軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中露合同演習を分析する

著作

先月行われた「中露軍事演習」は“無事?”終了したようだが、近代化に後れを取った中国海空軍の強化、並びに近代化推進に主眼が置かれていたことは明白だった。

  • 演習は8月18日からウラジオストックで「戦略協議」、つまり図上演習などが双方の高官などの顔見せを兼ねて行われた。産経新聞8月19日一面の、中国人民解放軍梁光烈総参謀長とロシア軍のバルエフスキー参謀長が整列して敬礼する写真がそれを物語っている。続く20日からシナリオに従って双方がリハーサルを実施したようだが、参加兵力は中国軍が約8200人、ロシア軍は約1800人、装備の詳しい状況は不明だが産経によるとロシア側はツポレフ機など航空機約100機、通常型潜水艦や揚陸艦等艦艇約70隻が参加したようだから、中国側がロシア軍の「ご指導」を仰ぐ演習であったことは歴然としている。
  • 実動訓練は23日から25日まで海上封鎖、着上陸、反抗作戦が行われたようだが、我々自衛隊が普段行う統合訓練と同様な一般的な訓練だったと想像できる。これら、実動訓練に参加した戦力は、上記の海軍艦艇、潜水艦などに加えて、SU-30、JH-7、J-8、それにTU-16をライセンス生産したH-6爆撃機など航空機約20機といわれる。新鋭のSU-30がどんな飛行を実施したかが注目されるが、とにかく中国側は旧式機が多い。着上陸作戦には海軍陸戦隊、反抗作戦ではへりボーンを主とした機械化歩兵師団、空挺部隊のパラシュート降下が実施された。
  • シナリオは、台湾に見立てた山東半島で民族対立が激化し、中露両国が国連の要請に基づき軍事介入するという「平和の使命2005」と称する演習だが、目的はあくまで「台湾の独立を阻止する威嚇」にあったといえる。注目すべきは、当初中国側は演習地を台湾の対岸に当たる浙江省を希望したが、ロシア側が「難色」を示したので、妥協策として山東半島に決まったということである。ロシアが米国に配慮した結果であろう。この演習そのものから特に得るべきものはないが、中国がIL-78,IL-76という大型輸送機を38機(15億$)購入することにしたのが注目される。IL-78空中給油機を装備すれば、わが南西方面は悠々とSU-27/30の戦闘行動半径内に入ることになるし、IL-76は、既にロシア国内での生産は終了した古い機体だが、中国軍の輸送能力を一気に向上させるほか、将来はAWACS機や空中給油機に改造することも可能である。勿論、即時戦力化されることはないが、TU-22Mバックファイアー機の購入を希望していると報じられている事もあり、今後の中国軍の武器購入計画は十分に注目しておく必要がある。
  • ところで、9月10日の産経新聞はじめ各紙にこの演習で8人が死亡したという記事が出た。「アクシデント続出を秘匿している」というロシア紙の報道を伝えたものだが、24日の黄海での上陸演習で、中国軍の63型水陸両用戦車が2両沈没し、計8人が死亡したという。この戦車は1950年代の旧式のソ連製戦車を改造したもので、「余計な大砲を装着したことや豪雨の中、上陸距離が長すぎたことが沈没の原因」という。ロシアの戦車も1両沈没したようだが、こちらの方は8名が脱出して生還、他方25日にも中国軍の落下傘部隊で20名以上が負傷、ロシア軍ではパラシュートが開かなかった兵隊が同僚に掴まって生還したというから「雑技団」顔負けである。その他、ロシア駆逐艦の「暗号兵1名」が行方不明になっているというのも気にかかる。
  • その昔、ソ連軍が西側の武官を招聘して大々的な「渡河演習」を実施した際、武官団の目前で戦車が数台沈没したがそのまま演習は続行され、犠牲者は救助もされなかったという。「さすがは精強な“人道無視の共産軍”だ!」と当時のNATO軍幹部が“賞賛?”したが、実は戦車が渡河する場所の水中には、キャタビラの幅の「橋」がこっそり作られていて、ソ連の戦車操縦士が「橋」を示す「旗」を見損なって踏み外したため水没したものらしい。ソ連軍幹部から言わせれば、救助作戦をすれば「水上?を驀進する戦車のカラクリ」が暴露されるから無視したのだという。今回の事故ではロシア軍は直ちに救助したが、中国軍は全く無視した。それを見たロシア側関係者は「中国では僅か13億分の8に過ぎないからね」といい、ソ連時代の「人道無視」を良く知っている西側記者は「ロシアは民主化され人道主義になった!」と感動したというから面白い。
  • 鳴り物入りで宣伝された演習であった割には、「旧式装備、整備不良、練度未熟だったことを暴露した演習だった!」と旧海軍の大先輩が笑ったが、予算を削られ憲法に縛られ、本来の「祖国防衛演習」よりも他所の国に「出動」させられ、水害や病死した鶏の始末などに扱き使われている我が自衛隊の現況を見ると、決して笑えたものではないと思うのだが・・・