軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「台湾軍」の人的構成は?

二十四日の産経新聞に「米中台の『情報戦』に備えよ」と、台湾の「防衛駐在官」を経験した、渡辺金三元陸将補が「寄稿」していた。

 近年、中国機が台湾のADIZに進入することを日本のメディアや政府関係者(米国もそうだが)が中台間に危機が迫っている、と宣伝しているが、渡辺氏は「情報戦」を仕掛けているのだと分析し、「日本も早急に台湾軍と恒常的な情報交換体制を整えて、台湾海峡周辺で起きていることを正確に把握すべきだ」と指摘しているが、その指摘には全く同感である。

しかし、過去長年に亘り台湾を訪問して、台湾の置かれた立場を分析してきた私としては、もっと“基本的な”台湾国民、とりわけ台湾軍の人的構成を精査すべきだ、と助言したい

 言うまでもなく、大東亜戦争終結後に当時の蒋介石国民党総統から先遣部隊として台湾に派遣された、省行政長官兼警備総司令である陳儀率いる低劣な国民党の官僚、兵士らによる暴虐極まりない抑圧で、台湾は戦後の暗黒時代を経験した。つまり、「228事件」である。

一九四七年二月二十八日に外省人の非道に対して立ち上がった丸腰の台湾人を彼ら「外省人=敗残兵」達は機銃掃射で応じて殺戮した。

 当時、台湾島内をつぶさに見てあるいた司馬遼太郎は「台湾紀行」にこう書いている。

【台湾の多数派は、むろん根っからの本島人(本省人)である。多数派とはいえ、被支配層で、長らく発言権が弱かった。それどころか、弾圧されたり、殺されたりした。これに対し、戦後四十年以上、この島の支配層を作っていたのは、大陸からきた“外省人”である。彼等は、大陸での内戦に負けてこの島に来、本島人を支配した。当然ながら本島人は大陸系をきらう。英語で言う場合に、自らをタイワニーズ(台湾人)といいたがる。両者は文化まで違うのである。】

 やがて時は経ち、李登輝前総統の下で、国民党支配から解放されて漸く自由を獲得した台湾国民は、中国の脅しに屈することなく引き続いて若い陳水扁総統を選び民主化を貫いた。しかし、陳政権が二期目になると、変化に乏しい政治に国民は「飽き」始めた。これはむしろ、陳政権の“若さ”から来たというよりも、国内に強靭なネットワークを張り巡らしていた国民党、というよりもシナ人が得意とする妨害工作が陰に陽に作用した成果でもあったが、長年の国民党支配下で、政治・経済はもとより軍事からも遠ざけられていた台湾人の不慣れから来る“非力さ”が影響していたのではないか?と私は見ている。

 その後代替わりが始まり、“新台湾人”たちが政府内にも軍内にも台頭してはきたが、大陸の血は争えないだろうと私は思っている。

 1999年2月に、台湾出身軍人軍属慰霊の旅で初めて台湾を訪問したが、その後私と家内は、澎湖島に足を延ばした。実は家内の祖父が、澎湖島要塞司令官として勤務していたので、祖父の足跡をたどりたかったのだが、偶然当時の現役司令官に案内され、要塞内を一巡することができ、当時、迎賓館として活用されていた、趣のある日本建築の迎賓館を案内してもらった時、案内人(と言っても司令官を退役した元少将)から説明を受けていたところ、最後に、海岸沿いの見晴らしのいい部屋に来た時「今日は大陸は見えないが、いつもはよくかすんで見える」と言いつつ、彼は涙したのである。そのわけは、共産軍に敗北して台湾に逃げてきたものの、大陸には親族も墓も残したままだ、と言ったのである。

 そして「もう戻ることはない」とつぶやいた。

 つまり、台湾は生まれ故郷ではなく、彼ら”外省人”にとっては“占領地”に過ぎないのである。

 その後、現役、OBの国民党将軍提督らと会食する機会が多く、その席に蔡焜燦氏や許文龍氏も同席したのだが、私が「犠牲になった台湾人は、国民党の過去の迫害を許せるか?」と質問すると、男性陣は「許せる」と言ったので、「つまり日本でいうところの『恩讐のかなたに』の精神ですね」と聞くと、そうだと軽く頷いた。その時同席していた夫人達が抗議の声を挙げた。

「○○!あなたは妹があんなひどい目に遭いながらよくそんなことが言えるね!」と御婦人方は激怒、「私ら女性は絶対に彼らは許せない」という結論になったことがあった。

 そのやり取りの間の国民党の将軍たちの顔は実に複雑だったことが忘れられない。隣にいた日本語のできる陸軍中将は私にこっそりと「娘を上海の大学に入れたいのだが、これも中共にバレるとどうなるかわからない。何とか台湾で平穏に過ごしたいのだが…」と言ったので私は「外省人の宿命でしょうな」としか答えられなかった。

 今でも、ありもしなかった「南京大虐殺」が北京政府内で問題になっているように、怨念というものは簡単に消せないものだ、と理解したのであったが、日本の政治家も言論人も、そのような深層心理には疎い疎いところがある。

 全く、と言って良いほど軍事に無防備な我が国だから、せめて台湾との情報共有くらいはすべきだが、敵は超限戦が得意な国、それに加えて台湾には「島から脱出」したくてもできない大陸人の残債が混じっていることに対する“情報網”も整備しておかないと、貴重な情報が敵方に「駄々洩れ」事態になりかねない。そういう意味での「情報戦」にも備えてほしいものだ。

 

届いた書籍のご紹介

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「丸」2月号

今月は「別冊付録」「戦闘機『紫電改』と343空」が同時に届いたので、2冊か?と思うほどだった。しかも本誌はゼロ戦21型伝説で、別冊も紫電改が同じ角度で映っている。まぎらわしい!?

しかし、いつものことだが、貴重な写真類が出てくるので驚くことばかりだ。「どうなる台湾有事!」は、たまたま「台湾」について意見を書いたので、読者はどう思われるか?

その前(有事)に北京が”倒産する”のじゃないか?

いずれにせよ、なにも手掛けていないわが国は「武器調達」より「本土への企業撤退」の方が忙しくなるだろう!!

何せ、「士農工商」ならぬ「商農工士」の国だから。

処で連載してきた「われは空の子奮闘記」も最終段階に入った。長い間連載してくれた編集者にお礼申し上げたい。