”している兆しが透けて見える。

 

届いた書籍(WILL2月号)のご紹介

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宇田川氏の文は、表紙には紹介されていないが、307ページに掲載されている!。