軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

領空侵犯・第二報

昨日報道された礼文島周辺空域における「ロシア機による領空侵犯事例」は、どうも腑に落ちない報道内容だ、と書いたが、今朝の産経新聞は、防衛庁と海保の間の情報共有に問題があったと報じた。
ロシア側が、「領空侵犯」した航空機は、ロシア国境警備隊所属の輸送機だった、と認め、「ロシア国内法に違反した容疑のロシア船舶を追跡中に領空侵犯したもので、海上保安庁に早い段階で『協力依頼』『情報提供』があった。これに対し、防衛庁幹部に連絡があったのは、領空侵犯の後だったという」
つまり、ロシア側からの通報が、海保と防衛庁間のどこかで「滞ったか」「誤解された」訳で、私は現役時代に、「こんな些細なことから国家間の紛争が惹起することに思いを致し、平常から十分な注意と判断力を養うように」と、常々部下達を指導教育してきたつもりであったが、今回はどうもうまく働かなかったように思われる。
記事には「(ロシア側から通報を受けた)第一管本部は航空自衛隊北部方面隊(北空)に直ちにこの情報を伝えた。海保は一刻を争うため本庁経由でなく現場から現場に連絡した」とあるから、それを受けた北空の当直系統の中に、情報伝達上の何らかの「結節」か「誤解」があったと思われる。想像するに、外国機がわが領空内での「捜索活動」を要請してきた場合についての「処方箋」が不十分であったのか、またはそれについての普段からの指導が不十分だったのではなかろうか?
仮に現場が適切に対処していたとしたら、その情報が総隊司令部を通じて空幕に上がり、空幕から防衛庁内局に伝えられる間で、何らかの齟齬があったのだと思われる。
守屋事務次官は「調べて体系的にお答えしたい」と調査を約束しているから、いづれ判明するだろうが、OBの一人としては、「御役所仕事的感覚」が現場の一部にはびこっているのではないかと心配である。確かにロシアは信用できない国ではある.漁船遭難救助、という通報であったのであれば違った対応が取れたのかもしれない.
しかし、領空侵犯に対する措置は、「スクランブルを何回かけました!」「侵犯を何回やられました!」と数を国民に報告するのが目的ではない。
侵犯させないように厳重警戒するのは勿論だが、状況に応じて「適時適切」に「臨機応変に」対処して、国際間の協調を図ることも重要な任務なのであり、特に今回のような事例の場合にはロシア側の「申し入れ」に応ずる、懐の深さも要求されるのである。勿論、現場には「マニュアル」があるであろう。しかし、何でもかんでも「マニュアルに書かれてあることだけ」を整斉と実施するだけでよい、というのであれば、組織上、幹部や司令官は不要であり、下士官だけで十分だということになる。
千変万化する状況を、適時適切に判断して部隊に命令するのが、幹部たるものの使命であり、そのために普段「いい思い」をしている事を忘れてはならない。
夜間の、課業時間外にこの様な事例が起きるのは、当直勤務につく幹部達の緊張感欠如と思考力低下だと疑われても仕方あるまい。
「照覧足下」、今一度、任務遂行に関する厳正な姿勢を確立し、現場で任務についている隊員たちが命がけで実施したスクランブルの成果に「けち」がつかないよう、上級司令部の猛省を促したい。

* 良書紹介
「国を護るということ」三好誠著(1500円+税)  
歴史から学ぶ国防の本義。明治時代から現代に至る数々の事例を平易に、簡潔に解説したもので、手軽に読めるのが良い。昨日、著者の三好氏から直接送られてきたが、楽しく拝読した。是非御読みいただきたいと思う。私のブログを見た、と言えば「税金」分ぐらいはサービスして頂けるかも・・・
(慧文社)Tell 03−5392−6069  Fax 03-5392-6078