軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

米軍再編問題と沖縄基地問題

国会での論戦が始まったが、今日の産経新聞の「社会面」は、戦後日本のモラル崩壊を示して余りあった。30面には、比較的軽易な記事が掲載されるものだが、今日は「北九州7人連続殺人事件」の「死刑判決」記事が大きく紙面を占めた。しかし、「厚生労働省不正経理事件」や、高校野球界の「不祥事件」、「静岡の主婦バラバラ殺人事件」、横浜の「大学生刺殺事件」などが、「楽天球団の黒字」や、宇宙飛行士・野口さんの記事を圧倒した。主婦や大学生殺しの記事は、ベタ記事扱いだから、いかに殺しが多いかを示している。
いわゆる「3面記事」を扱う31面も、当て逃げされたらしい「秋刀魚漁船転覆事故」、右翼による明治神宮宮司「脅迫事件」、大阪での「発砲事件」、岸和田での「警官拉致発砲事件」、奈良での「エアガン発砲事件」、3等空曹の「覚せい剤事件」と、ほぼ全面「暗い報道」ばかりで、一体この国はこれからどうなるのだろう?と心配になる。
憲法改正教育基本法改正が叫ばれて久しいが、政治の怠慢が続く中、確実に日本社会は「崩壊への道」を辿りつつあるということだろう。

  • 昨日は台湾問題を中心とするシンポジウムに参加したが、一般国民の安全保障問題に関する関心は、着実に高まっていることを痛感する。パネラーの一人であった林建良氏(台湾人医師)は、中国からの威嚇におびえる台湾と日本の状況は、自国の軍事力に自信がなく、全て米国の軍事力に期待しているところが「瓜二つだ」と語った。更に日本の外交力はきわめて脆弱だが、それは外交の陰には語るにオチルような問題が実は大きな比重を占めていることに気がついていないからだ、というのである。つまり外交は「会議」以外に、金、酒、女という、古来からの「武器」が暗躍していることを、日本政府は知ってか知らずか全くといっていいほど考慮に入れていないのは不思議だというのである。中国古来の「謀略」は、軍事力だけではなく「対日謀略指針」に示してあるような戦法で着々と進められているというのだが、まさに我国の外交は「御坊ちゃん外交」というべきであろう。政治の延長としての「軍事力」を有効に使えない日本外交は、いかにあるべきか!
  • ところで産経新聞の一面下に、日米首脳会談が11月14,15日で調整が進んでいると出ていた。我国の存立に深く関わっている「日米安保」の将来を占う、米軍再編合意はリミットである。そしてそのメインである「普天間基地移設」問題の解決は急務である。私が沖縄勤務時代の平成8年に合意されたものだが、未だに二転三転して決定されていないのだから実に無責任極まりない。米国はこの問題を日本の誠意を計るものとして注目しているから、11月の日米首脳会談で決定されなかった場合には、日米安保は大きな転換期を迎えることになろう。記事によると①当初の計画を縮小してキャンプ・シュワブ寄りの浅瀬にヘリポートを建設する案②シュワブの兵舎地区と一部海域を埋め立てるか、内陸部の演習場にヘリポートを新設する案が主に検討されているというが、双方の案共に米軍側と防衛庁側がねじれ現象を起こしているという。
  • 平成8年に普天間基地返還が橋本・クリントン会談後「突然」公表されたとき、沖縄は揺れに揺れた。大部分の沖縄県人、もとより「米軍基地地主」にとっても、正に「寝耳に水」だったからである。私は誰がこのような非現実的な案を首相に「進言」し、日米間を混迷に落とし入れたのか未だに不思議に思っている。確かに普天間基地は、北側の嘉手納基地と、南側の那覇基地にはさまれた、いわば「団子状態」であったから、航空管制上は大きな障害になっていたことは事実である。
  • しかし、当時2328人いた普天間基地提供地主の、実に69・8%に当たる1624人は継続契約していたのである。反対していた704人は、統計上確かに30・2%を占めていたが、土地面積で言えば僅か0・4%の約6000坪に過ぎなかったのである。つまり反対派の大部分は「一坪地主」とは名ばかりの「ハンカチほどの面積」に過ぎなかった。沖縄所在の米軍基地全体についても、契約拒否をしたのは3081人で全体の12・6%と朝日新聞などは大々的に報道したが、契約を完了していたのは87・4%の21271人であり、基地面積の実に99・7%を占めていた。3000人余が所有する土地は僅か0・3%に過ぎず、現地では一坪地主ならぬ「絵葉書地主」と呼ばれていた。どこでどうしたものか、このような現地の実情を考慮する事無くいきなり「普天間基地返還」は公表されたのだから、地主は「パニック」に陥ったのである。普天間基地を抱える宜野湾市も返還後の都市開発計画があったわけではなく、しかも地主個人個人の登記簿には不明な問題もあったから地元も混乱した。返還されたら、土地の実態との不整合問題が新たに発生するからである。航空管制上も、勿論基地問題上からも、普天間基地のあり方については十分検討されるべきであったろう。
  • その上更に「浮体構造物」という“実験基地構想”が起こったのだから地元企業は怒りに燃えた。建設時は勿論、台風で被害を生じても修理する技術がないから地元の利益にならないからである。つまりこの「基地返還!というパフォーマンス」は、ヤマトンチューに対するウチナンチューの不信感に火をつけたのである。板ばさみになった現地の防衛施設局は気の毒であった。施設庁長官が説明に行くと“切れた首相”は「現地へ行け!」と怒鳴るだけであったというから何をか況やであった。行きがかりがどうであれ、国家間の合意事項であるから、決着はつけねばならない。このまま「だらだら」と「会議で踊ってばかり」では、牛肉輸入問題と絡めて米国民に対日不信感が沸き起こる可能性がある。そしてそれを期待しているのは他でもない、中露両国である。ロシアも北方領土は返さない!と威張っている。産経は「11月までに方向性が決まらなければ首脳会談の開催も危ぶまれる(政府関係者)」と締めくくった。国連問題、拉致問題など、外交は八方ふさがりである。

この国の安全保障の根幹をなす最重要課題として、普天間基地問題を、新生小泉・自民党は全力で解決して欲しい。