軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「見てみぬふり」体験談

 昨夜は毎月月初めの月曜日、恒例の夜11時からの「防衛漫談」・・・「スカパー:ハッピー241チャンネル(チャンネル桜)=今日の自衛隊」の収録に出かけた。
 行きがけの「シルバーシート」の隣には、中国人留学生の若い二人が座ったので、声高な会話に読書もままならなかった。外見は日本人と変わらないから、西欧人が見ると、日本人のマナーの悪さ!と誤解するだろう。会話が「中国語」だと分かる外人は別だが・・・などと考えさせられた。
 防衛漫談も、井上キャスターが、樺太生まれの私に「サハリン残留朝鮮人支援問題」を聞いてきたので、昨夜はこれだけで時間切れになった。機会があればこの欄で「サハリン体験記」を書いてもいい、と思っている。

 ところで、昨日の「見てみぬふり」事件に関する私の所感について、まじめなコメントが寄せられていたから、今日は個人的体験談を書いておきたい。
 数年前、虎ノ門での講演会から帰る途中の銀座線の車内で、中年?初老?のご婦人たち4人が私の前の座席に座った。その中に中年の男性が一人いて、彼女達の前でつり革につかまって彼女達と“会話”していたから、私はてっきり連れの男だと思って気にも留めないでいた。しかしどうも様子がおかしい。そのうちに男が一人の女性の肩に手を置いて、なれなれしく話し出したところ、その女性は「触らないで下さい!」と注意したが、それでも男は「いいじゃない!」といいつつ手を出す。他の女性は誰も手助けしないし、同席した他の客も黙っている。私も“仲間内の揉め事か”と思っていたのだが、ついに女性が「止めてください!」と強く言ったので顔を上げると、男は「いいじゃないか」といって更に手を出そうとする。それを見た私は「こら!止めないか!」と男に怒鳴ってしまった。
 男は「ナニ!」と言って今度は私の前に立ったから、顔を睨みつけると、「だんなさん、楽しくいきましょうや!」という。「ふざけるな!楽しんでいるのは貴様だけだ。女性は嫌がっているじゃないか。黙って自分の席に座っていろ!乗客に迷惑だ」と怒鳴りつけると、男はじっと私を見つめる。
 手元には折りたたみ傘しか持っていなかったが、こんな男の一人や二人だったら「万一の際にも叩きつけること位簡単だ」と思いつつ、周囲を見ると、何と、大柄で柔道でもやっていそうな前の席の男は突然「居眠り」を始めたではないか。他の乗客もあわててイヤホーンを耳につけたり、ご老人方も目を閉じている。
 関心を持っているのは当該婦人とその友人(それも明らかに男の行為を止めさせようとはしてはいないのだが)の4人、それに私だけである。たまたま電車は時間調整とやらで「外苑前」に止まって動かない。
 男はつり革にぶら下がって私に「だんな、世の中、楽しくいきましょうや」と繰り返す。酔っているのである。「貴様、酔っているな。いいから黙って座れ!」というと、男は突然私に向かって「挙手の敬礼?」をしたのである。その瞬間、私は眼鏡をかけた50代前の男の顔をまじまじと見つめ、「元自衛官?まさか私の部下?浜松?三沢時代?それとも陸上自衛官?」などと思い出そうとした。しかしこんなしまりのない顔をした部下に思い至らなかったから、自衛官ではない?と思い始めていたとき、「お待たせしました。発車します」と車内放送があった。
 すると突然男は閉まりかけたドアからホームに降りていったのである。男の目的地が「外苑前」でなかったことは確かである。電車が動き出すや、件の女性が「どうも有り難うございました」と私に礼を言った。仲間の女性も頭を下げたから私は「日本人の男はだらしなくなりましたね。日本社会は特に酔っ払いには寛大すぎる」というと「本当にそう思います」と女性たちは言った。
 一段落したので改めて車内を見渡すと、件の大男は薄目を開けて私を見ていたが、再び狸寝入りを決め込んだ。他の若い男達も「見てみぬふり」、私の隣の席のご老人夫婦だけが、私に会釈をした。
 当時は世田谷に住んでいたから、ご婦人たちのお礼の言葉を背に、表参道で乗り換えたのだが、帰宅して家族に報告すると、家内が開口一番「これからは絶対に止めて頂戴!殺されたらどうするの!」と言った。息子も「この前三軒茶屋駅で、若者に注意したサラリーマンが金属バットで殴り殺されたばかりじゃない。親父の正義感は分かるが、今の世の中、誰も助けてはくれないよ。損するのはオヤジだけで、残されたお袋に誰が責任もってくれるの?」と言った。この体験から、私は今の世の中に慨嘆しているのである。
 余談だが、男が「挙手の敬礼」をしたあのとき、私が男を「かっての部下か?」と一瞬迷ったあの時が私の最大の「隙」だったわけで、男がその隙に殴りかかってきていたら、剣道錬士五段の私も、当初は苦戦を強いられたに違いない、と思い出しては苦笑している。それ以後、私も「見てみぬふり」を決め込んでいる・・・。

 ところで、いつの間にか500万件ヒットが記録されていた。クラウゼヴィッツ氏に指摘されて知ったのだが、開設後2年と1ヶ月だから、なんとも責任重大である。某大先輩が知れば「一人一円とっても500万円お小遣いができたのに・・・残念だねー」とからかわれること間違いない。

 ついでだが、コメント欄が「読みにくい」という指摘があった。ご教示の方法で、一行空ける方式で当面書き込んでいただけたら有難い。