軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

指揮官と幕僚の関係

軍事組織においては,指揮の権限と幕僚の補佐が重要であり,これがうまくいかなければ戦に負ける.つまり「部下を殺す」ことになる.だから将校は常に「教養」を身につける努力を怠れないし,段階的に各種学校で強制的に教育される.自衛隊でも幹部学校で徹底的に指揮官・幕僚としての基礎固めをする.
指揮官は『任務遂行の為に,常に部下を訓練し,装備を管理し,部下の安全と福祉を図る義務』がある.『指揮権』は,指揮官だけに与えられ,部下に合法的に行使される『特権』である.従って指揮官は幕僚に対して「自己の意図を明示し,任務を明確に付与し,幕僚の能力を最大限に発揮させるように指導」しなければならない.特に上級指揮官は努めて「身を事務の圏外に置き,大局の判断に専念できるよう」幕僚を活用する事が必要である、と教えられる.
他方幕僚には、必要な事務事項「例えば各種見積もり」を適切に処理し,指揮官の必要以上の心理的重圧を軽減し、指揮官に本来の任務に専念させる環境を整えるよう要求される.
作戦計画の立案、戦闘行動発令にあたっては、隔意なく意見を述べ常時積極的に指揮官を補佐するものとされているが,自己の意見が採用されなかったり,あるいは指揮官と意見を異にするというような場合においては,自己をむなしくして指揮官の決定に従い,全力を尽くしてその実現に挺身すべきことが強調される.これは隷下部隊長との関係も同様である.
例えばミッドウェイ作戦で,陸上攻撃隊の発進直前に,米空母発見の報が届いた時,南雲長官は「艦船攻撃兵装」に兵装転換を命じた.隷下部隊指揮官の山口少将は『直ちに第2次攻撃隊発進の要ありと認む』と具申したが、南雲中将に聞き入れられず,機を失して大敗を被った.
インパール作戦でも,牟田口司令官に徹底的に意見具申した佐藤師団長は解任された.軍の規律はそれほどまでに厳しいのである.そうでなければ戦争は遂行できないところがあるからである.
湊川の楠正成の故事を上げなくとも,古今東西を問わず指揮統率の根源には極めて厳しいものがある.
さて,昨日の衆院本会議での郵政法案採決シーンは,そういう観点から見て大変面白かった.5票差であれ1票差であれ,採決は採決であろう.
しかし,今朝の報道各種を見て驚いた.自民党議員でありながら,『信念を曲げず』に反対した議員はそれなりに評価するとしても,自分の意思が通らなかったからと,小泉『司令官』とその司令部を悪罵する議員が多かったのはいかがなものか?
勿論,自己の意思を貫く事は美しい.迷いに迷って棄権する気持ちもわからないことはない.
しかし,もともと反対を唱えつづけてきた者が,結果的にやはり『負けた』からといって,その結果を認めることなくいきり立つ姿は,我々のような『統帥綱領』を教えられてきた者にとっては違和感を憶え、見苦しく感じる.自民党総裁であり首相である『指揮官』に,徹底的に抵抗するのが,「部下」たる者のする事であろうか?と我々は考えるからである.
それほどまでに「抵抗」するのであれば,自民党から離脱すべきではないのか?小泉『議員』は,自民党員から圧倒的得票を得て総裁に選ばれたのではなかったか?どうもその辺が納得できない.軍事的組織から見れば、司令官の決定が下されたにもかかわらず、何時までも自分の見積もり計画の採用を叫びつづける『幕僚』のようなものだから、「司令官」の心が休まる事はなかろう.これでは部下兵隊がたまったものではないし、敵の思う壺である.