軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

在外公館に「情報官」

今朝の産経新聞に上記の記事が出た。外務省は「対外情報収集能力の強化を目的として、在外公館で情報収集活動に専従する≪情報担当官≫を来年度に新設する方針を固めた。5年間で100人配置する方針」だという。些か遅きに失した感があるが、今からでも遅くはない。是非充実して貰いたいと思う。
その昔、私がジュネーブ軍縮委員会に出張していた時の事である。2度目の出張を終えて帰国すると、その夏には防衛庁に復帰する事が決まっていたから、時の大使が「慰労のための夕食会」を開いてくれる事になった。急だったのだが理事官が主だった大使館に案内状を出すと8名もの「制服組」が集まった。その時大使が私に言った言葉が忘れられない。
「佐藤君、平和都市ジュネーブにこんなに制服がいるなんて驚いたよ」
平和都市であれ、戦闘都市?であれ、世界の国々は情報活動を欠かす事はない。ジュネーブの我が公館にだけ「駐在武官」がいないだけなのである(その後機会ある毎に意見具申していたところ、軍縮代表部に防衛駐在官が配置され航空自衛官が出向する様になったが)。
米ソは勿論、東西ドイツ、イタリア、ポーランド等など、勿論ソ連は「政治局員」も同行してきた。彼らは「合法的な情報担当官」だが、実際には「非合法活動」を担当する、いわば「スパイ」も常駐している。永世中立国・スイスだから平和都市?と勘違いしているのだろうが、ジュネーブでは米ソ間の「戦略兵器制限交渉」なども行われ、東西対立の狭間だったから、情報担当官の絶好の配備場所として諸外国が見逃すはずはない。現に米国大使館には、外にも中にも海兵隊員が警備担当で常駐している。「のほほん」として諸外国の公館に設置された盗聴装置にも無関心、自国「大使館」も、当時は一般の「マンション」の2室を借り上げたものだから警備も不充分、実に恐ろしく感じたものであった。
当時の在モスクワ日本大使館は、常時盗聴され、監視されつづけていたから例外的に「相当の警戒感」をもって外交官達は勤務していたが、それでも通信課等に現地人の「ソ連人」」が勤務しているので驚いたものであった。
今回の計画で「情報担当官」が配備されるのは結構な事であるが、情報活動の基本からしっかり教育し、昭和16年12月7日にワシントン大使館員が演じた対米開戦劈頭の大失態を払拭すべく、「リメンバー・パールハーバー」を徹底して貰いたいと思う。
「平和国家?」日本のことだから、情報収集の為の非合法活動は当分実施しないのだろうが、早く憲法を改正して、普通の国に脱皮し、これらの活動をも取り入れた「総合的な情報活動」を開始して欲しい。世界に名だたる巨大なGDP国家でありながら、軍事力でその保護が出来ない?以上、情報活動は生きる為の手段である。

  • ところで同じ産経新聞の7面下に、「東京湾放射性物質。60年代のKGB、日米離反狙い計画」という興味ある記事が出ている。冷戦時代に「ソ連工作員らが日米関係を悪化させる為、東京の米国関連施設の爆破や、東京湾放射性物質をばら撒いて米国の原子力潜水艦の責任にする破壊活動を計画していた事が、元KGB職員の故ミトロヒン氏の文書を集めた著書で判明した」というのである。この手の「活動」は今も継続されているのであって何ら驚くにはあたらないが、記事の終わりに「破壊工作以外にもKGBは外務省に協力者を作り、79年までに二人の外務省職員が機密文書を大量にKGBに手渡していた事も指摘されており、冷戦下で日本に情報網を築いていた状況がうかがえる」とある。ソ連は解体して「ロシア」になったが、勿論情報活動は継続されている。将来「脅威」になると分析されている中国は勿論、各界にその手の人物を送りこんでいると見るべきだし、それはブログでも話題になっている「中共工作員に指示した≪日本解放≫の秘密指令」を読めば明白であろう。何も「テロ」だけが脅威ではないのである。

今回の情報機関充実計画は、町村外相が就任後に提案した「特殊な対外情報を扱う固有の機関」設置の第一歩と思われるが、次は「スパイ防止法」など、今まで全く放置されてきた情報に関する法体系整備を小泉・自民党下で速やかに推進して欲しいと思う。